春の日、秘密基地へ ④
わたしは驚いて固まってしまう。
だってわたしたち家族の暮らしているこの山には、人が訪れない。今までだってニコラドさん以外の来訪者だってなかった。……誰も来ないからって、この秘密基地は住んでいる屋敷のように周りから見えないようにみたいに魔法をかけてなかった。
《誰だろ?》
「分かんない。とりあえず去るのを待とうよ」
こそこそとユキアと会話を交わして、ノックに返事をしなかったのは――もしかしたら怖い人とかかもしれないという思いが少しはあったからだ。
それにしてもパパの娘になってから、誰かが山にやってくるのは初めての経験だ。
誰が何の用で足を踏み入れているのだろうか。
理由もなしにこういう人がやってこない場所を訪れることなんてないと思う。わたしがもっと大人だったらノックに返事してもよかったけれど――、わたしは子供だから返事をしたところで難しい話だと判断がつかないもん。
わたしとユキアが静かにしていると、再度、コンコンッとノックがされた。
わたしとユキアはずっと静かにしていた。そうすれば、外から何か話し声が聞こえて、そのまま、人の気配はしなくなった。
「はーっ、びっくりした!!」
《うん、僕もびっくり。秘密基地をノックする人いるんだ》
「ね。パパに秘密基地が外から見えないようにする魔法ならわないと! 私、習ってない魔法はまだ使えないんだよね」
《うん。魔法は難しいから習ったのだけ使った方がいいよ》
「とりあえず帰ろうか」
《うん》
二人でそんな会話を交わした後、窓から外を見る。ちょっと遠くに人影が見える。それが多分、さっきノックしてきた人? なんか複数人いるみたいだよね。こんなところまで来るってことは、パパに用事とかなのかな……。
とりあえずひっそりと、あの人たちにばれないように帰らないと!
そう思って、ユキアと一緒に秘密基地を出た。
屋敷へと戻るまでの間も普段よりもひっそりと、周りの気配をもっと探った。いつもぶらぶらしている山だから気を抜いてしまっているんだなって思う。今、気を張っているといつもよりもずっとなんだか周りにこういう魔物がいるなとか、そういうのが分かるもん。
「パパ、ママ、ただいま! ちょっと相談があるの!」
わたしは屋敷へと戻ると、元気よく挨拶をする。
はやくパパとママに報告しないと! そう思って屋敷内を歩いて、パパの元へと向かう。
「パパ!」
「ベルレナ、どうした? 慌てて」
「あのね、秘密基地がノックされたの!」
「ノック?」
「うん。あのね、この山に来る人って全然いなかったでしょ。でもね、さっきノックする人がいたの。もしかしたら……パパに用事なのかなって。わたしは怖くなったから返事しなかったのだけど」
わたしがパパにそう言ったら、パパは嫌そうな顔をした。
人づきあいが好きじゃないパパだから、山に人が来ていることが嫌だったんだろうなと思う。
わたしはなんだか屋敷だけではなくて、この山も自分の家みたいなそういうイメージなんだよね。だから知らない人がいるとびっくりしてしまった。
「ベルレナ、しばらく屋敷でゆっくり出来るか?」
「うん。パパはやってきた人に心当たりある?」
「いや、ない。魔導師目当てに来ているのか、それとも他を目当てで来ているかだな」
「パパとママ目当てじゃないの?」
「ジャクロナが此処にいるのは知らないだろうな。外の連中は。それにこの山には珍しい薬草なども結構生えているぞ。そういうの目当てで来るやつもいるだろう。ただ、秘密基地をノックしていることから俺に用がある気がするが」
パパはわたしに向かってそう言った。
パパはわたしを娘にするまで結構屋敷に引きこもっていたはずだ。そういう風にニコラドさんやママに聞いている。
それだけ魔導師として外に出ている期間がパパはしばらくなかったはずだ。それでもパパを訪ねて此処にやってきているということは――、パパのことがどこかに記録で残っているとか、そういうこと?
わたしを拾って、娘にするまでのパパってそれだけ長い期間色々経験してきたんだろうなと思う。
「パパに用事があってきているだったら……どうするの?」
「基本は無視だな。俺がどうでもいいやつの頼みを聞く理由はない。……本当に面倒なことになるなら手荒い対応になるかもしれないが」
パパってそういうところ、はっきりしているんだよなと思う。
なんというか、優柔不断なところとかがあまりなくて、周りのことを気にしない。やってきた人たちの言うことをパパが聞く必要はないからと放っておくつもりみたい。
 




