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動けるようになって ③

 朝食を食べた後は、パパは魔法の研究をするとのことなので、わたしは邪魔にならないように屋敷の書庫に向かった。



 この屋敷にはパパが集めた書物の並んだ書庫があり、そこには沢山の本が並んでいるのだ。わたしは初めて書庫を見た時、あまりにも沢山の書物が並んでいてわたしは驚いたものだ。

 この屋敷の中には触れると危険なものもあるらしく、そういうものに近づかないようにはパパに注意されている。何処が危険かというのはパパから事前に聞いているけれど、パパが覚えていないだけで危険なものもあるかもしれないそうなので……わたしはパパに事前に行く場所を告げるようにしている。





「やっぱり、沢山」



 公爵家でも書庫はあった。お父様が集めた書物が結構あって、わたしはそこに顔を出すのが好きだった。だってお父様はよく書庫にいたから。わたしは忙しいお父様が書庫にいる時は時間がある時なんだと覚えてからはいつもそこに向かっていた。本を読むのが好きというより、お父様に会いに行っていた。

 そんなことを思い出してわたしは少し悲しくなった。




 お父様のことが大好きだった。お父様はわたしのことを可愛がってくれていると思っていた。だけれど、お父様はわたしじゃないあの子がわたしの身体を使っていることなど気づいてくれなかった。




 わたしはそこまで考えて、首を振る。

 今のわたしはもっとしなければならないことがある。考えても仕方がないことよりも、パパのために動かないと。



 パパはわたしを嫌っているわけではない……と思う。だけれどパパにとって自慢の娘になれてはいないだろう。わたしはパパの自慢の娘であらなければならない。……パパに嫌われてこの場所を追い出されないようにしないと。



 そんな決意を胸にわたしは書物を手に取る。



 わたしの今の身長は前の私よりも少しだけ低い。その身長で手を伸ばして、気になった本を読む。とはいえ、わたしが分からない文字で書かれているものもあって、そのあたりはわたしも勉強中だ。

 パパに我儘だと言われたくないので、自力で学ぼうと思っている。




「ん~」



 でも正直言って知らない文字を学ぶのは難しい。



 パパは長生きしているからか、色んな言語で書かれたものが此処にはあるのだ。

 わたしは最近書庫にいつもいる。時間がある時は書庫にいて、こうやって本を読んだり、文字を学んだりしているのだ。それにしてもパパの書庫は昔の本も沢山あって凄いと思う。

 結局昼食の時間になるまでわたしはずっと書庫にいた。




「ベルレナ、昼食は作らなくていいのか」

「作る」




 パパに呼びに来られるまでわたしは昼の時間になっていたことに気づいていなかった。パパから言葉をかけられぐぅうとお腹が鳴った。少しそのことが恥ずかしくなった。



 その後、パパと昼食を作った。



 パパと一緒に昼食を作ることも楽しかった。パパはあまり自分から喋らないから、わたしからご飯を食べている間、パパへと話しかける。パパはそれに答えてくれる。ただそれだけのことでもわたしにとっては嬉しくて、あの二年間の悲しかった日々を忘れさせてくれるものだった。



「ベルレナ。散歩行くか?」

「うん」



 パパはわたしをよく散歩に誘ってくれる。



 パパは散歩をするのが結構好きなのかなと思う。わたしが断ったとしても、パパは一人でふらりと散歩することがあるから。でも最近パパがわたしを散歩に誘うのは、わたしのことを気にかけてくれているからだと思う。



 パパと一緒に外に出る。



 自分の足で、地面を踏むというただそれだけが嬉しい。わたしは裸足である。公爵令嬢としてこんなことをやったらはしたないと言われただろうけれど、わたしは裸足で地面を歩くことが楽しかった。

 そもそもこの家にはわたしの足に合う靴というのがない。服だってパパがホムンクルスのために用意したらしい、今着ている無地のワンピースしかない。




 ゆっくりと地面を歩くわたしに合わせて、パパもゆっくりと歩いてくれている。パパはわたしがこけそうになったら手を伸ばしてくれる。繋いだパパの手は暖かくて、わたしはずっと繋ぎたくなったぐらいだった。

 外は山の上だというのもあって少し肌寒い。けどわたしはパパが魔法をかけてくれているから、寒くはない。




「パパ、この花、綺麗」

「ああ。綺麗だけど気をつけろよ。幻覚効果のあるものだからお前なんて簡単に幻覚を見せられるぞ」

「えっ」




 わたしはパパの言葉に驚いてその綺麗な花――花弁が赤色の美しい花を見てしまう。花冠にしたら可愛いだろうなぁなんて呑気に考えていたので、そんな危険な花とは思えなかった。




「この花はそういう効果があるようには思えないだろう? それがこれの特徴だ。虫型の魔物が蜜を目当てに寄ってきたら幻覚を見せる。で、この花がある所にはあの魔物がいるんだ」




 パパが指さしたほうを見たら、そこには二足で立つ茶色の毛を持つ魔物が居た。パパがいうにはそれはリッチィベアというらしい。ちなみにリッチィとはあの赤い花の名前だそうだ。




「リッチィが幻覚を見せ、魔物が倒れたところをあいつが食らう。で、あの花の方はあいつのおかげで踏みつぶされることもなく、種を運んでもらったりして生存が出来ている」

「へぇ……不思議」

「ああいう共同関係にあるものは自然の中にはそれなりにいるぞ。この山はお前みたいな子供だとすぐにやられてしまうこともあるから、下手に出歩くなよ」

「うん。わたし、パパの言う通りにする」




 わたしはパパの言葉に頷いた。




 わたしはパパの側じゃないと、この山を自由に歩く事さえも出来ない。そのことは十分にわかっている。

 パパは素直に頷くわたしを見て、頭を撫でてくれた。




 パパはなんと言っていいか分からない時、とりあえずわたしの頭を撫でる。わたしはそうやって撫でられると嬉しくなってしまう。




 散歩から帰れば、わたしはまた書庫へとこもった。書庫で見つけた料理の本を読んだりもした。色んな本があって、この書庫は本当に楽しいのだ。

 そしてまた夕食の時間にはパパと一緒に料理を作って、食べる。それが終わればお風呂に入る。





 驚くことに王侯貴族しか入れないと言われているお風呂がこの屋敷にはあるのだ。パパはお風呂に入るのが好きらしい。




 最初身体が動くようになってからわたしは一人でお風呂に入ろうとしたけれど、途中で倒れてしまったから、それからはパパと一緒にお風呂に入っている。

 お風呂の鏡に映るわたしとパパは、見た目だけいうのならば本当の親子のようだった。

 身体がパパの娘といえるかもしれないけれど、わたし自身は正確にパパの娘というわけではない。けれど、パパと似ているんだと実感すると嬉しかった。





 そして風呂に入った後、わたしは髪を乾かして、眠りについた。




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