パパとロナさんと、ニコラドさん ③
ニコラドさんは相変わらずロナさんのことを警戒している様子だった。
わたしがロナさんを連れ出そうとすると、ついて来ようとしたりするの。ロナさんがわたしに何かするのではないかみたいに思っているみたい。
むー、女同士で会話も交わしたいのに。ニコラドさんはちょっとどこかに行ってほしいけれど、仕方がないかなぁ。
それにしてもまだパパとロナさんは話せていないんだよね。ちゃんと話せていないからもっと、話せるようになってほしいなって思う。
だってパパとロナさんの会話ってすごく短いの。わたしはパパに沢山話しかけるからパパと会話が続いているけれど、パパもロナさんもあまり自分から会話しないもの。というか、ロナさんってばパパに話しかけるのを緊張しているのか、わたしと喋るよりもちょっと無口になるんだよね。
というか、ロナさんってわたしに話しかける方が多いかも……。うーん、パパはそういう人からの感情に鈍いから全然ロナさんの気持ちに気づいていないだろうし……。まぁ、でも喋らなくても心地よい空間っていうのも良いと思うけれど。
今日はね、パパとロナさんは魔法の研究に勤しんでいる。
ニコラドさんは退屈そうにしながらも、魔法の研究をしている。……パパとロナさんを二人にするのは問題だって思っているみたい。それにしてもパパもロナさんもニコラドさんも……色んな研究をしているなぁ。わたしには全然理解出来ない難しいことを三人とも見ている。わたしはそんな三人の横で、書庫から持ってきた本を読んでいる。
ロナさんは夢中になったら結構喋らなくなるほうみたい。パパと似たようなタイプなのだと思う。
わたしはもうそろそろご飯の時間だなという時間になると、キッチンへと向かった。パパとロナさんに軽く声をかけたけれど聞いているかは分からない。
ニコラドさんは、飽きたのかわたしが料理するのを手伝ってくれるってついてきた。
「なぁ、ベルレナ。あの『黒闇の魔女』は本当に何を考えているんだ?」
「ニコラドさんが心配しているようなことは何も考えてないよ?」
料理をしながら、ニコラドさんにそう答える。
ニコラドさんはわたしの言葉を聞いても、納得できないような表情を浮かべていた。流石にロナさんがパパのことを好きだって言うの、勝手に言うのは問題だしなぁ。
「とりあえず、ロナさんはニコラドさんが心配するようなことは何もないんだからね! それにパパに何かするような人なら、わたしはパパに近づけないよ。わたしはパパのことを絶対に守るもん」
「ベルレナの方が守られる方じゃねぇの?」
「わたしは守られるだけじゃないよ! わたしは、パパのことが大好きだからパパのことをわたしも守るの。だからニコラドさんもそんなに心配してこっち来なくてもいいんだよ? ニコラドさんも忙しいんでしょ?」
わたしがそう言って笑かければ、ニコラドさんはやっぱり少し何とも言えない顔をしている。
うーん、ニコラドさんとロナさんの間の溝は深いなぁ。
なんて思いながらも食事の準備が出来たので、パパとロナさんに声をかける。
パパとロナさんは「ご飯の時間だよ」と声をかけると、もうこんな時間かと驚きながら席についた。パパもロナさんも、ニコラドさんも、美味しいと口にして料理を食べてくれてとても嬉しかった。
「ベルレナは料理も出来るのね。凄いわ」
「ロナさんは料理は?」
「私は……結構適当に済ませてしまうもの」
「ふふ、パパとロナさんってやっぱり似ているね」
「そ、そうかしら」
パパと似ているという言葉を口にすると、ロナさんは嬉しそうに笑った。少し照れた様子は、ぶっきらぼうだけどとても可愛いと思う。
わたしはパパとロナさんに話を振りながら、沢山の会話を交わす。
そうしていれば、珍しくニコラドさんが無言になっていた。そして何か考えるようにパパとロナさんを見て、何かに気づいたような顔をする。
「まさか、『黒闇の魔女』って、ディオノレのことす――」
「ニコラドさん! ちょっとこっち来て。パパ、ニコラドさんを借りるからね」
わたしはそう言って、ぽかんとした顔のパパとロナさんを置いて、ニコラドさんを連れ出す。
「え、まじか……、あいつって、ディオノレのこと好きなの?」
「ニコラドさん……、気づいてもそういうことを本人の前で言っちゃだめだよ。デリカシーがないよ!」
ニコラドさんはわたしの言葉に少しショックを受けた表情を浮かべた。
「ねぇ、ニコラドさん。ロナさんってパパのことが好きだけど素直になれないだけなんだよ。だからね、パパに何かをするとかないの。わたしね、ロナさんが思いを告げるのは良いと思うの。それでパパがそれを受け入れるかは分からないけれど、わたしはロナさんのことが好きだし、パパが恋をするならそれはそれで嬉しいって思うもん」
「……まぁ、ディオノレが恋をするのは面白そうだとは思うが。でもあいつがディオノレの相手……?」
「ニコラドさん! そういうのは本人達が決めるんだよ。だから邪魔したら駄目だからね!」
「はいはい。分かっているよ」
ニコラドさんは友人としてパパのことが好きだからか、ロナさんのことに複雑な感情があるらしい。男同士の友人関係だと、友人の恋人について色々考えることがあるのかもしれない。
でもまぁ、ニコラドさんが邪魔しないって言ってくれたから良しとしよう。
お知らせ
『身体を奪われたわたしと、魔導師のパパ』書籍化決定しました。
詳しい告知は告知出来るようになってからします。




