幕間 身体を奪ったあの子 ⑥
「ベルラ、君は本当に努力家だね。君が婚約者で僕はとても誇らしいよ」
「ありがとうございます。ガトッシ様」
ガトッシ様の婚約者として、私は王宮に顔を出すことも多い。ガトッシ殿下との仲は、良好といえるだろう。
貴族社会の中でも、私とガトッシ様はお似合いの婚約者と周りから言われていて私はとても嬉しいの。
でも……クイシュイン公爵家の血が流れているのに、火属性の魔法が幾ら練習しても上手くいかない。適性が低いんだって。
そのことで、ガトッシ様の婚約者に相応しくないのではないかなんて言われたりもする。
魔法の適性に関しては、努力でもどうにもならない。乙女ゲームの世界では火の魔法が得意だったはずのベルラが、どうして使えないのかが分からないけれど、どうしようもないものはどうしようもない。
「ベルラ……何か悩み事?」
「……クイシュイン家の娘でありながら、私は火の魔法を上手く使えないから。少しそれが気になってるんです」
「それは気にしなくていいよ。僕が望んで、君を婚約者にしているんだから」
そんな風にガトッシ様が笑ってくれるから、私はほっとする。
でも『ライジャ王国物語』が始まってしまったら、ヒロインにガトッシ様は靡いてしまうのだろうか。私はゲームの悪役令嬢のようになるつもりはないけれど……強制力とかあったらどうしよう?
ヒロインに奪われることがないように、ガトッシ様と一緒に幸せになるために……そのために努力はしているつもりだけれど、それでもどうにもならないのならばどうしようか。
ガトッシ様は、私に対して恋愛感情を抱いていてくれているのだろうか。……まだ子供だからこそ、私に向けられているものがただの親愛である可能性もあるのよね。
そこまで考えて私は首を振った。
「ガトッシ様、私はガトッシ様がそう言ってくださって嬉しいですわ。大好きです」
そう言う気持ちを伝えることに恥ずかしさはあるけれども、私はガトッシ様と一緒に居たいからこそその言葉を告げる。
そうすれば、ガトッシ様は嬉しそうに笑ってくれて……私はとても嬉しかった。
王宮での王妃教育の後、王都のクイシュイン家の屋敷へと戻った。
お兄様は領地の屋敷にいるのでいなくて、少し寂しいなんて思う。でもお兄様も来年になったら学園に入学してしまうのだ。今までよりもお兄様と会えなくなると思うと寂しい。
でもお兄様から学園の情報を先にもらえたら……色んな対策は出来るだろう。こういう悪役令嬢に転生する話だと冤罪をかけられることも多いから、冤罪をかけられることもないようにしないと。
「……学園かぁ」
学園のことを考えると、不安と興奮と、色んな感情を私は抱く。
『ライジャ王国物語』の舞台であるということで、何か大変な事態にならないかという不安はある。
でもそれ以上に、大好きだった世界の舞台だと思うとわくわくした気持ちになる。入学するまでの間に、出来ることをしないとね。
そう思いながらベッドで寝転がっていたら、夕食の時間だと呼ばれる。
今回王都にやってきているのは私とお母様とお父様だ。三人で食事をとる。
食堂には大きな赤い鳥の絵が描かれている。――それは火のクイシュイン家の守護鳥と呼ばれている存在である。『ライジャ王国物語』の中でも、悪役令嬢ベルラ・クイシュインの切り札として出ていた。ただその存在を私利私欲のために呼びだそうとしてベルラ・クイシュインが破滅するENDもあった。
その守護鳥は、クイシュイン家と結ばれており、危機には助けてくれる存在だとされている。ちなみにここ百年以上、呼び出された実績はないらしい。そういう大それた存在を恋のためにベルラ・クイシュインは『ライジャ王国物語』で呼び出したのよね……。
今は私がベルラだから、危険なイベントの時に、助けてもらえるようにしたいって思っているの。ただ守護鳥を呼び出すのには大きな魔力もいるって聞いているから、それも踏まえて学園に入るまでに頑張ろうと思っている。
「ベルラは、守護鳥様がお気に入りね」
「ええ。とっても綺麗だと思うもの」
絵の中の守護鳥はとっても綺麗なのだ。美しくて、この存在を現実で呼び出せたら――きっと素敵だろうなと思う。
イベントの中で守護鳥を呼び出すことが出来、そしてそれだけの力を持つと示せればガトッシ様の隣に立つことをもっと認めてもらえるはずだもの。
私はその守護鳥を、いつかこの手で呼び出すことを夢見ている。
 




