夏の日、ママの計画で旅行に出かける ①
「んー…」
目を覚ます。
寝ぼけながらベッドから起き上がる。
顔を洗ってから今日はどの服を着ようかと悩む。沢山洋服を持っているから、どの服がいいかなとかんがえるのは凄く楽しい。
黄色いワンピースに着替えて、窓を開ける。
今日は天気が良い。
屋敷の中は魔法具のおかげで涼しいけれど、外から暑い空気が漂ってきて夏を感じさせた。とはいってもわたしたち家族が住んでいるのは山の上だから、結構涼しい方だけれど。
朝から鼻歌を歌うのも大好きなので、今日も歌を口ずさむ。
色んな種類の歌を覚えられると嬉しくなるよね。私が楽しく歌っているとパパもママも一緒に口ずさんでくれたりして楽しいの。パパもママもわたしの歌を褒めてくれるもん。
褒めてもらえるとわたしは嬉しくなって、沢山歌ってしまう。
三度目の夏。
今年はどんな思い出が出来るかな?
そういうことを考えるだけでわたしは楽しみで仕方がない。
去年はパパと一緒に海に行って、街で祭りを堪能して、楽しかったなぁ。今年は去年とは違ってママも一緒だからきっともっと楽しくなるよね。
そんなことを考えながら、朝食の準備をするために台所へと向かう。
「ママ、おはよう」
「ベルレナ、おはよう」
ママに挨拶をすれば、ママも笑ってくれる。
「ねぇ、ママ。昨日届いた手紙にね……」
わたしはママとお話をしながら、朝食の準備をしている。
昨日、エルシーから手紙が届いていた。エルシーとは時々手紙のやり取りをしているのだけど、エルシーは字も可愛かった。なんだか丸っこい感じで、女の子が書いたんだなって文字で、わたしはそこまで可愛い文字は書けないからいいなぁって思った。
エルシーからパンのレシピを教えてもらったので、早速そのパンを作ったりもしているの。
パパとママも美味しいって喜んでくれているから、エルシーに「教えてくれてありがとう。パパとママも喜んでくれた」と手紙で返事をしたの。わたしは色々勉強をしていて、色んなことを少しずつ知っているつもりだけど、パンについてそこまで詳しくないから教えてもらえてうれしかった。本で学ぶだけでは分からないこともあるから、こうやって作れるパンの種類が増えるのもとても良いことだよね。
「ベルレナは本当に人と仲良くなることが得意ね。色んなところで沢山の友達を作っていて凄いと思うわ」
「わたしがね、遊ぼうって言ったら皆遊んでくれて友達になってくれたの! 笑って話しかけたら皆仲良くしてくれるの」
ママはわたしを凄いなんて言うけれど、わたしはただ仲よくしようと話しかけてお友達になっただけなのでそう言われることが不思議に思った。
「誰にでも屈託なく話しかけて、そのままお友達になるでしょ? そういうところがベルレナの凄い所だと思うわ。そういうベルレナだからこそ、私も好きだもの」
「ふふ、ありがとう。ママ! わたしが今のわたしなの、パパのおかげなんだよ。わたし、身体を奪われた時、自分がしたいことをしたいっていうのをちょっと躊躇ってたんだよ。でもパパがわたしはやりたいようにすればいいって言ってくれて、背中を押してくれて――だからわたし、今のわたしがいるんだよ。パパがわたしのパパじゃなかったら、わたしはもっと人に嫌われたらって怖がって全然話しかけるの出来なかったかもしれないもん」
ママと話しながら、今のわたしが居るのはパパのおかげだと改めて思う。
わたしは身体を奪われた後、二年間ずっとベルラ・クイシュインとして生きるあの子のことを見ていた。わたしが居ないことに誰も気づくことなく、わたしよりもあの子がいいと皆言っていた。そういうのを見続けていたから、わたしはパパに拾われて時に最初は遠慮していた。パパに嫌われたくないと。でもパパがわたしはわたしのままでいいと、やりたいことを口にしていいって言ってくれたから。
――うん、そうじゃなかったらわたしは誰かにためらいもせずに話しかけるなんて出来なかったと思う。
パパがわたしを大切にしてくれていて、何があってもそれが揺らがないと知っているから――だからわたしは今のわたしなんだ。
「ベルレナもディオノレも互いに出会えてよかったわね」
「わたしはパパに出会えたから幸せだけど、パパもかな?」
「それはそうよ。ディオノレはベルレナに出会えたから父親として幸せよ」
「ふふっ、なら嬉しいなぁ」
「……それにしても何度聞いてもその身体を奪った子が好き勝手しているの、ちょっと複雑だわ。やっぱり報復する?」
「駄目だよ、ママ! ママがわたしのことを大切に思ってくれているからそう言っているんだろうけれど、わたしは今幸せだからそういうのは要らないの。逆にママがそういう行動して、周りから嫌われたりするの嫌だもん」
ママが物騒なことを言いだしたので、慌てて止めた。
ママは不満そうな顔をしていたけれど、頷いた。
「分かったわ。でも報復が必要ならすぐに言ってね。私もディオノレも全力で力を貸すから」
「そんな時は来ないと思うけど……まぁ、うん、なんか大変なこととか起きたらちゃんと全部パパとママにいうからね」
そんな会話をしながら、朝食が終わった。
パパはそうしているうちに起きてきた。
それから三人でおしゃべりをしながら、朝食を食べる。
「ベルレナ、もう少ししたら旅行に連れて行こうと思うけれどいいかしら?」
そして朝食が終わって、書庫に向かうとしたときにママが突然そういった。




