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幕間 悪役令嬢の取り巻きであるはずの少女 ④

 アル兄様が次の春から学園に行ってしまう。

 私はそのことを思うと寂しさも感じてしまう。アル兄様は私にとってベルラ様のことを語れる唯一の同志だった。誰もがあのベルラ・クイシュインを求める中で、いなくなってしまったベルラ様のことを求めているのは私が知る限り私とアル兄様だけだった。



「アル兄様は、学園に入学したらまたベルラ様を探すのが難しくなっちゃうね」

「ああ。……でも休みの度に出来る限り探す予定だぞ。それに卒業後もベルラ様を探せるように学園生活中に準備をしておこうとは思っている」

「私もそうしたいなぁ。でも流石に結婚しないとお父様やお母様がうるさいかも。私、結婚なんかよりも……ベルラ様に会いたいのに」



 私は貴族令嬢として、いつか結婚しなきゃいけないだろう。そもそも私には婚約者がいるわけで、順当にいけばその相手と結婚する。

 結婚したら……ベルラ様を探すことは継続できるんだろうか。そう思うとなんだか結婚に乗り気じゃない。それなりの仲だけど、婚約者のことを愛しているわけでもない。

 婚約者相手にはあの人の話をしないようにしている。だって婚約者があの人を好ましいとか言っていたら、なんか一緒に居る気持ちも萎えてしまうから。幸いにもというか私の婚約者は身体を動かすことばかり考えている。だから有名になっているあの人のことも関心がないみたい。




 アル兄様は次男だし、なんだかお父様たちに何を言われても自由になるために押し切りそうな気がする。というか、アル兄様って家族内では私以外とはそこまで仲良くないし。




 ベルラ様に会いたいなって思いながら、貴族令嬢としての義務でお茶会とかに顔を出したりはしている。もっと大きくなったら本格的な社交界デビューもある。社交界デビューしたらもっと、あの人がベルラ様のふりをしているのを目撃することになるんだよね。




 それに、あの人が王妃になったら……うん、やっぱりなんか私はそれがベルラ様が手に入れるはずだったものなのにって何年たっても思ってしまう。

 今の新しいベルラ様は、あの人のことをどう思っているんだろうか。




 お茶会に顔を出すと、そのお茶会にあの人が参加していなくてもあの人の噂はよく聞く。多分、同年代で一番有名にはなっているんじゃないかな。あの人にあこがれている人は本当に多くて、あの人にやさしくされたって慕っている人は多い。あの人は貴族間でいじめを目撃したら止めたりと、正義感が強い。

 ……ベルラ様の身体を奪ったって知らなきゃ、昔のベルラ様を私が慕っていなければ、他の子たちと同じように私もなっていたのかなとは客観的にみると思う。




 私とアル兄様が求めているベルラ様は、もう周りの人たちにとっては過去でしかない。




「……ベルラ様に、会いたいなぁ」




 私とアル兄様が求めるベルラ様に。ベルラ・クイシュインの姿をしたあの人じゃなくて、私たちが会いたいと願うベルラ様に。



 ぽつりとつぶやいた言葉を周りに聞かれてしまって、あの人と会う機会が設けられてしまった。




 あの人は私の会いたい発言を知って嬉しそうにしていたけれど、私の態度がいつも通りだったからあの人は戸惑った様子だった。




 私の会いたいベルラ様は、貴方じゃないんだ。



 ……というか、思うのだけどアル兄様はベルラ・クイシュインの身体を使うあの人は大人の魂だって言ってた。成熟した大人の魂……。それでいてベルラ様と切り替わる前の記憶はないっぽいのは、ちょっと話してみればわかった。

 なら、自分がベルラ様の身体を奪ってしまったことぐらい……思い至るんじゃないかなって思う。まだ子供の私でも……誰かの身体を奪って、自分が別の誰かになってしまったらって考えるだけで胸が痛い。

 私が同じ事象に陥ったからっていうのもあるけれど。




 でもよく考えたら私の身体を少し使っていた名もわからないあれも、平然と私のふりをしていた。私の身体を使っていた人と、ベルラ・クイシュインは同類なのかもしれない。



 人の身体を突然奪っておいて、それでも罪悪感も何もなく生きている目の前のベルラ・クイシュインは、私にとってやっぱり不気味で仕方がない。

 誰かから奪ってしまったって実感しているなら、もっと悲しんだり、苦しんだりしそうなものなのに。



 そんなことを一切せず、ベルラ様が手に入れるはずだったものを当たり前のように受け取って、それでいてなんでか知らないけれど楽しそうに充実した日々を送っている。

 やっぱり周りが幾ら今のベルラ・クイシュインを慕っていても、好きでいても――私にとってのベルラ・クイシュインは一人で、目の前の人を好きにはなれないだろうなって思う。




「ネネデリア様、本日は楽しかったです」

「はい」



 ……ベルラ・クイシュインは、笑う。



 社交辞令というか、貴族としての仮面をかぶって私に楽しかったと笑いかける。



 目の前のベルラ・クイシュインは大人なのだ。大人だからこそ、私が「ベルラ様に会いたい」と口にしたのに、いざ会ってこういう態度でも仮面をかぶる。

 でも私の会いたいベルラ様なら、多分、きっと……文句を言うなり、どうしてなの? って聞いてきたりしたと思う。ベルラ様は自分の感情を素直に口にする人だったから。




 まっすぐさと、強烈さ。

 そして自分というものを持っていて、派手なドレスとかも好きで。自信があって。



 大人であるあの人は、ベルラ様とは正反対。

 全く違うのに、どうしてベルラ様の家族もベルラ様が違うことに気づかないんだろうって、ちょっと悲しい気持ちになった。





 そしてやっぱりベルラ様に会いたいなってそう思ってしまう。



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