春の日、秘密基地へ ①
「気持ちいいね、ユキア」
《うん!!》
わたしとユキアは今、秘密基地に向かっている。
ニコラドさんは屋敷を訪れた時に色んなことを教えてくれる。杖に関してはまだ理想の杖について調べている最中で、どういったものを作るか決めきれてはいない。
そうしているうちに季節は春になった。
暖かい春の季節。外をユキアと一緒に歩き回るとなんだか新しい発見が見えてきたりもする。こんなところにこういう花が咲いていたんだとか、初めて見る魔物を見かけるとか。そういう小さなことを知れるとなんだか嬉しい気持ちになる。
ユキアにとっては初めての春だから、春の風景を見るのがユキアは楽しいみたい。
元々ユキアの親もアイスワンドで生きていた精霊獣で、その記憶を持ち合わせていたとしてもユキアは春というものを知識としてしか知らないだろうから面白いのかもしれないと思った。
秘密基地に到着する。
秘密基地の中には前よりも沢山のものが溢れているのだ。
この場で生活が出来るぐらいだけど、今の所秘密基地に泊りがけで出かけることはしていない。そもそもわたしはまだ子供だし、ユキアも生まれて少ししか経ってない。もう少し大人になったらともかく、子供だけでお泊りは流石に駄目だもんね。
この秘密基地は魔物に襲われないように色々と工夫をしているつもりだけど、何かの拍子にそれが効かない魔物とかが出てきたらどうしようもないもん。
守護石があるから、ある程度は問題はないだろうけれど。でもこの世には予想外のことも沢山あるもん。
ちょっと山をユキアと一緒にぶらぶらしていても一歩間違えれば危険と隣り合わせだったりするからね。
怖い魔物の住処に紛れ込んでしまったりとか……、そういうこともやらかしてしまったこともあるから。
「んー、気持ち良いね、ユキア」
《うんっ》
秘密基地のすぐ隣に、ハンモックをかけてそこに寝転がっているのだけど、本当に気持ちが良いの!
ちょっと高い所にハンモックをかけているから、一回だけユキアが落ちてしまって慌てたこともあった。まぁ、ユキアは私の心配を他所に綺麗に着地していたけれど。
寝転がって空を見上げると、木の葉っぱの隙間から青い空が見えるの。その空を見ていると心が穏やかな気持ちになる。時々、不思議なものが空を飛んでいるように見えたりするのだけど、あれはなんだろう?
パパに聞いてみようかな。
ずっと遠くの方で、小さいのだけど何か飛んでいるというか……、空を見上げているだけなのにこうやって色んな疑問が湧いてくる。
「ユキア、あの飛んでいるものなんだろうね?」
《分かんない。記憶を探ってもない》
「わっ、なんか魔物同士が空の上で喧嘩しているね」
《本当だね。同じ種族のように見えるけど、なんで喧嘩しているんだろ?》
ユキアと寝転がりながら空を見上げて、そんな風に沢山の会話を交わす。
親の精霊獣から知識を継承しているけれど、それでも分からないことが沢山あるみたい。
《ベルレナと一緒にいると、沢山のことを知れるから楽しい。僕がいつか子供を産む時、引き継げる知識も沢山になる!》
「ユキアの子供かぁ。まだ小さなユキアがいつか卵を産むってことだよね。想像できないなぁ」
ユキアの小さな身体を見ると、いつか大きくなるのがあまり想像が出来ない。ユキアが成体になるにはもっと時間がかかるって話だから。
ユキアもあの時あった精霊獣と同じようにいつか、卵を産む。ユキアから産まれた子供もきっと可愛いだろうなと想像するだけで頬が緩む。
《まだずっと先だよ。僕が成体になってちゃんと核を生み出せるようになってからだし。その頃にはベルレナは亡くなってると思う》
「……そっか。普通の人間の寿命だと、ユキアの子供も見れない可能性の方が高いんだね」
《うん。僕ら精霊獣は人間よりも寿命が長いから。特に僕はベルレナから魔力をもらっているから、余計に長生きしそう》
「そうなの?」
《うん。ベルレナの魔力はそれだけ良質なものだから》
「そうなんだ。……そういえばユキアが卵を産むの?」
《うん。精霊獣に性別はないからね。僕が一人で卵を産むの!》
ユキアにそんな風に言われて、精霊獣の生態はやっぱり不思議だなと思った。
魔物の中にも同じように性別がなく、たった一人で子供を産むような種類もいるけれど……、そういうのともまた精霊獣は違う気がする。
わたしはホムンクルスの身体だけど人間で、女っていう性別があって。そういう風に性別があるのが当たり前な感じがするから、一人で産むって不思議。
そしてその産まれた子供にユキアは、知識を受け継ぐことが出来るんだよね。パパから沢山のことをわたしと一緒に教わっているユキアから、知識を受け継いだ子って凄い子になりそう。
でもそうやって卵を産んで、知識を受け継いで――そうしたらユキアの寿命が近づいてくる合図でもあるみたい。
「……卵を産むと、ユキアが死んじゃう日が近づいちゃうってこと?」
《そうだよ。精霊獣はそういう生物だもん。卵に全力で引継ぎをするから、その分、その後は長く持たないことが多いんだって。僕の親が成体になった時に、その親も亡くなったみたいし。ただよっぽど力が強い精霊獣だと卵を産んだ後もずっと生きていたりするみたいだよ。だからベルレナの傍でずっと魔力をもらい続けていたら僕も長生きできるかもね》
「じゃあ、沢山、魔力あげる!!」
わたしはユキアの言葉に思わずそう言ってしまった。
ユキアは卵を産んで、そうすると寿命が近づいてくるということを当たり前のように受け入れている。でもなんだかわたしは悲しいなって思ってしまうから。
ユキアはわたしの言葉に笑っていた。




