ニコラドさんと一緒に材料集め ⑬
魔力回路を描くというのは、魔法具に図を描く行為である。
回路をつなげ、効果をもたらす。だけどただ描くだけでは思い描くような効能が出るわけではないのだという。
素材と杖を繋げるために魔力回路を描くわけだけど、魔力回路を掘って、その掘った穴に特定の液体を流して固める。もしくは魔力を通す液体で魔力回路を直接魔法具に描く。そういう風にする必要があるみたい。
そういうわけで魔力を通す液体を手に入れなければならないの!
「ベルレナ、そこに生えているものを採取しろ」
「この植物?」
「そう。それが材料になるから」
ニコラドさんに言われて、水辺に生えている植物を採取する。これが魔力回路を描くためのインクのような役割になるって凄く不思議。
そういう魔力回路を描くためのインクはマジックインクというらしい。
街では高額で売られていたりするんだって。わたしはニコラドさんに連れられてこうして簡単に採取が出来ているけれど、転移の魔法が使えないとこういうところにはまず来れないから。
こういう人気のない所に生えていて、入手のしにくい植物は冒険者の人たちが依頼で集めたりもするらしい。
「この植物を栽培している専門家もいるが、基本的には野生で生えているものを使った方が効果がいいんだ」
「へぇ。こういうの栽培している人いるんだ」
「ああ。それで富を得て成功している一族もいるぞ」
こういう魔力回路を描くためのマジックインクに関しては、とてもお金になるものみたい。
わたしは人里離れた山の中でパパとママと暮らしているから、富を得ている一族と言われてもぴんと来ないけれど、一部では凄く有名な一族みたい。
学園に入学するまでに同年代の子たちが知っているようなことは知っておくべきかな。なんて思った。
「ニコラドさん、魔力回路を描くのってマジックインクがあれば出来るの?」
「そうだな。ひとまずマジックインクがあれば描けは出来る」
「そうなんだ。この植物をインクにするってどうやるの?」
「すり潰して特定の材料と混ぜ合わせれば完成する」
ニコラドさんはそうやってわたしに説明してくれる。その特定の材料に関しては、魔物からとれるということで植物を採取した後にその魔物の元へも連れて行ってもらった。
それにしてもこういうものってお金があれば買おうと思えば買えるものなのだろうけれど、実際に材料を集めるとなると大変なんだって今回の材料集めで思った。
転移の魔法が使えるということはそれだけ色んな場所に行くことが出来て、本当に凄いことなのだ。
転移の魔法がなければ杖の材料をこんな風にすぐに手に入れたり出来なかっただろうし。
わたしはニコラドさんに連れて行ってもらった場所が正確に何処にあるかちゃんと知っているわけではないけれど、自分の足で歩いたり、馬車で移動となると本当に驚くぐらい時間がかかるものだと思うから。
「材料も集まったし、屋敷に送り届ける」
「うん。ありがとう、ニコラドさん!! 実際に杖づくりをするのは、また後日?」
「そうだな。俺も予定があるからその後、また時間が出来たら屋敷に行く」
ニコラドさんはやっぱり色々忙しいらしい。
パパやママとは違い、色んな人と関わりながらニコラドさんは生きている魔導師なので、その分色んな予定があるんだろうなと思う。それにニコラドさんには子供や孫もいるし。
「我慢できなかったらディオノレやジャクロナに見てもらって杖づくり進めててもいいが」
「それは我慢する! だってパパとママを驚かせたいもん」
折角、パパとママを驚かせるって決めたんだもん。
確かにすぐに杖づくりに取り取り掛かりたいという気持ちも強いけれど、一度決めたことだから我慢するの。
「そうだな。あの二人が驚くようなものを作れたら楽しいだろうな。あいつらも娘の成長に感激することだろう」
その様子を思い浮かべているのか、ニコラドさんは楽しそうに笑っていた。
それからわたしはニコラドさんに屋敷に送り届けてもらった。
ニコラドさんと一緒に材料集めをするのはいつもと違う感じでそれはそれで楽しいけれど、やっぱりわたしにとって一番安心できて大好きな場所はパパとママがいる屋敷なんだなってそう思った。
パパとママには材料集めのことを聞かれたけれど、「まだ内緒!」と言っておいた。
ユキアにはニコラドさんとどんなふうに材料集めをしたのか沢山話したけどね。
次にニコラドさんが来るときは、ようやく杖づくりの開始だと思うとワクワクしてならない。




