パパとママと精霊の里と ③
人のことをあんまり信用していなかったというシルヴィーさんの元契約者。その人は、色々大変なことがあったのかな? 辛いことが色々重なって、それで人が好きじゃなくなって……だけどシルヴィーさんっていう契約している精霊がいたからこそその人は最期に幸せだったのかもしれない。
「その契約者さんが幸せな最期を迎えられたのってきっと、シルヴィーさんのおかげだね」
「私のおかげ?」
「うん! だってね、本当に周りに誰もいなくて、辛いとか苦しいとかそういう気持ちでいっぱいだったら最終的に誰かと一緒に幸せになれなかったんじゃないかなって思うから。わたしもね、パパが見つけてくれなかったら、そういう気持ちでいっぱいで余裕も何もなかったと思うから。誰かのことを大好きって思ったり、好きなことを出来るのって誰かが傍に居てくれるからだっておもうもん」
本当の意味で独りぼっちだったなら、誰も周りに居なかったら、多分誰かのことを好きになって幸せになる余裕もないって思う。
わたしは誰かを心から憎む気持ちとか、誰のことも信用できないって気持ちはパパに出会ったからない。今はパパもママもいて、それにユキアも一緒に居てくれて、お友達も多いから。
だけどそういう気持ちでいっぱいだったら、周りから見ても幸せに過ごすことって難しいんじゃないかなって思う。
……そう考えると、過去にわたしと同じように神の悪戯の被害者の人で、誰かに見つけてもらえることなく消えてしまった人って本当に悲しい気持ちでいっぱいだったんじゃないかなって思う。うん、わたしは本当に幸運だった。
「それもそうかもしれないわね。あの子の助けに、私がなっていたのだと思うと嬉しいわね」
「シルヴィーさんはその契約者さんと契約していた時は、学園って行ったことあった?」
「あの子は学園には通っていなかったから、詳しくは知らないわ。ただ冒険者のようなものをしていたから依頼であの子と一緒に学園に行ったことはあるわよ。もうずいぶん昔のことだけど」
「学園って、冒険者に依頼をしたりするの?」
「そうね。出したりしていたわ。今はどうか知らないけれど。ベルレナは学園に通おうと思っているのよね?」
「うん! どんな人に会えるのかなってわたしは楽しみにしてるの! 一生の付き合いが出来るようなお友達が出来たら嬉しいなって」
わたしが元気よくそう答えたら、シルヴィーさんは小さく笑って、だけど真剣な顔をして言う。
「ベルレナは魔導師の娘だから問題はないと思うけれど、人って本当に面倒なのよ。純粋な力じゃなくて、権力という名の力で好き勝手する人はそれなりに居るわ。ユキアと契約をしていることも狙われる要因になるから気をつけなさい」
シルヴィーさんの言葉にわたしの腕の中で、話を聞いていたユキアが自分の話題だと顔をあげる。
「ユキアは珍しいわ。人にとって精霊も精霊獣も、とても珍しい存在なの。自分のことが一番偉いなんて思っている人は珍しくないわ。周りが自分に従うのが当たり前で、だからこそ珍しいものは献上されるのが当然と思っている愚か者もいるわ」
「それがまかり通るの?」
「まっとうな大人が周りに居るならともかくそうでないなら通るでしょうね。もしくはその場所にいる大人が全員それが当たり前と思っていて子供まで同調している場合もあるわね。私も無理やり捕まりそうになったこともあるし……」
シルヴィーさんは凄く力のある精霊だけど、今よりももっと力が弱かった時は捕まりそうになったことがあるらしい。
それにしてもシルヴィーさんには自分の意思があって、無理やりそういうことをするのって怖いなぁって思う。
でもわたしがベルラ・クイシュインとして、公爵令嬢としての価値観でそのまま生きていたら何かしら理由があれば精霊を利用してもいいなんて思っていたかもしれないなぁとは思ってる。
どんな理由があっても、誰かの自由を奪うことってしてはいけないとは思う。うん、というかわたしが自由を奪われたらいやだなって思っているからかもしれないけれど。
色んな人と出会うようになったら何かしらの理由があるからと、誰かの自由をどうにかしようとする人とかもいるのかもしれないなぁなんて思った。
「わたしがもし捕まってもパパとママが助けてくれるから大丈夫! そんなことにはならないようにはするけど」
「それもそうね。まぁ、少し怖がらせるようなことを言ってしまったけれど、ベルレナの性格なら色んな人と仲良くなれそうだわ。こういう精霊の里以外に居る精霊たちとだってきっと仲良くなれるわ」
「そうかな? そうだと嬉しいな!」
わたしはこの精霊の里以外の精霊たちを知らない。精霊って里と呼ばれる場所には沢山いるけれど、それ以外の場所にいっぱいいるわけでもないしなぁ。
こういう精霊の里以外にいる精霊だと、此処の里の精霊たちとはまた雰囲気とか違ったりするのかな?




