夏の日、ママの計画で旅行に出かける ④
「わぁ」
船に乗り込んだだけで、わたしは嬉しくなった。
こういう船に乗るの初めてだから。それにしても海に行ったときは魚人の国に連れて行ってもらったり、魔法で浮いたりとかで過ごしていたから、船って不思議だなって思う。
これだけ大きくて、人を乗せて移動するんだよね。うん、凄い。一流の船乗りは風を読んだりするんだって! ちなみに今回、ママは魔法が使えることは告げて乗せてもらったみたい。
もちろん、魔導師で凄い魔法使いだってことは秘密みたいだけど。
というのもこういうお仕事で使われる船にはそういう理由の方が乗りやすいみたい。海には魔物もいるし、わたしは遭遇したことはないけれど海賊っていう人たちがいるんだって。
そういうのに襲われると大変だから船での移動の際は護衛が雇われるしい。わたしが船に乗ったことがないからって、折角だからとこういう風にしてくれたみたい。
冒険者の人たちも何人かいたよ。いつも雇われている人たちなんだって。
ちなみにママは船に乗せてもらうことを条件に、ちょっと抑えた値段で護衛につくことにしたらしい。本来魔法師を雇うともっとお金がかかるからって船員たちは喜んでいた。
数日間かけて、実際に運航されている船で過ごせるのって色んな経験が出来そうだなって楽しみ。
船旅で過ごす部屋は、大きめの部屋を一室与えられている。家族三人で過ごせる部屋なのだけど、ベッドが二つしかないのでパパとママに一緒のベッドで寝てもらおうかなと思ったらママってば恥ずかしがるんだよ! ママは可愛くて美人なんだから、もっと距離を詰めればパパもドキッとしたりしないのかなーって思っているのに。
そういうわけでわたしが日替わりでパパとママのベッドで交互に寝ることになった。
「ねぇねぇ、ママ。風が気持ち良いね!」
船旅が始まったその日は、とても天気が良かった。
太陽が空に顔を出し、あたたかな日差しが差し込んでいて海面がキラキラしている。たまに魔物の姿が見えるけれど、船を襲ってこない魔物に関しては放っておくものらしい。
今、わたしたちが乗っている船は結構な大きさだと思うのだけど……、この船を転覆させたりしようとする魔物もいるってことなのかなぁ。パパとママがいるからこの船が沈むことはまずないけれど、怖ろしい魔物に襲われて船が沈むなんてことになったらまず乗っている人たちの命は助からないものらしい。
泳げない人はまず溺れてしまうし、海には魔物も多く襲われてしまうだろう。それに冷たさで凍えて死んでしまったりもする。
この広い海には、沈んでいってしまった船の残骸もかなり残されているらしい。
魔法が使えれば自分の身体を浮かしたり、凍えてしまわないように温めたりというのは出来る。でも魔法を使えない人にとっては海というのはそれだけ危険度が増すとパパもママも言っていた。
例えばわたしは船から落ちたとしても魔法で身体を浮かせられるし、パパとママが助けに来られるまで待つことが出来るけれど、こうやって海に出て長く海で過ごしている人たちは落ちたら死んでしまうかもしれないのにこういう仕事をしているってことだよね。凄いなぁと思う。
こういう危険を伴う仕事は、その分稼げるお金が大きかったりするんだって。
仕事を選ぶ際って、そういう条件とかを見てどれを選ぶんだろうなと思う。
「晴れている日の船旅は安全でいいわよね」
「天気が荒れていると大変なの?」
「ええ。天気が荒れているとそれだけで危険だわ。海が荒れて、その分、魔物たちだって予想外の行動を起こしたりするもの。今回は天気が荒れることはないから安心していいわ」
ママは事前にこれからの天候も確認しているみたいで、自信満々にそう言って笑っている。
そうやって笑ってもらえるとなんだか凄く安心できる。だってママが言うならそうなんだろうなって思うもん。
「ママ、あの小さな岩? 島みたいな感じなところにも生物いるんだね」
海には岩みたいなのもごろごろ転がっている。その岩にもちょっとした鳥の魔物が止まっていたりして、面白いなって思った。
このあたりはそういう岩も結構見られた。大きいものから、小さいものまでいろいろあるみたい。一つ一つに名前がついていたりするんだって。その中でも一番大きな岩には海の守り神に対する逸話があるらしくて、小さな社のようなものがあった。無事に海から陸地に戻れますようにという祈願をこめてそういうものを建てたのだろうか? ああいう場所に何かを建てるってそれだけの思いがあるってことだよね。
「ママは船って結構乗ったことあるの?」
「昔はね」
魔法を自由自在に使えるようになったからこそ、ママは船になんてわざわざ乗る必要もなかったのだろう。
パパは部屋でのんびりしているのでわたしとママの二人で会話を交わしているのだけど、パパも久しぶりの船旅なんだろうな。
それにしても船は馬車よりも結構揺れる。
魔法を使っているからわたしは具合悪くはなってないけれど、商人の一人は具合悪くなっていたみたい。それでそういう人たちは休んでいた。
波の動きとかでこんなに揺れるんだなってびっくりするよね。




