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パパとわたしと我儘の話 ②

 わたしはパパがどうしてそんなことを問いかけるのか分からなかった。



 ……もしかしてやっぱり我儘なわたしに気づいて、パパもわたしのことを嫌いになってしまったのだろうか。そう思うと悲しくなった。

 パパのことが大好きだから、パパにわたしは嫌われたくない。

 悲しくて、悲しくて……ぽたりと涙がこぼれてしまった。




「ベルレナ!?」



 パパはわたしが泣いたことに慌てたようにわたしの方に来る。そしてわたしの身体を抱きしめてくれた。



「パパ、パパ……ごめんなさい」

「……なんで謝るんだよ。別にお前は何も悪いことしてねーだろうが」



 パパがそんなことを言うからわたしは驚いて涙を止めてパパを見る。



「パパ、わたしのこと、嫌いになったんじゃないの?」

「は? なんでだよ。別に嫌う理由はないだろ」

「じゃあ、なんで我儘の話するの? わたしが我儘だから嫌いになったんじゃ……」



 パパがわたしのことを嫌いじゃないと言ってくれて、わたしは嬉しかった。だけど、それならどうしてパパがそんなことを言ったのか分からなかった。




「は? なんだその結論は。ベルレナは全く我儘じゃないだろう。寧ろ子供なのに我儘なんて欠片も口にしなくて、いい子過ぎるだろう。……ニコラドも言っていたけれどな、子供はな、我儘なものだろう。お前が子供なのに全く我儘を言わないから俺は何で我儘を言わないのかと聞いているんだ」

「……わたし、いい子?」

「ああ。いい子だな。俺の手を煩わせることもなく、我儘なことも言わずにいい子過ぎる。だからもっと我儘を言え。お前は俺の娘になったんだろうが。娘は親に甘えるものだって聞いたぞ」



 パパはそんなことを言う。



 わたしをいい子だと言って頭を撫でてくれて、わたしはいい子過ぎるからもっと我儘を言えなんていう。わたしはパパの娘だから、甘えていいのだとそんな風に――。



「でも……パパ。わたし、我儘だよ。とっても我儘だから嫌われたの。パパに嫌われたくない」



 パパはわたしをいい子だと口にするけれど、ベルラだった頃のわたしは悪い子だった。

 身体が変わったとしてもわたしの中身は我儘な悪い子なのに。



「嫌わねぇよ。我儘が過ぎるならちゃんと注意するしな。それに我儘を言って嫌われるかもなんて怯えている子供がそこまで我儘になるとは思えないしな。……つかお前がそんなに卑屈なの、神の悪戯のせいか?」

「……うん。だってわたしからあの子に変わって、皆喜んでいた。わたしが我儘だからって。わたし、嫌われているの知らなかった。だから、ショックだった。わたし我儘だから皆に嫌われてたの」



 自分で人から嫌われていたと口にするのが悲しかった。

 誰かに嫌われるというのは怖いことだ。誰も自分の味方がいないということは、怖い。わたしをいい子だと言ってくれているパパもわたしが我儘な子だと知ってわたしのことを嫌いになったらどうしようか。




「パパ……わたしのこと、嫌いにならないで。わたし……パパ、大好き。パパに嫌われた……ら」



 途中からまた泣いてしまった。



 パパに嫌われたくない。パパのことが大好きだから。パパに嫌われたらどうしたらいいか分からない。

 そう思って泣いてしまうわたしは、パパにとって面倒な娘になっているかもしれない。これでパパに嫌われたらどうしようと思ったら頭を優しく撫でられた。



 驚いてパパを見上げる。


 パパは今まで見た事がないぐらい優しい顔をしていた。パパがそんな表情をわたしに向けているというだけで驚いた。




「嫌わねぇよ。……ベルレナとの生活は、俺も嫌いじゃないしな」

「……それ、パパ、わたしのこと、好きってこと?」



 そう問いかけたらパパは無言になった。

 やっぱりパパはわたしのことが嫌いなのだろうかと、じわりと涙があふれる。



「……おう」



 パパはそれを見てそれだけ答えた。



 パパはわたしのことを好きだとは言わなかったけれど、それでも肯定してくれたことが嬉しかった。パパは照れたようにそっぽを向いている。だけど手はわたしのことを抱きしめ、撫でてくれている。



「わたしも、パパ、大好き!!」

「……そうか」

「うん!!」



 パパが照れてる!! そう思うと何だか楽しくなってきた。パパはわたしのことを嫌っていないと知って安心したのもあると思う。



「それでだな。ベルレナ。さっきの話に戻るけれど、もっとお前は我儘を言っていい。俺はちょっとお前が我儘を言ったぐらいでお前を嫌わねぇよ。そもそもベルレナはまだ子供だろう。その魂の年齢だって子供だ。そんな子供が少し我儘を言ったぐらいで俺は嫌うほど大人げなくはないしな」

「……でも」

「そんなに躊躇うな。お前は俺の娘だろう。娘の躾をするのは親の仕事だろ。ちゃんと俺に仕事させろ。もっとあれがしたいとか、これを欲しいとかなんでも言えばいい。流石にやりすぎだったら俺は注意するけれど、そうじゃないなら幾らでも聞いてやるぞ」

「……パパ、わたしのこと、甘やかしすぎじゃない?」



 抱きしめられたまま告げられた言葉に、わたしは思わずそう口にしてしまう。

 パパは一見すると冷たいように見えるのにやっぱり優しい。それにパパの言葉はわたしを甘やかすための言葉だ。



「お前は俺の娘だからな。娘は甘やかすものだろう」

「……でもわたし、魂は違うよ?」

「魂が違ってもこの三か月で俺はお前を気に入っている。気に入らなければさっさとどうにでもしているさ」

「……パパ、優しい」

「俺は優しくはないぞ。過去には悪魔だとか言われたこともあるしな」

「その人、見る目ないよ。パパ、優しい。天使様だよ。わたし、はじめてみた時もパパのこと、天使様みたいって思ったもん」

「ははは、俺のことを天使様なんていうのはベルレナぐらいだろうな」




 パパはそう言いながら笑って、わたしの頭を撫で、わたしの身体を離す。そしてかがみこんで、わたしと視線を合わせていう。




「ベルレナ、もっと我儘を言えよ。俺は親としてそれを聞いてやるから」

「……うん」




 我儘を言っていいのだろうかという不安はある。だけどパパが我儘を言っていいと笑ってくれるから、わたしはその言葉に頷くのだった。


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