幕間 悪役令嬢の取り巻きであるはずの少女 ⑤
「つまんないなぁ」
私はアル兄様が学園に入学してしまってから正直言って退屈していた。
だって、ベルラ様の話が出来る唯一の存在が、アル兄様が学園に行ってしまったんだもん!
アル兄様が学園に入学したからって、他の家族は私に近寄ってくる。私の身体に違う人が入っていたの気づかなかったくせに、私はアル兄様と仲良くしているのに……アル兄様の影響で私がおかしくなったなんてずっと思っている。
そういうの正直、ちょっと煩わしいなって思う。
血の繋がった家族でも、分かり合えない部分はある。もちろん、周りが本当に私の身に起きたことを気づかなかっただけって理解しているけれど――それでも私はあの一件以来、アル兄様以外の家族のことはそこまで好きじゃない。そういう態度を表沙汰にはしていないけれど、それでも……ベルラ様のふりをしたあの人を好ましく思っているらしい言葉を言う人はもやもやするもん。
私の婚約者だって、気づけばあの人と仲良くなっているし。
あの人はなんかよく分からないけれど、前に私と仲よくしようとしていたみたいに特定の相手とはなんだか不自然に仲よくしようとするみたい。私以外のあの人に望まれた人は、あの人と仲良くしている。
まだ学園に入学前で、社交界デビューもしていないからあの人と会う機会はそんなになくて、そのことはほっとしている。……学園に入学したら、ベルラ様として生きているあの人を見かけなくちゃいけないのかと思うとちょっとだけ気分が沈むけど。
ただ私の婚約者がベルラ様と親しくなったからこそ、違和感というか、ぞっとしたのは……あの人は周りの人たちの話していないことを最初から知っているような、そんな節がありそうだった。
私の婚約者は身体を動かすことが好きで、正直ぶっちゃけてしまえば頭が良くない。
あんまり深く物事を考えないし、単純だし、そういう人だ。だからこそあんまり深く考えてないのだろうけれど、話しても居ないのに筒抜けになっている情報と、それを知っているからこその行動をあの人がしているみたいに聞こえた。
あくまで婚約者がぺらぺら話す、あの人の会話から読み取ったことだけど。
正直そういう、喋ってもないことを知っているらしいあの人。そしてそういう知らないはずの情報を知っているからこそ、私の婚約者の求める態度をして好かれているらしいというのが分かったから、うん、私は怖いなって思った。
アル兄様はあの人の魂を無理して子供のふりした大人の魂だって言っていた。ベルラ様のふりをして、ベルラ様として生きている大人の人……考えれば考えるほどぞっとする。
私もアル兄様が気づいてくれなければ、そういう魂の人に身体を取られたままだったのかな……。そう思うとやっぱりアル兄様には感謝しかない。
「はぁ……」
私はベッドで横になりながら、ため息を吐いた。
……婚約者とは、婚約を結んでいるからこそ時々会わなければならない。
あの婚約者はすっかりあの人の口車に乗せられて、他の貴族の子供たちと一緒であの人を慕うようになった。
なんか自分の頑張りが認められたとかどうたら言っていたけれど、へぇーってしか思わなかった。
いつも剣を振ってばかりの婚約者は、なんか悩みを抱えてたらしく、そのことであの人が何か接触したみたい。それで婚約者はあの人の話ばかりするようになったのだ。
うん、正直うんざりする。
貴族同士の婚約って、家の関係もあるから仕方がないのだけど……でも正直学園卒業後に婚約者と結婚するの嫌だなって気はしている。結婚しても仮面夫婦にしかならない気がするし、そもそもあの人が王妃になったこの国でその話ばかりされるだろうし。
うーん、嫌だなぁ。
そうはいっても私も貴族の令嬢だから仕方がないかなって気もするけど! でもどうにか出来そうならどうにかしたいなーってそんな気持ち。
学園生活は六年間もあるし、その間に婚約者が浮気とかしてくれないかな? それか私自身がどうにかするだけの術を手にするか。アル兄様にそのあたりは相談かなぁ。
……アル兄様が学園に入学した後から特に婚約者があの人を慕うようになっているから凄く疲れる!
それにアル兄様ってば私に当たり障りのない手紙は時々くれるけど、全然実家に帰省する気ないし。アル兄様が私以外の家族と仲良くないからだろうけれど! 学園に入学するまでこんな感じの暮らしかぁってなるよね!
「そもそも私があの人にもやもやした気持ちを感じているのって、アル兄様以外理解してくれないし……」
婚約者は私がベルラ様と距離があるのが理解出来ないといった様子だし。寧ろ私とあの人を仲よくさせようとしてくるし。最もあの人も前の一件から私に近づいてこなくなったから問題ないけど。
……周りは皆そうだもんね。
王太子の婚約者で、魔法はそこまで得意じゃないけれど社交的で、周りから好かれている。そういう周りから好かれている存在だから、あの人と仲良くしたいのは当然って思ってるし。
あの人が周りとの交流を広げれば広げるほど、そういうあの人を慕う人が増えていくのだ。
今だってこうやってもやもやしているけれど、学園に入学したらもっとそういうのを見なければならないんだし、もっと冷静になれるようにはならないと!
ベルラ様の絵もアル兄様が持って行ってしまって見れないし……。
私は翌日、気分転換のためにも骨董市にやってきた。
私も自分のベルラ様の絵が欲しいって思っているから、骨董市によくいくの。
「お嬢様、お目当てのものは見つかりそうですか?」
「んー……全然」
私は護衛から言われた言葉に答える。
ベルラ様の絵がない。
アル兄様がたまたま見つけたベルラ様の絵って珍しかったんだろう。私だってベルラ様の絵が欲しいのに!! どうしてないんだろうって思いながらぶらぶらしていたら……、絵を売っている商人の所で目的のものを見つけた。
「あっ!!」
一点だけあったその絵は、ベルラ様とそっくりな男性と、それだけじゃなくて黒髪黒目の綺麗な女性が居る。
アル兄様の持っているものよりも珍しいんじゃない? アル兄様に自慢できそう!!
私は嬉しくなってその絵を購入して持ち帰るのだった。
もやもやすることは多いかもしれないけれど、この絵を見ていられるなら私はなんとか乗り切れるはずだわ!!




