幕間 身体を奪ったあの子 ⑦
一部修正
「どうして……」
私は自室の中で、そう呟く。
鏡に映った私の表情は、少し暗い。
私が仲良くしたいと思っているネネデリア・オーカス……ネネちゃん。
そんなネネちゃんが「ベルラ様に会いたい」と言っていたと聞いた私は、喜んで会いに行った。だって私と距離を置いていたネネちゃんが私と仲良くしてくれようとしてくれたから。
だけど……違った。
ネネちゃんは、以前と変わらなかった。
私はネネちゃんが、会わないうちに私を好きになってくれたのではないかって思ってた。
だって私は乙女ゲームの中のベルラと違って、人のためになる行動をしてきたつもりだ。だからこそ嬉しいことに私が優しくした人たちは私のことを好きになってくれた。
ネネちゃんはゲームのベルラのことを嫌っていたけれど、そのベルラとは私は違うってわかってくれたのかなって期待した。でも違った……。
正直よくわからない。
ネネちゃんは私と会話をしてくれた。でもネネちゃんが望んだのは私と会うことではなかったのだと思った。
なら、誰に会いたかったのか……。
正直私にはそれが分からなかった。ネネちゃんの周りに私と同じ名前の人は私しかいない。ベルラ様に会いたいというつぶやきは聞き間違えだったのかもしれない。
ぬか喜びしてしまった私は落ち込んでしまった。
そうしていれば、侍女のセイデに声をかけられる。
「ベルラ様、悲しいことでもあったのですか? 大丈夫ですか?」
こうやって私のことを心配してくれて、本当に良い子だと思う。乙女ゲームのベルラはこんないい子を嫌がらせに使っていたのよね。私は絶対にそんなことをしないわ。
「大丈夫よ。前々から仲良くしたい子がいるのだけど、全然仲良くなれなくて……。私何かしてしまったかしら」
「昔のベルラ様ならともかく、今のベルラ様を嫌う方なんていないですよ」
「ふふ、ありがとう」
「私はベルラ様は皆に好かれて当然と思ってますけれど、世の中にはいろんな人がいますからね。仲良く出来ないのならば仕方がないって割り切るのは大事かもしれないです。私も下働きをしていた頃、訳の分からないままに周りに嫌われたことありましたから。ふふ、その時に行き倒れていた私にベルラ様が声をかけてくださったんでしたよね。昔のことなのでベルラ様は覚えていないかもしれないですが……」
「なんとなくだけど覚えているわ」
私がベルラとして転生する以前の記憶はないけれど、ファンブックに載っていたから知っているわ。なんだかんだ、乙女ゲームのベルラの我儘に付き合ったり、嫌がらせをするのを聞いていたのは過去にベルラに助けられたことがあったからなのよね。結局そんなベルラに嫌気をさして嫌っていくわけだけど……うん、本当に幼いころに転生が出来てよかったわ。
行き倒れていたのを、お母様と一緒にそこにいたベルラが目撃して「この子連れ帰るわ」と決めて連れ帰るのよね。ただ気に入ったとか、自分の物にしたいとかそう思っていった言葉っぽいとファンブックには書いてあったけれど。
でもそうだわ、セイデの言う通り私が幾ら仲良くしたくてもネネちゃんが私と距離を置くならどうしようもないのよね。もっと私がゲームのベルラとは違うって示し続ければ仲良くしてくれるかしら? 無理かもしれないけれどそんな期待をして頑張るしかないわ。
それにしても、もうすぐお兄様やアルバーノが学園に入学するのよね。
まだ乙女ゲームの時期である高等部までは時間があるけれど、ゲームの舞台にお兄様達が行くと思うと……なんだか本当にここは現実でもゲームと類似した世界なんだなって思う。
私が転生者だから色々と変わってしまっているけれど、スチルのようなシーンを見れたりするかしら? ううん、現実だからこそスチルとは違う素敵なシーンも見れるのよね! ガトッシ殿下は渡せないけれど、他の攻略対象に関してはヒロインを応援する気満々だから、仲良くなれるように頑張らないと。
人の心は分からないものだから、ガトッシ殿下がヒロインに惹かれたら……ってやっぱり時々不安にはなるけれど、なるようにしかならないわね。
「ベルラ様、どうしましたか?」
「お兄様が来年から学園に通うでしょう? 私もいずれ通う学園だから少し気になっていて」
「ベルラ様なら学園でもお友達が沢山出来ますよ」
セイデは本当に心からそう思ってくれているのが分かって、私も笑った。




