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幕間 身体を奪ったあの子 ⑧

「ベルラ様、最近心あらずな様子ですが、大丈夫ですか?」

「大丈夫よ、セイデ。……お兄様が、学園に入学してしまって少し寂しいだけよ」




 その言葉は、半分嘘で、半分本当。

 お兄様が学園へと入学した。他でもない、乙女ゲームの舞台の学園に。



 乙女ゲームは高等部からだから、まだまだ先。それでも確かにその時期が近づいてきているのだ。



 私がベルラ・クイシュインに転生して、五年。この五年でフラグを折るために動いている。



 まだ子供の私ではどうしようもないこともあったけれど、今の所、上手くいっていると言える。ヒロインが現れても大丈夫……と思っているけれど、ガトッシ殿下がヒロインに惚れてしまったら……とそればかり考えている。

 私の精神年齢は大人のはずなのに、ガトッシ殿下に恋をしているからこそそういう風に冷静でいられない自分が居る。他の攻略対象たちだって、婚約者の令嬢と原作よりも親しくしているようには見えているけれど、どうなるか分からないもの。



 ……それにネネちゃんは攻略対象の一人である婚約者と、そこまで仲が良くないみたい。これは原作と同じと言えば同じだけど、少し違う。乙女ゲームの世界ではネネちゃんは婚約者を大切にしていて、心が離れたことを悲しんでいたはずだ。ネネちゃんの方か近づいている関係で、気づけば冷たくされるようになってしまったと。でも今はその原作ともずれている。

 原作とのずれがあると、少しだけ不安になる。

 私自身も原作を変えてしまっているから仕方がないけれど、この世界に転生してから乙女ゲームの知識を前提で動いていたもの。





「少し、魔法の練習をしてくるわ」

「はい。頑張ってください」




 気を紛らわせるためにも、私は魔法の練習をすることにした。



 色々と考えることは多いけれど、私にはやらなければならないことが沢山ある。

 乙女ゲームの世界のベルラ・クイシュインは、魔法が得意だった。魔力量も多かった。だけど私は……魔法が得意なわけではなく、魔力量もそこまで多くない。

 本当にイベントのように危険なイベントが起こるのならば、もっと魔法を使えるようになるべきだし、守護鳥を呼び出さなければならないもの!




 実戦も大事だから、私は護衛たちに連れられて一度だけ魔物を倒しに行ったことはある。学園では実戦実習もあるから、学園に入学する前に貴族の子息子女は魔物退治に連れて行ってもらったりもするのだ。私はまだ一回しか行ってないけれど、これから学園に入学するまでに連れて行ってもらうことになるだろう。

 魔物とはいえ、命を奪うことって怖いなと思った。けれど必要なことなので、私は頑張ろうと思っている。




 魔法の練習をする。

 だけど、火の魔法は全然使えない。私が思う通りに魔法は動かない。……それどころか、火の魔法より使える水の魔法もそこまで使えるわけでもない。




 乙女ゲームの世界のベルラ・クイシュインは、強烈な赤の、火の魔法を使っていた。



 私のように少し魔法を使うだけで疲れることもなく、本当に驚くぐらい簡単に魔法を使っていた。ファンブックにも火の魔法の適性がベルラ・クイシュインは飛びぬけて強かったとそう書かれていたのに。



 魔法以外のことは、頑張れば結果が出ている。

 前世の記憶があるというアドバンテージがあるから、そのあたりはなんとかこなしているし、認められていると思う。

 だけど魔法だけは、上手くいかない。




「ベルラ様、そろそろ休憩しましょう」

「……でも」

「あまり無理すると倒れてしまいますよ?」

「……そうね」



 頑張りたいなと思っている。

 それでも上手くいかないことには焦っている。



 王太子の婚約者という立場は、周りから期待を受ける立場である。完璧であることを求められている。

 そういう期待を受け続けるのって結構疲れる。乙女ゲームのベルラ・クイシュインもそういう重圧にいっぱいいっぱいだったのかしら。



 私は魔法がそこまで得意でないからこそ、余計にイベントが起きた際に守護鳥を呼び出した方がいいわよね。




 魔法の練習で少し疲れた私は自室のベッドで横になる。



 ガトッシ様の婚約者としての勉強や魔法の練習、社交。

 覚えなければならないことも多い。

 それでいて乙女ゲームのことも考えなければならないもの。




 学園生活に対しては楽しみな気持ちと、不安な気持ちが渦巻いている。



 私はヒロインと仲良くしようと思っているけれど、私の代わりにヒロインに嫌がらせをするような悪役令嬢枠の令嬢が出てきたりするのだろうか。

 学園生活を送っているお兄様から話を色々聞いているのだけど、アルバーノはやっぱり乙女ゲームとは色々と異なっている。




 アルバーノは学園に首席で入学し、女子生徒から騒がれているらしい。

 アルバーノは乙女ゲームの世界では、学園主席ではなかった。もう少し目立っていなかったと思う。

 確かに魔法の才能はあったと記載されていたけれど、学園主席になるほどの結果は出していなかったはずである。というか、お兄様が学園主席で、それで攻略対象枠だったはずなのだけど……。



 アルバーノの中で、何かしら魔法に真剣に取り組むきっかけがあったのか、どうなのか。

 乙女ゲームの違いは知っておきたいけれど、アルバーノとは親しくないから聞いても教えてくれないでしょうし。



 それにしても伯爵家の次男という立場なのに、周りに対して全く興味もなく、誰かと縁を結ぶつもりもないようだ。

 貴族ならば将来のことを考えて動かなければならないのに、どうして伯爵家のために動かないのだろうかとそのあたりは分からない。



 アルバーノが何を考えているのかは分からないけれど、アルバーノが何かしら困っていることがあれば私が助けてあげようとは思っている。ネネちゃんのことも、今は距離が置かれているし、仲良くは出来ていないけれど、それでも何か困っていたら助けてあげたい。



 私の手でどうにか出来るものがどれだけあるかは分からないけれど、私は出来る限りのことをやる。それだけだ。



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― 新着の感想 ―
[一言] 無意識の上から目線が滲んでる感じが絶妙に性格悪くて、憑依者さんの幕間読む度に作者様の技量に感動しています。 『他の攻略対象たちだって、婚約者の令嬢と原作よりも親しくしているようには見えてい…
2023/04/07 05:07 退会済み
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