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幕間 身体を奪ったあの子 ⑨

「……どうなるのかしら」



 私は最近、乙女ゲームのことをずっと考えている。まだ学園に入学するまで時間があるとはいえ、少しずつその時は近づいてきている。



 勉強は優秀だと褒められる。でも魔法はそれなりにしか使えないままだ。

 ガトッシ殿下は何処か焦っている私を見ても「ベルラはそのままでいいんだよ」とそう笑ってくれた。

 私の焦っている気持ちも、敏いガトッシ殿下にはばれてしまっていた。だからこの前、「どうしてそんなに焦っているのか」とそんな風に聞かれた。私はそんな風に焦っているつもりはなかったけれど、学園に入学する時が近づいてきているのにやっぱり現実は上手くいかないこともあるのだとそういう焦りがあるのだと思う。



 乙女ゲームの“ベルラ・クイシュイン”が出来たことを私が出来ないこと。それに歯がゆい気持ちになる。



 私は王太子であるガトッシ殿下の婚約者として周りから認められている方だと思う。私を慕ってくれる人も多くて、自分の努力が実っているのだと嬉しい。けれど、火のクイシュイン家と呼ばれているこの家の令嬢なのにその魔法を上手に使えない。そのことを欠点として色々言ってくる家は少しは存在する。それが私の唯一の欠点だと、そんな風に囁かれている。……勉強は頑張ればどうにでもなる。でも魔法の才能や適性はどうにもならないのかなと思うことがある。それでも私は魔法の練習を続けているわけだけど。




「ベルラ様、そろそろお時間ですよ」

「……ええ」



 今日は二回目の魔物退治。



 魔法を使える者は貴族が多い。だからこそ有事の際に貴族は領民を守るために戦うこともある。必要なことだと分かっていても、やっぱり気が進まない。

 ……戦うことに忌避感を覚えてしまうのは、私に前世の記憶があるからかもしれない。




 馬車に揺られて、護衛たちと共に向かう場所はクイシュイン家の領地内にある森。

 お兄様もここで魔物退治の実戦を積んでいたのよね。その森には比較的おとなしい魔物しかいない。

 ……その大人しい魔物を、必要なこととはいえ倒すことが正直私は怖いなと思ってしまう。

 こんなことで怖いなんて思っていたら乙女ゲームでのイベントが来た時に困ってしまうのに。



 護衛たちが誘導してくれた魔物相手に魔法を放つ。

 火の魔法は上手く使えないので、水の魔法を使った。その魔法をぶつけて、魔物の動きが止まる。その命が失われたのを見ると、吐きそうになった。



 まだ魔法を使っているからこの程度で済んでいるけれど、武器で倒すだともっと自分がその魔物を倒したという実感がわいて気持ち悪くなっただろう。

 魔物は時折人の命を脅かすから、退治することは悪いことではないとは思う。それでもあんまりそういう戦いの場は見たくないなと思ってしまう。

 私が倒した魔物は護衛たちが回収してくれた。その魔物はあんまり素材としても使えないらしく、そのまま焼却処分されるらしい。




 お父様やお母様、お兄様は私が魔法を上手く使えないのも、魔物退治で気分が悪くなっているのも「ベルラは優しいからね」と言って慰めてくれる。

 公爵令嬢である私が戦いの場に行くことなんてないって、そう家族は言ってくれたけれど私は知っているのだ。




 乙女ゲームが始まったら、そういう事態があるのだと。



 ヒロインが攻略対象と仲良くなるためのきっかけとなるイベント。それでベルラ・クイシュインも戦いの中に放り込まれる。その時のためにも私は戦えるようにならなければならないのだから。



 とはいえ、この転生した世界が乙女ゲームと同じように全てが進むわけではない。

 私が火の魔法が使えないこともそうだし、ネネちゃんとアルバーノと仲良くなれないこともそう。フラグを折るために私自身が行動した結果、変わったこともある。だからそのイベントだって本当に訪れるか分からない。ただそれが来た時のために私は努力しなければならない。




 私は守護鳥のことを考える。

 私に守護鳥を呼び出すことが出来るのだろうか。……ううん、出来るはず。私はベルラ・クイシュインだもの。だから、守護鳥も私の呼びかけに答えてくれるはず。だって乙女ゲームのベルラの呼びかけにも答えたんだもの。恋のためではなく、皆のために呼び出そうとする私の声に答えてくれないはずがないもの。

 魔物退治を終えた後、少しだけ調子が悪くて……私は予定を一部キャンセルして休んだ。



「ベルラ、大丈夫か? 無理をしなくていいんだぞ」




 私が休んでいると、心配したお父様が部屋にきてくれた。




「……お父様、すみません」

「ベルラ、自分で戦うことが難しいのならば使い魔と契約をするのもありだと思うが」

「そうですわね。……使い魔が居れば、戦闘も楽になりそう。でもちょっと代わりに戦ってもらうの気が引けます」

「ベルラは難しく考えすぎだよ。使い魔と契約して戦わせるなんて皆よくやっていることだ。ベルラはやりたくないなら戦闘訓練自体やらなくてもいいんだ。でもベルラは何か理由があってそれを続けたいんだろう? なら、使い魔と契約するのも一つの手だと思う」

「そうですわね……。お父様、私は理由は言えないけれどある程度力をつけておきたいと思っているのです。でも私は思ったように魔法が使えなくて……。それにつれて行ってもらった魔物退治でもこんな風にふがいない姿を見せてしまって……。私が頑張って結果を出せたらと思ったけれど、そうも言っていられません。私に使い魔をください、お父様!」




 私は自分が“ベルラ・クイシュイン”だから努力をすれば、魔法だってもっと上手くいくと思った。乙女ゲームのベルラは堂々としていて、戦闘の場でも全く怯んでいなかった。

 転生者である私はもっと上手く出来るってそう過信していたのかもしれない。そんなつもりは私にはなかったけれど。



 でもお父様と話して、自分で結果を出すことばかりをこだわっていても仕方がないと思った。





 乙女ゲームのベルラは使い魔なんてもっていなかった。けれど私は使い魔を持つことを決めた。

 こういう変化は、乙女ゲームにどんなふうに影響をするのだろうか?

 悪い風に影響しなければいいけれど……。

 お父様は私のお願いを聞いてくれて、後日、商人を呼んでくれた。



 ――そして私には使い魔が出来た。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 人の身体を奪って平然と努力して生きてる神経を疑います。 他人の身体に自分の精神が入り込んだ、他者を殺したかもしれない、なんて気が狂いそうなのに自分が正しい自分は良いことをしているって心…
[良い点] この子はこの子でがんばっていると思う。 この子だって神様のいたずらでこの体に入った子。 中身が大人でも、小さい頃からやり直して苦労してるし、魔法が思うように使えないことで中傷、王太子の婚約…
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