ニコラドさんと一緒に材料集め ⑪
「ニコラドさん、今回は何処に何を探しに行くの?」
「魔力を回復させる効果のある材料を集めに行く。色々あるけど、どういうものの方がいいかな。色々集めて使わなかったものは取っておくでもよさそうだが」
わたしはニコラドさんと話している。
この前は火山巡りで火属性の魔石や火山に住まう魔物の素材を沢山手に入れた。次は使用者の魔力を回復させるための素材集めにつれていってもらえるみたい。
あとは他にも魔力回路を描くために必要なものも、自分で集めた方がいいからってニコラドさんは一緒に集めてくれるみたいだ。
わたしはパパとママに「行ってくるね」と声をかけてからニコラドさんの転移魔法で移動した。
転移させてもらったのは、大きな樹の前だった。わたしが生きているよりもずっと昔からあるんだろうなって分かる。そんな壮大な雰囲気の、巨大な樹。
今回はこの樹を座標にして転移をしたってことなのかな?
それにしても今いる場所は、崖の上みたい。地上よりもずっと高い所にあって、見下ろすとずっと下に地上があってびっくりした。
「こんな高い所にこんな大きな樹が生えているのってすごい!!」
「ははっ、めちゃくちゃはしゃいでるな」
「だって、凄いもん!」
訪れたことのない、見たことのない光景を見るとわたしは凄くワクワクする。こんなところに生えているなんて不思議だよ!
樹の上には小さな鳥の姿をした生き物がいて、こちらを襲って来ようとはしていない。
「ここは一部では夢の大地なんて言われている場所だな」
「夢? なんで?」
「このあたりには豊富な植物が沢山生えているんだ。それこそ瀕死の者を即座に回復させるようなものだったり、接種しすぎると人に悪い影響を与えてしまうような力強いものだったり――。この樹だってそうだ。この葉っぱ一つで、一生暮らせるだけの富が手に入るな」
「えー? これ、そんなに凄いの?」
「そうだな。ここが夢の大地と呼ばれているのは昔、近隣の国に疫病が流行った時に神に導かれて、この地に辿り着いた少女が薬草を持ち帰り国を救ったみたいな逸話があるからだな」
「神様?」
「おそらくそれは精霊か何かのことをさしていると思う。要するに精霊と契約していた少女がこの地に辿り着いて持ち帰って救ったっていうそれだけの話だな。ただここは来るのが大変な場所だ。そういう逸話が実際に残っているのに誰もその後たどり着けることのない場所――だからこそここは夢の大地と呼ばれている」
ニコラドさんの話してくれた話はとても興味深いものだった。
色んなお話が各地に伝わっている。嘘か本当かも分からないような興味深い話が沢山そこにはあって、そういう本当は存在しないのではないかって思われているものが目の前に広がっているのは凄く心が躍ることだ。
それにしても精霊を神様扱いかぁ。
わたしにとって精霊は身近な存在で、精霊の里に連れて行ってもらった時はいつも楽しく遊んでいる。
だけど精霊の姿は一般的には見えないものだからこそ、そういう風に伝わっているのかもしれない。
わたしが親しくしているシルヴィーさんだって、もしかしたら誰かにとっての神様みたいな存在だったりするんだろうか?
「なんかすごく面白いね! ここに魔力を回復させるようなものがあるの?」
「ああ。魔力を回復させる効果のある薬草が生えている。あとはそういう効果を持つ土とか」
「いっぱいあるんだね」
「そうだな。いくつかある」
「杖の材料に出来るものが色々あるんだね。それにしてもこのあたりって襲い掛かってくるような魔物の姿がないね」
全然こちらに襲い掛かってくる気配のない、そういう魔物しかこの場所にはいないように見えた。
大体自然豊かな場所だと大抵沢山の魔物が住んでいて、その魔物が襲い掛かってきたりするものなのに。なんというか、此処で生きている生物たちは凄く穏やかな気質みたい。
「ここの魔物たちに襲われたことはないな。どういう理由かまでは俺もちゃんと調べたことがないから知らない」
「ニコラドさんも知らないことなんだ!」
「なんだかベルレナ、嬉しそうだな?」
「だってニコラドさんが知らないことを、わたしが解き明かせたらきっと楽しいでしょ! またやりたいことが増えたの」
なんでも知っているような魔導師の一人であるニコラドさんの知らないこと。それを見つけたならばわたしが全部調べられたら楽しそうって思うもん。
わたしの言葉にニコラドさんはおかしそうに笑っている。
「本当にベルレナは魔導師向きの性格をしているよなぁ。よく考えてベルレナ自身が決めるべきだろうけれど、俺はベルレナが魔導師になったら楽しいと思う」
「ニコラドさんはわたしに魔導師になって欲しいの?」
「出来ればな。ディオノレにとってもその方がいい。それに俺もベルレナが死んだら悲しいからな。ただディオノレが言っているように魔導師になるなら色んな人においていかれることになるから、その辺はベルレナが決めることだな」
「んー、というか魔導師ってなろうとしてなるものなの? なりたくないからってやめるものなの?」
「ベルレナが魔導師になりたくないなら、魔法を極めることをやめればいい。魔導師は確かになろうとしてなるものじゃないけれど、ベルレナはなろうと思えばなれると思う」
ニコラドさんはわたしの疑問に対してそう答えた。