冬の日、家族三人での旅行 ④
「ふんふんふ~ん」
「ベルレナ、楽しそうね」
「楽しいよ。だって、今日はダニエメさんに会えるんだもんね。パパとママとニコラドさん以外の魔導師さんに会うの初めてだなぁ」
「普通はそんなに魔導師の知り合いはいないものよ」
ダニエメさん、どんな人なのかななんて考えながら鼻歌を歌っていればママにそんなことを言われる。
ちなみにね、今歌っていた鼻歌はこのあたりで伝わっている歌なの。宿のお姉さんに教えてもらったんだ。
氷の国と呼ばれている国だから、そういう歌もなんていうか、雪とか吹雪についてとか、あとは自然の厳しさについてとかだったりしたの。
地域によって歌も違うんだなって思った。
パパとママと一緒にお土産を持って、王都の外に出る。吹雪が吹いているから王都の門の所にいる騎士の人には心配されたけど、大丈夫! といって外に出る。
王都の外に出たから、ユキアのことも『使い魔のネックレス』の中から出してあげた。宿の中では出してあげていたけれど、外では出してあげれてなかったから。
《凄い吹雪!》
ユキアは知識としてはアイスワンドのことを知っているけれど、実際に目にするのは初めてだからか興奮した様子を見せていた。こういうユキアを見ると、こうしてユキアを故郷に連れてこられてよかったってそんな風に思う。
それにしてもユキアはこういう吹雪の中でも苦しさとかは感じてなくて、寧ろ心地よいらしい。精霊獣って不思議だなと思う。
でもなんだか、パパとママが言うには精霊獣って一つの形が正しいわけではないみたい。どの場所でどういう形で生きているかって結構異なるんだって。だからこそ、精霊獣と普通の魔物を見分けるのも結構難しかったりするのだとか。
そんな会話を交わしながら、ダニエメさんから指定された場所に皆で向かったのだけど、「ここね」とママが言った場所には何もないように見えた。
「ねぇ、ママ。何もないように見えるよ?」
「魔法よ。見えないようにしているのよ」
ママにそんな風に答えられて、屋敷にかけられているような見えないようにしている魔法がかけられているらしい。
「近づいても見えないけどどうするの?」
「無理やり開けるか?」
「パパ! いきなりそれはだめだよ!」
……パパはなんだか色んな手続きをふむのが面倒になったのか、魔法を使って無理やり開けようとしていたので慌てて止める。パパならそのくらい簡単に出来るだろうけれど、折角仲良くなりたいのに無理やり開けるのはだめだよね。
誰だって自分の家を無理やり開けられたらびっくりするもん。
「そんな力技を使わなくても大丈夫よ。ちゃんとダニエメからついたら合図を送るように言われているから」
ママは少し呆れたようにそう言って、手をかざした。そしたらなんだかキラキラした光が、目の前に流れていく。これがダニエメさんへの合図ってことなのかな? なんだかママの魔法も綺麗だよね。見ていて凄く幻想的というか、絵になる。
氷の世界で、綺麗なママが魔法を行使するのって、絵画みたいな光景。
ママが合図を送った後に、目の前の光景に変化があった。ただの吹雪の、雪や氷に覆われた光景だったのに――形式の一部が切り抜かれて、その奥に家みたいなものが見える。
ダニエメさんが開けてくれたってことなのかな? この切り抜かれているところから入ればいいのかな?
「パパ、ママ、なんかここだけ違う景色! 面白いね!! ここから入ってしまっていいのかな? お邪魔しますって言ったらいいかな」
「入って大丈夫だ。わざわざ開けてくれたんだからな」
「大丈夫よ。一緒にお邪魔しますって入りましょう」
パパとママがそう言って笑ってくれたので、ユキアを抱えてわたしは一緒にその切り抜かれた場所から中に入る。
その場所に「お邪魔します」って言って足を踏み入れると、後ろがしまった。中には家があって、この場所は吹雪がふいてない。
その家から一人の女性が出てくる。
綺麗な銀色に煌めく髪に、青い瞳を持つ人。白いドレスがよく似合っている。その人はわたしを見ると、キラキラした目を向ける。
「まぁ、可愛い! 貴方がベルレナ?」
わたしのことを可愛いと褒めてくれたその人は、単純に子供が好きなのかもしれない。にこにこしている。
「わたし、ベルレナっていうの」
「私はダニエメよ。それにしても……」
自己紹介をしたダニエメさんは、ちらっとパパを見る。
「ディオノレとそっくりね。これだけ瓜二つだと思わなかったわ。実の母親がいないって話は聞いているけれど、死別でもしたの?」
「違う。ベルレナの身体はホムンクルスだから、元々母親はいない」
「……まさか、どこかから魂を引っ張ってきたんじゃないでしょうね?」
あれ? ちょっと険悪な雰囲気? それにしてもニコラドさんも思えば同じようなことを言っていた気がする。
それにしてもママも口下手なのもあって、わたしの詳しい事情とかダニエメさんには話してなかったみたい。
「神の悪戯の影響でさまよってきたから拾っただけだ」
「あれが起きたの? へぇ……、私も神の悪戯にあった子は初めて見たわ。噂には聞いたことあったけれど……」
ダニエメさんは、神の悪戯の話を聞いて笑顔に戻った。面白そうな目でわたしを見ている。魔導師の人たちって、パパもママもそうだけど研究熱心な人多いから、わたしのことを気にかかっているのかもしれない。
そしてその後、すぐにダニエメさんはママの方を見る。
「ジャクロナも良かったわね。長年の片思いが実って」
「……からかうのはやめなさい」
「ふふっ、そんな目で睨まれても怖くないわ。顔が赤いわね。面白いわ」
ママに睨まれても、ダニエメさんはにこにこしていた。
そしてそういう会話をした後に、わたしたちはダニエメさんの家の中へと招待された。




