パパへの手紙 ②
「パパ、何受け取ったの?」
「手紙だ」
「手紙? パパ宛ての?」
「そうだな。ちょっと聞きたいことがあって手紙を出していたんだ」
パパが受け取ったものは、パパ宛ての手紙らしい。わたしはパパが手紙を出していたことなど全く知らなかった。それに手紙を出すためにとこんな大きな鳥を使いにだすなんて、そのニコラドさんという人はどういう人なのだろうか。
パパみたいに凄い人なのだろうか。ううん、パパ以上に凄い人なんているはずがない。わたしのパパが一番凄い!! そう思うとなんだかパパを自慢したくなって、自慢するように大きな鳥を見てしまった。
その鳥はなんでわたしにそんな視線を向けられるのか分からないようだ。
「ベルレナ、あいつが気になるのか?」
「……ちょっと」
「あれは使い魔だ。魔物と契約を交わして使役しているものだ」
「使い魔!! 話だけ、聞いたことある」
あの大きな鳥が使い魔だと知ってわたしの心は興奮した。だって使い魔の話はお兄様たちに聞いたことがあった。強い力を持つ魔法使いは、魔物を使役する力があるんだって。
「あれ、怖くない?」
「大丈夫だ。あれがベルレナに危害を加えようとするなら俺が叩き潰すから」
パパがそう言ったら抗議するように鳥が鳴いた。その声には怯えも混じっているように見えて、この鳥はパパの凄さを知っているのだと思った。それと同時にパパに対して何とも言えない感情を視線で訴えていることからも、この鳥がわたしたちの話している言葉を理解していることが分かった。
「……鳥さん、怯えて、ごめんなさい。わたし、触りたい」
突然触りたいというのはどうかと思ったのだが、ちょっと触ってみたいなと思った。あと怯えてしまったことでこの大きな鳥が嫌な気持ちになっていても嫌なので、謝罪もする。
大きな鳥さんの名前はトバイというらしい。この名前はパパの知り合いのニコラドさんという人がつけたんだって。
鳥さんはわたしの申し出に、いいよとでもいう風にその前足を差し出してくれた。恐る恐るそれに触れる。今までこんな風に魔物に触れたことがなかったので、何だか楽しくなって沢山触ってしまう。
魔物に触れる機会なんてそんなにない。わたしはこうして魔物に触れられることに嬉しくなっていた。わたしにされるがままになっているトバイ。しばらくしてわたしは満足すると「ありがとう。触らせてくれて」と笑った。それにトバイは鳴き声で返事をしてくれた。
わたしは満足してパパの元へ戻ろうと思った。だけど視線を向けたらいつの間にかパパが居なかった。
「パパ?」
パパは何処に行ったのだろうか。
先ほどまでトバイに触れて高揚していた気持ちが一瞬にして沈む。パパが近くにいないという事実にしょんぼりしてしまったわたしの様子にトバイが慌てだす。嘴で悲しまなくていいとでもいうように慰めてくれて、最初は怖かったけれどトバイは良い鳥さんだと思った。
そうしているとパパが戻ってきた。手には手紙が握られている。
「パパ、どこ行ってたの?」
「ああ。トバイはベルレナに何かする気もなさそうだったからな。ちょっと返事を書いていた」
「そうなんだ」
パパはニコラドさんへの返事を書きに行っていたらしい。ニコラドさんとパパってどういう関係なんだろうか。お友達? パパにお友達がいるというのは、ちょっと想像がつかない。だけどパパにもお友達ぐらいはいるだろう。
「パパ、ニコラドさんとお友達?」
「腐れ縁だな」
「昔からの知り合い?」
「そうだな。ずっと昔からの知り合いだ」
パパとそんなやり取りをしているうちに、トバイはパパからの返事を受け取って空へと飛びだっていっていた。
一気に空へと舞い、気づけばわたしの視界でトバイは小さくなっていた。
それにしてもパパの昔からの知り合いってちょっと気になる。昔のパパのことも沢山知っているのだろうか。わたしはまだパパとの付き合いは三か月ぐらいだけど、わたしが想像出来ないぐらいパパとニコラドさんの付き合いは長いのかもしれない。
わたしよりもきっとずっと、パパのことを知っている。ニコラドさんに会ったらパパが喜ぶことをもっと知ることが出来るだろうか。わたしがパパの自慢の娘だと言ってもらえるように手助けをしてもらえることが出来るだろうか。
なんて、そんなことを考えてしまった。
だけどそういう湧いてきた願望はパパには口にしない。
わたしはパパに嫌われたくないから。わたしの身体を奪ったあの子のように、いい子になりたいとそう思っているのだ。
わたしはそう考えて口を閉ざした。わたしはそんなわたしのことをパパがじっと見ていたことにも気づいていなかった。
トバイがやってきてからしばらくが経ったある日、パパが突然こんな提案をした。
「ベルレナ、街に行くから一緒に来い」
それは本当に突然の話で、わたしは驚いた。驚いたけれど、パパとお出かけが出来ると思うと嬉しくて、頷いた。




