杖の材料について ④
「ニコラドさん、魔力回路っていうのは?」
「なんて説明すれば分かりやすいかな……。魔力の通り道を作って繋げる役割が魔力回路だ。この屋敷の中にも魔法具は沢山あるだろ? その魔法具の一つ一つにその魔力回路が組み込まれているんだ」
「なんか話を聞いているだけだとどういうことかいまいち分からないかも……」
魔力の通り道を作って、つなげる。
うん、なんとなくは頭に思い浮かべることが出来るけれど、それがどういう風に魔法具の中でその魔力回路というのが動いているのかとかは全然分からない。
というか、この屋敷の中には魔法具がそれなりにあって、その魔法具をわたしは料理とかで当たり前みたいに使ってはいるけれど……、それがどういう仕組みで動いているかまでは知らなかった。
当たり前に傍にあるものだって、実は凄いものってのが結構あるんだよね。
「先ほどの杖の話を例えてみると、魔力を回復させる素材を入れるだけ入れたとしてもその杖に還元し、所有者の魔力を回復させるように回路を繋ぐ。それが必要になるからな」
「ええっと、要するに素材と杖をまずは繋いで、杖と所有者を繋ぐって感じ?」
魔力を吸収する素材からまず杖へと回路を繋いで、そこから所有者の魔力が回復するように杖と所有者を繋ぐって。うん、言葉にすると簡単に見えるかもしれないけれど、難しそうだなぁ。
「そうだな。その魔力回路を描くのが一番難しいんだ」
「そうなの?」
「ああ。魔力回路は描き方を間違えれば、大変なことになる。例えば素材が吸収した魔力を杖に流す回路に関しても、きちんと効果を描かなければ吸収した魔力量が多すぎて回路自体が爆発するとか」
「想定より大きな魔力がどーんって入ってきたら容量がいっぱいになってしまうってこと?」
「ああ。ベルレナは理解力があるなぁ」
ニコラドさんに褒められて、わたしは嬉しくなって笑った。
「あとは魔力回路を描くのが下手だったら、魔力が逆流することもある。それも爆発するなぁ」
「爆発しすぎじゃない?」
「それだけ魔力の扱いは難しいんだ。基本的に一般流通している魔法具には、そういう爆発が防ぐための仕組みが組み込まれている。ただ闇市に流されているような魔法具だとそういう仕組みが組み込まれていなかったり、逆に人体に悪い影響を与えるものもあるけどな」
闇市、なんてものがあるらしい。
なんだかその響きって怖いよね。悪いものが沢山ある市場ってこと?
「そういう闇市は犯罪者とか、色んな事情で表に出れない連中が多い。まぁ、中には冤罪をかけられてそこで生活をするしかない連中もいるし」
「そうなんだ」
「ああ。で、まぁ、基本的に流通している魔法具は俺の所属している魔法師組合が管轄しているから、普通に買う分には危険はない。ただ作成過程での事故は多いから、作成する時はちゃんと気を付けてやる必要がある」
「魔法師組合ってそういうの管轄しているんだね」
ニコラドさんの所属している魔法師組合は、そういう風に魔法具の扱いも管轄しているらしい。
魔法師組合は色んな仕事をしているんだなと思った。
「魔力回路を描く際も間違えると爆発したり、魔力が逆流して身体に入り込んで身体が爆発したり、まぁ、色々あるから一人では最初はやらないように」
「錬金術と一緒で本当に難しいんだね。爆発って怖いなぁ。それだけ苦労して作った魔法具なんだなって思うと、今まで当たり前みたいに使っていた魔法具ももっと感謝して使わなければなって思う!」
こうやって魔法具のことを学んでいくと、そういう気持ちでいっぱいになる。
こういう風に便利なものを作ってくれている人たちがいるからこそ、わたしの生活も楽になっているんだもんね。
「そうだな。錬金術と一緒だな。基本的に魔力を扱って何かを作るという行為はそれだけ危険なんだ。魔力を使ったものは便利だけど、その分、危険なことも沢山あるから」
「魔力を使ったことって何事も危険なんだってことだよね。魔法だって使い方を間違ったら大変なことになるし」
「その通り。だからこそ、魔法や錬金術、魔法具などに関しては扱いをちゃんとしなければならないってことだな。学園でも最初にそのことについて注意される」
学園でもそのことは真っ先に注意されることらしい。
わたしにとって魔法も、錬金術も、魔法具も全て身近なものだけど、それだけ危険もあるんだなって思った。
「杖づくりもそれだけ危険だってことだよね。その魔力回路を描くってどれだけ難しいかわたしにはまだ分からないけど、ちゃんと教えてね!」
「ああ。まずは材料集めてからな」
「うん!」
わたしはニコラドさんの言葉に元気よく頷くのだった。




