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新しい生活 ③

「ねぇ、パパは……いつから此処?」



 わたしはある時問いかけた。



 相変わらず言葉が拙くて、もどかしい。わたしはパパにもっとちゃんとした言葉で口にしたいのに。心の中では幾らでもしゃべれるのにな。

 そんなことを思いながら問いかけた言葉は、この屋敷が年季が入った屋敷に見えたからだ。




「いつからかなんて覚えてない。百年か、二百年前か?」

「へ?」



 パパが何か実験をしながら簡単に答えた言葉に、わたしは驚いた。



 百年か、二百年?

 パパは冗談を言っているのだろうか。それとも十年、二十年の間違いなのだろうか。そう思いながら椅子の上からパパをじっと見る。パパはその視線を感じたのか、わたしの方を向いてくれた。




「何を驚いてる? 俺は魔導師だからな。もう数百年は生きてるぞ」

「魔導師、なに?」

「魔導師はその名の通り、魔を導く者だな。魔法を誰よりも知っている存在といえるかもしれない。魔導師と呼ばれるほどに魔法に長けている者は、大抵寿命なんてないに等しいぞ」

「凄い!!」



 魔導師と呼ばれる存在は、人よりも寿命が長くなっている人が多いみたい。目の前のパパもとても綺麗で、若いお兄さんなのに……わたしよりもずっと長生きしているみたい。

 びっくりして、凄いなって、思わず前のめりになってしまった。それからちょっとハッとする。研究中に急にこんな風に声をあげてしまってパパは嫌な気分になったりしなかっただろうか。



 そう思ってパパを見れば、パパは特に気にした様子はなかった。




「パパ、ずっと一人?」



 随分長い間、パパが此処で暮らしていることは分かった。此処には人がやってくる気配がない。それを見ると、パパはずっと一人だったのだろうかとわたしは疑問に思った。



 一人は寂しいものだ。わたしは一人ぼっちだと悲しくて、泣き出しそうになる。でもパパはずっと一人で寂しくないのだろうか。




「そうだな。自分から出かける以外はずっとここに引きこもっているからな」

「寂しくない?」

「別に。俺は好きで一人でいるからな」

「……パパ、わたし、いない方がいい?」

「そういうことではない。お前は俺が連れてきたのだから。それにお前は面倒じゃないから」




 一人が好きだというパパ。でも今はわたしがいて、いない方がいいのではないかと思わず口にしてしまう。パパは軽くそれに答える。

 パパの言葉は、嘘がない。パパは本音で語る。――そんなパパの嘘をつかない所が好きだなぁと思う。




「パパ、結婚したことある?」

「……何を気にしてるんだ? ないな」

「子供は?」

「いない。……いや、今はお前一人か」



 パパは長く生きていても誰とも結婚をしたことはないらしい。そして子供はわたしだけらしい。

 それにちょっとだけ嬉しくなったとは、パパがわたしだけのパパなんだっていう独占欲を感じているからなのかもしれない。



「そっか」



 笑ったわたしのことをパパは不思議そうな顔で見ていた。



 パパにとってみれば、わたしが子供みたいなものでも、取るに足らない存在だというのは分かる。パパはただわたしを使おうとして連れてきただけで、娘といってくれていても、家族がわたしを可愛がってくれていたような感情はないというのは分かる。



 わたしはこの短い期間でもすっかりパパのことが大好きになっていた。刷り込みのようなものなのかもしれない。パパだけが見つけてくれて、パパだけがわたしに未来をくれたから。

 例えばわたしはパパ以外がわたしを見つけてくれても、ホイホイついて行って、慕ったかもしれない。でもわたしを助けてくれたのはパパだから。



 パパにわたしを好きになってもらうためにはどうしたらいいのだろうか。パパの役に立つためにはどうしたらいいんだろうか。

 考えてもあまり頭に良い案は浮かばない。




 それにどちらにせよ、わたしの身体がもっと動くようにならないとパパを喜ばせることは出来ない気がする。今のわたしは何も出来ないから。パパはわたしを観察しているだけでも満足だというけれどわたしはパパのために何かをしたい。



 パパがわたしのことを自慢の娘だと言ってくれるように。パパがわたしのことを大好きになってくれるように。そのためにわたしは行動を起こそうと思う。




 まずは、立ち上がることが第一。

 立つことが出来れば、歩くこともきっと出来る。ただこの身体が動いてこなかったからこそ、こうして今動けない。けれど頑張れば、歩けるはずだ。



 歩けるようになったらパパのために行動をしたい。そんな目標をもとにわたしはより一層身体を動かす練習に励むのだった。



 パパは一生懸命立ち上がって、歩こうとするわたしを見て「そんなに急がなくていい」といっていた。けれどもわたしはその言葉に「大丈夫」と口にして、練習を続けた。



 そしてようやく満足に歩けるようになったのは、新しい身体を得て一か月ほど経ってからだった。



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