屋敷の中でのんびりと過ごす ③
わたしはユキアと一緒にのんびり屋敷の中で遊んでいる。
屋敷の中と、屋敷のすぐ傍。
わたしたちはその場所でだけで、過ごしている。
魔法の練習をしたり、本を読んだり、パパとママとお話をしたり――、そうやって過ごすのは楽しい。
パパもママもいつもわたしに優しいのだけど、今はわたしが外に出れなくて退屈しないようにって沢山構ってくれるの。パパとママやユキアがいるから、わたしは全然屋敷の中でのんびり過ごしていても退屈していないんだよね。
今はママと一緒に外で会話を交わしている。
「ママ、明日は雨がふりそうだね」
「そうね。ベルレナも天気を読むのが上手くなったわね」
ママは昔、錬金した薬を売ったり、天気を予測したりしながら関わっていたこともあるらしいの。その日の天気っていうのは、読めるものだってママに教えてもらったんだ。
天気を予測する方法はいろいろあるみたいなのだけど、空気中の魔力を観測して天気を知る方法でわたしは読んでいる。魔力を感じ取れなくても自然の中で仕事をしている人たちは経験で天気を読めたりするらしいの。凄いよね!!
空気中の魔力を操作して天気を変えたりもパパとママは出来るみたい。
ただこれも危険だってママが言ってた。
空気中の魔力ってとてつもない力を秘めているんだって。だからこそ扱い方を間違えると錬金術や空間魔法と一緒で暴発して大変なんだとか。あとはあまりにも強制的に天気を変えすぎると、あとから天災が起きたり……って反動はあるみたい。
そういうのはよっぽどの理由がなければあるがままの方がいいみたい。
「ベルレナもやり方を覚えたらやりたくなるかもしれないけれど……、何かやろうとする前にまずは私かディオノレに相談するのよ」
「うん!!」
「まぁ、ベルレナが何かやらかしてしまったとしても私とディオノレでどうにかするけれど」
「ふふっ、ありがとう、ママ!」
わたしがお礼を言えば、ママも笑った。
ママはなんというか、家族になってから初めて会った時よりも柔らかい雰囲気になったと思う。パパの奥さんの立場になれて、ママも幸せだなって思っているからなのかな。
「ママは天気をどうにかしようとしたことあるの?」
「そうね。あるわ。雨を降らせようとして失敗して、嵐みたいになっていたわね」
「嵐? その時、どうしたの?」
「外に被害が起きないように囲って、見える範囲でだけ嵐が起きるようにしたわ」
「なんだか、それ難しそう……」
その嵐が起きている範囲だけを結界で囲っているってことだよね?
空ってどこまでも続いているから、それを囲うなんて難しいことだと思う。わたしでは正直想像がつかない。その場所ごと他の場所から離すってことだよね? うん、難しい。
どうやるんだろと唸っていると、ママが小さく笑う。
「ベルレナもそのうち出来るようになるわ」
「本当?」
「ええ。ベルレナは努力家だから、きっと出来るわ」
ママはそれが当然だとでもいう風に笑った。
パパもなんだけれど、わたしならばいつかなんだって出来るようになるってそんな風に言ってくれる。
そういう信頼に答えられるように、わたしも出来ることを増やしていきたいなってそう思ってならない。
「ねぇ、ママは――」
わたしがママに話しかけようとした時、何か不思議な感覚がした。
なんというか、不思議な魔力の動きというか。そんなものをこの屋敷で感じるのは初めてでびっくりした。
目の前のママが、少しだけ怖い顔をしている。
「ママ、これ、何?」
「……無理やりこの屋敷の守りに穴をあけたわね」
「え、それ大丈夫?」
「大丈夫よ。穴をあけた側は、魔力枯渇しかけているわね」
ママがさらりとそんなことを言うから驚いた。魔力を沢山使いきってしまっているなんてびっくりした。
「ジャクロナ」
いつの間にか、パパが屋敷から出てきていた。
パパの魔法に何かした人がいたことを感じ取ったのだろう。パパはいつも通りの平然とした顔をしている。だけど、煩わしそうな表情なので、ちょっと怒っているのかもしれない。
「ベルレナを頼む」
「ええ」
パパは何をしようとしているのだろうか?
ママが言っていた冷酷な一面を誰かに見せようとしているということなのだろうか?
わたしはパパが無理やりパパに会おうとした人たちにどういう対応をしようとしているかは分からない。
「ベルレナ、ちょっと出てくるから待ってろ」
分からないけれど、ただ一つ言えることはわたしはパパが大好きだってこと。そしてきっとわたしはパパがどういう行動をしたとしてもパパへのその気持ちは変わらないってこと。
だから、私は――
「パパ、いってらっしゃい!!」
ただそうやってパパを送り出す言葉を口にした。
その言葉を聞いたパパは笑って、わたしの頭を撫でてくれた。
「ああ。行ってくる」
そしてそれだけ言ってパパの姿が消えた。
多分、転移で移動したのだろう。魔法使いの人が無理やり開けたという穴はママが修復していた。その穴をあけたらしい人たちの姿はもうなかったので、パパがどうにかしたのだろう。
穴があけられたことにはびっくりしたけれど、わたしは大人しくママとお留守番をすることにした。
 




