パパとママと精霊の里と ⑤
「なんだか、どこにでもありそうなものに見える」
「見た目に関してはそうだろうな。ただ面白い魔力を持つんだ」
「面白い魔力?」
パパの言う面白い魔力が分からなくて、わたしはその植物の魔力を感じ取ろうとする。でもそうすればパパに一旦止められた。
「ベルレナ、これの魔力は酔いやすいから一旦やめた方がいい」
「酔いやすい? 魔力に酔うの?」
酔うって聞くと、大人が飲むお酒というものが想像できる。パパやママはお酒を飲まないけれど、お出かけした時に独特のにおいをかいだり、酔っぱらっている人見たことあるもん。
意識しなければその植物の魔力は感じ取れないけれど、それを感じ取っちゃうとくらくらしてしまうのかな。
「魔力を感知する生き物を酔わせるような効果を持つ植物だが、それだけじゃない。近くに存在する植物や生物の魔力を活性化させる」
「元気にするの?」
「そうだな。周りの魔力を活性化させるから、ようするに周りの生物は強くなる」
「強くなるって、魔物だと狂暴になるってこと?」
「そうだな。これが生えている周辺の魔物は普通の魔物とは違う。あとは活性化を浴び続ければそれだけその生物も変異したりする。この世界には一般的な植物や生物が何らかの影響で変異することも多いが、その変異の裏にこいつが関わっていることもそれなりにある」
「おお……! なんか変異させるってかっこいい!」
本などを読むと、確かに一般的によく見られる植物や魔物が変異して別のものになってしまうっていう例はあるって聞いたことがある。そういう変異種というのは中々見つからないもので、そういう変異種を見つけると研究者の人が名をつけたりするんだって。
そういう変異種が生まれるきっかけになるかもしれない植物って、凄く不思議。
「何十年も、長い時をこの植物から影響を受けていたら人も変異するから気をつけろよ。最も、それだけ長くこれが残っていることはないが」
「そうなの?」
「ああ。あくまでこいつは土に根が張っている状態でのみ、その効果を発揮する。それに周囲の魔力を活性化させるための条件もかなり特殊らしい。俺も詳しくは知らん」
「へぇ、パパも知らないんだ。これってすごいんだね」
なんでも知っているようなパパが生態を詳しく知らない植物――うん、凄く面白いと思う。この植物がどれだけ特殊な条件でそういう効果を発揮するかとか知ることが出来たらパパは驚いてくれるかな?
そんなことを思いながらその植物に近づく……わけではない。だってパパが魔力に酔うとか、生物を変異させるとかいう植物だよ? 近づいて大変なことになったら嫌だもん。
「パパ、根が張っている状況のみってことは摘んだら駄目ってこと?」
「そうだな。摘んだら本当にただの植物と変わらなくなったり、枯れたりするぞ。食べても普通だった」
「……パパ、生物を変異させるかもしれないもの食べるの怖いからやめようよ」
「ちゃんと対策はしていたし問題ない」
パパは研究対象に関しては割とためらいがないので、前に食べたことがあるらしかった。
今よりも昔のパパは好奇心のままにそういうことをやってしまったことがあったんだなと思う。ただパパは本当に凄い人だから、そういう植物が何かパパにしようとしてもどうにでも出来るのだろうけれど。
「ちなみに近くの環境を変えてもすぐにその効果がなくなる」
「近くの環境って?」
「例えば雪を降らせるとか、このあたりの温度を変えるとか。土の成分が変わるとか、本当に些細なことでこれは効果をなくす。見た目もこれだけ目立たないし、俺はこいつの存在を知っているやつを知らない」
「へぇ。わたしとパパだけが知っているの?」
「魔導師は知っているかもしれないが、他は知らないんじゃないか?」
ママやニコラドさんたちは知っているかもしれないけれど、他の人たちが存在を知らない植物かぁ。確かに面白い植物だね。
「こういう植物は世間に知られていない方がいい」
「そうなの?」
「ああ。魔力を活性化できるという効果は争いの種をうむ。それに変異種を発見することに躍起になっている研究者も世の中には多くいる。そういう連中がこれについて知ったら色々面倒だ」
私は植物の効果を知って、凄い! と思っただけだったけれど、そっか。魔力を活性化させたり、変異種を発生させることが出来る植物ってそれだけ特別だから、それが争いの種になるのかぁ。
皆で仲良く持っておいて、活用するって難しいんだろうなとは思う。それが理想だろうけれど、世の中にはいろんな人が居るから。
「それならこの植物がすぐに効果をなくすようなものでよかったね! どんな環境でも効果を発揮するだったら、大変なことになっていたかもしれないし」
「そうだな」
もしずっと効果を発揮するようなものだったら、大変だったもん! そう考えると、あんまり丈夫じゃない植物でよかったって思う。




