幕間 悪役令嬢の兄 ②
「……アルバーノはどうして変わってしまったんだろう」
僕は昔は仲良かったアルバーノが、今は冷たい男だと噂されていることになんとも言えない気持ちになる。
……ベルラが倒れる前はアルバーノと僕はそこそこ仲が良かったと思う。アルバーノはよくクイシュイン家を訪れていて、話をしていた。
アルバーノはあまり喋らない人だったけれど、僕が話しかければ話を聞いてくれたし、ベルラともそこそこ仲良かったと思う。
だけど何が理由なのか、アルバーノは全くクイシュイン家を訪れることがなくなった。
それでいてあんなに周りから慕われていて、王太子の婚約者であるベルラに望まれてお茶会に参加しても興味がなさげだった。アルバーノの妹であるネネデリアだって、何故か進んでベルラと仲良くしようとしない。
……正直、ベルラが倒れる前はアルバーノもネネデリアも、ベルラにもっと話しかけようとしていたように思えるのによく分からなかった。
学園に入学してからのアルバーノは、淡々と、一人で行動していた。
見た目もよく、成績も良いアルバーノは女子受けが良かった。
アルバーノは伯爵家の次男で、伯爵家を継ぐことはない。ならば、どこかの家へ婿入りするために動くのが普通の次男や三男である。……けれどアルバーノはそういうものも全部拒否している。興味が全くない様子でばっさりと断って、驚くぐらいに冷たくする。
ああいうところはどうにかした方がいいと思う。
僕はなるべく周りには冷たくしないように心がけている。ベルラにも「優しいお兄様が周りに誤解されるのは嫌だもの」と言われたし。
「アルバーノは嫌な奴ですね」
「折角、アルバーノのことを思ってズーワシェダ様が言っているのに」
――この学園は貴族が多く通う学園で、僕は公爵家の息子という立場なので同じ派閥の生徒たちが僕のことを囲む。
この生徒たちはベルラが王妃になることを支持している家の子供たちである。僕は次期王妃であるベルラの兄ということもあり、僕が一番位が上だったりする。……正直、そのことはかなりの重圧だ。
あの“ベルラ・クイシュイン”の兄。
――そんな風に見られることが、少しだけ辛くなることもある。
でもベルラは可愛い妹で、僕はベルラの兄で、それでいてクイシュイン公爵家を継ぐのは僕なのだ。
だから、その重圧なんかには負けていられない。
ベルラが頑張る分、僕も頑張っている……つもりだ。
ベルラはこの国で一番有名な令嬢なので、ベルラとつながりを持とうとする生徒は多い。
他国からの留学生たちだってそうなのだ。そういう生徒たちと交流しながら、ベルラにあわせても問題ないと判断したら、父上に判断を仰ぐ。それで許可がされたらベルラとあわせる。
ベルラはガトッシ殿下に相応しい自分でありたいなんて言って、新しく色んな人と出会うことに積極的だ。それでいて出会った人が皆、ベルラを褒めていてその点は僕も誇らしかった。
ただ不思議なのだけど、ベルラはまだ先の学園生活に不安を抱いているらしかった。
手紙でもベルラは学園のことを聞きたがっていて、僕はそれに返事を返した。
だけどなんというか……なんでもそつなくこなすベルラが不安がっているのが心配だった。大人たち相手でも堂々と意見するベルラが、学園を不安がるのには理由があるのだろうか……?
僕はベルラの不安を拭いたくて、手紙にはベルラから聞かれたことを詳細に書いている。
だけどベルラはどうして不安がっているのか……手紙では教えてくれなかった。
僕は兄としてそんなに頼りないのだろうか。
長期休暇になったら領地に戻るからその時にベルラに聞いてみようか。
ベルラは……話してくれるかな。
ベルラはあまり不安などを口にしない。まだ小さいのに、中々甘えてはくれない。
僕に話せないなら、両親やガトッシ殿下にその不安を話せるように、投げかけてみようかな。
今の所、僕の学園生活はとても平穏で――、ベルラが心配していることなんて全くないように見える。ひとまずそのことをベルラには沢山話そう。
ベルラが心配するようなことなんて、何もないんだよって。
もし仮に何かが起きたとしても、兄として僕がどうにかするからって。
そんな風に言ってみようと、そう思うのだった。
 




