ニコラドさんと一緒に材料集め ⑨
「ベルレナは六歳まではこの国にいたんだよな?」
「うん。でもわたし、限られた場所しか行ったことなかったからそこまで詳しくないの」
ライジャ王国の南西部。わたしが住んでいたクイシュイン家の領地からかなり離れた場所。
前にパパと一緒にあの子を見に来た時以来かな。ライジャ王国に足を踏み入れるのは。
わたしは自分のことをとっくの昔にベルレナだと受け入れている。――ベルラ・クイシュインだったころのわたしはもういなくて、わたしはわたしだってそう受け入れているから。
パパとママと一緒に過ごす日々は楽しくて、幸せで、だから昔のことをそこまで思い出すこともない。
わたしが悲しいとか、取り戻したいとか、そういう思いにならないのって今がとっても幸せだから。
わたしはライジャ王国のこと、そこまで詳しくは知らない。あの子はベルラ・クイシュインになった後、凄く勉強熱心だったけれどパパに出会うまでの二年間はわたしは悲しくて苦しくてそれどころじゃなかったしなぁって思う。
地域名とか、貴族の名前とかはなんとなく覚えているけどね!
「そうか」
「うん」
ニコラドさんは詳しくわたしの前の身体については聞かない。わたしも詳しくは口にしない。
わたしはベルレナで、前のわたしはもう誰も気にしていないものだから。今のベルラ・クイシュインは紛れもないあの子で、過去のわたしではない。
ニコラドさんはこの国にある学園の学園長がお弟子さんで、それでいて魔法師組合のお偉いさんで。
もしかしたらニコラドさんはクイシュイン家とつながりがある人なのかもしれないなんてちょっと考えたりはする。凄い人なら王族や貴族とも関わりがあってもおかしくないもんね。
わたしはニコラドさんと一緒に火山に向かう。
今回向かう火山はあんまり人に管理されているって場所ではないみたい。街を出る時に子供であるわたしが一緒だからニコラドさんが身分証を見せたりしていたけれど、火山を登るときはそうじゃなかった。割と出入り自由な感じ。
最初に行った火山みたいに洞窟があるとかでもなくて、ひたすら山登りって感じだった。
わたしは体力があった方がいいと思っているから、身体強化の魔法を使わずに歩き回ったりとかもよくしている。今回火山を巡る時も身体強化を使わずに移動したりもしているの!
そういう体力って大事だって思っているから。魔法にだけ頼っているよりも色々出来た方がいいのだ。
そういうわけで元気にニコラドさんと一緒にどんどん上る。
魔法で一気に登ることも出来るって言われたけれど、自分の足で進みながら気になる物を一つ一つニコラドさんに聞いた。
見たことない魔物だったり、見たことのない植物だったりを見つけるとなんだかとても楽しい気持ちになった。岩とか地面に紛れているというか、それをまねて自分の身を守っているような魔物とかにはびっくりした。ニコラドさんに言われるまで気づかなかったもん!
「ニコラドさんはすぐに魔物に気づくね。分かりにくい魔物って気づくの大変そうなのに」
「そういうのは慣れだな。経験を積めばそれだけそういうのも気づけるようになるから」
そうやって笑うニコラドさんはやっぱり先生みたいだなって思った。
ニコラドさんってお弟子さんはいるのは知っているけれど、直接学生や魔法師に教えたりとかすることもあるのかな?
そんなことを考えながら山を登って、魔石が取れる場所に辿り着いた。
それはぐつぐつしているマグマのすぐ近くだったけれど、魔法をかけてもらっているから問題なく手に入れることが出来た。普通の状態だと近づけなさそうな場所にあった魔石だというのもあって、結構大きかった。
色んなものを採取したり、採掘したりしながらまた山を下りた。
襲ってくる魔物の相手はわたしが大体行った。
この火山には最初の火山のように火竜は住んでなかった。火竜なども住みやすい地域と住みにくい地域とかあるのかな? どういう条件だと住むんだろうね?
なんだか色んな疑問がわいてきて、やっぱり行ったことのない場所に行くのは楽しいなってそんな気持ち。
宿に戻った後にニコラドさんが採掘した魔石を確認してくれたのだけど、わたしの魂が生まれた場所だからかここの火山の魔石が一番わたしの魔力と相性が良かったみたい。
「これで良い杖が作れるね!」
わたしの理想の杖が作れるのかもと思うととても嬉しくなった。
これで一旦火山巡りは終了。他の素材はまたニコラドさんが時間があるときに一緒に材料集めに行ってくれるということでわたしは一旦屋敷に戻るのだった。
「パパ、ママ、ただいま」
わたしがそう言って声をかければ、二人とも嬉しそうに迎えてくれて、わたしも嬉しくなった。
材料集めはもう少し続きます