幕間 悪役令嬢の取り巻きの兄 ④
学園に通うための準備が着々と進められている。ベルラ様を探すために色んなところをネネデリアと一緒にぶらぶらしている。両親や兄には、ネネデリアに悪影響だと言われるが、血が繋がっていても結局彼らは俺のこともネネデリアのことも正しく理解していないのだなと思う。
ネネデリアは、ベルラ様を探したいのに探せないことに対してたまに機嫌が悪い。そういう時は一緒に今のベルラ様の絵を眺めておく。ネネデリアは分かりやすい人間なので、ベルラ様の絵を見るとすぐに機嫌をよくするのである。
「――アル兄様が学園に行ってしまうと、ベルラ様の話が出来なくなってしまうのが寂しいわ」
「俺は別に」
「アル兄様は、寂しがらなすぎじゃない?」
「たった二年だろう」
ネネデリアは二年後には、俺の通う学園に通い始めるので別に寂しいなどとは思っていない。学園生活に関しては色んな人とのかかわりが増えることは面倒だと思っている。ただ学園生活中に色んな情報を集めて、将来ベルラ様を探すための糧にしたいからその準備期間にはする予定だけど。
まだ俺も子供だからベルラ様を探すことが中々難しい。結局俺が自由に出来るお金も家のお金でしかないから。自分で金銭を稼ぐ術を確立し、ベルラ様を探しやすい環境を作ることが学園生活中の目標だ。
「ネネデリアが入学するまでの間に、俺はベルラ様を探すための環境を少しずつ整える」
「お母様とお父様の目がないですものね。そう考えると学園に入学したらベルラ様を探しやすくなるわ! 私もベルラ様のためになんとかしたいけど、何が出来るかなぁ」
「入学してネネデリアでも出来そうなことを見つけたら手紙に書く」
「ありがとう。アル兄様!! 私が何かしようとしたら、お母様たちが結構とめるから動きにくいのよね」
「一人娘だから心配なんだろう」
「私も男だったらなぁ。そしたらもう少し放っておいてもらえたんだろうけれど」
ネネデリアはそんなことを口にして、面倒そうである。ネネデリアは俺たち兄妹の中で唯一の女の子なので、ちょっと過保護気味に扱われている。それもあってネネデリアは自由に過ごせないことに不満を抱いているようだ。
学園に入学すれば寮生活になるので、ネネデリアも今よりは自由に出来るだろう。
「そういえばあの女はネネデリアに関わることをやめたんだよな」
「嬉しいことよね! でも学園に入学したらあの人がベルラ様のふりをしているのをずっと見なきゃなのよね」
「……学科で変えたらどうだ? 多分あの女は貴族科だろう。違うのにしたらいい」
「アル兄様は、魔法研究の学科に行くのよね?」
「ああ。学生のうちからお金をためやすそうだから」
実践というより、研究をメインとしている学科だけれどもその研究の中で、お金を稼ぐことが出来そうなのだ。お金を稼げば学園が休みの日に遠出をしてベルラ様を探しに行くことが出来るから。
「私もあの人が来なそうな学科を希望しようかな」
「……反対されそうだな」
「そうよね。なんだか反対されそうだわ! でもお母様たちが何と言おうとも私の人生なんだから私に決めさせてほしい!」
ネネデリアはそんなことを言って、学園に入学するまでの時間を使って両親を説得すると言っていた。
それにしても学園を卒業するころには、あの女は順調にいけば王妃になるだろう。あの女が王妃として崇められる国にずっといるのは嫌だと思うから、俺は家を出ようとは考えている。
ネネデリアは国内の貴族が婚約者だから、そのままそこに嫁いでいくことになるだろうか。
そう思って、このまま国内の貴族で結婚したらあの女をパーティーの度に見なければならないことを言えば、ネネデリアは嫌そうな顔をした。
「そっかぁ。あの人が王妃になったらそういう形になるのかぁ。そうなるとこのまま結婚はしたくないかもしれないわ。あくまで家が決めた婚約者だから、解消出来たら嬉しいかも」
「ネネデリアは婚約者に興味ないな」
「うん。それよりベルラ様に会いたい。ベルラ様が一番好き」
そんなことを言っているネネデリアは、まだ恋愛感情など抱いていない子供なのだろう。まぁ、俺もそういった感情は分からないけれど。
「学園生活中に、婚約者が私以外の人に興味を持ってくれないかなー」
「本当に婚約解消したいのなら、俺も協力する」
「本当に解消したくなったら、相談するわ!」
今、解消したらおそらく次の婚約者があてがわれるだけだろうからすぐには解消しないだろうけれど。
そういう風に動くとするのならば、ネネデリアが自分の力で、家のことを関係なしに生きていけるようになってからだろう。
俺たちがまだ子どもだから、動くことがなかなか出来ない。自由に出来ないことも沢山ある。学園に入学する前に、同年代の貴族の子供と交流を持つように親に言われて交流を持っている。最低限だけど交流を持っているけれど、やっぱりベルラ様の魂が一番綺麗だと思う。
――色んな魂の色を見る。それで俺が心を惹かれるような魂は中々ない。色んな魂を見れば見るほど、やっぱりベルラ様に会いたいなと、そんなことばかり思うのだった。
学園に入学したら俺の世界はまた広がっていく。でもどれだけ世界が広がり、色んな人の魂を見てもベルラ様以上に惹かれる魂はないんだろうなと思っている。




