『黒闇の魔女』がやってきた! ①
「ねぇねぇ、パパ、この帽子可愛いでしょー!!」
「ああ。ベルレナによく似あっている」
わたしはその日、街の友人達からもらったものを一つ一つ試してみてパパの前で披露していた。
パパが観客の私主催のファッションショーみたいな感じ!
誕生日の後、パパと訪れたことのある街を沢山訪れたら沢山色々くれたんだよね。
そういうものって、一日だけでは中身を確認したり着れたりは出来ないから時々こうやって見てもらっているんだよ。パパはね、似合っているって褒めてくれるの。
パパって結構親バカというか、わたしのことが大好きだよね。
でもパパって似合ってないものはちゃんとはっきり言ってくれるんだよね。わたし、パパのそういうところが好き。はっきりしていて、自分の意志をちゃんと告げてくれる感じ。
それにしてもパパって、わたしと出会ってからおしゃれに少しずつ関心を持ってきているよね。
良いことだよ。
ただでさえとっても綺麗なパパがおしゃれに関心を持って、もっと素敵になれるもんね。
ワンピースを着て、パパの前でくるりっと回る。
うん、楽しい!!
わたし、パパの前でしかこうやっておしゃれをした姿を披露することはしたことないけれど、もっと多くの人の前で披露しても楽しいのかもしれない。だってパパの与えてくれたこのホムンクルスの身体はとっても可愛いもの。もっと可愛くなれるように、気を付けてもいるし、わたしってパパに似て可愛いと思うの! パパのくれた自慢の身体なんだから皆に褒められると嬉しいしね。
そうやってパパと過ごして、ご飯を食べる。
今日はね、この季節になると実る果実でジュースを作っているの。本で読んだのだけれども、この果実ってとても肌に良いらしいんだよね。肌に良いものっていいよね。食べるものって大事だって言うもん。
パパの顔色もとっても良いもんね。パパの好きな食べ物とか、飲み物とかもこの二年の暮らしで知ることが出来てわたしはとても嬉しいの。でも体に悪いものばかり食べててもパパが体調を崩したりするかもしれないから、ちゃんと体に良いものにしないとって気をつけているけれど。
だって幾らパパが魔導師だとはいえ、何か病気や体調不良になったら大変だもん。
「パパ、美味しいね! 食料庫に沢山のものがあるから、色々食べたり飲めたりして楽しい!」
「そうだな、美味しいな」
パパと一緒にのんびりと食事をとるのもとっても楽しい。
食事を終えた後は、わたしは屋敷の周りで魔法の練習をする。一人でもある程度の魔法の練習は良いって言われているもん。
でもパパみたいに魔法を簡単に使うのは全然出来ないんだよ。パパとかニコラドさんには、わたしの年にしては魔法を使えているってそう言ってくれているけれど。それでもパパを知っているから全然だなーとは思う。
「んー。難しいなぁ」
魔法というのは、やっぱり難しい。
パパほどに魔法が使えるようになれるのは、ずっと先なのだろう。わたしが魔導師にならずにただの人間のままだったのならば、生きているうちにパパのようにはなれないのかもしれない。
わたしはまだ将来どうなりたいか、どう生きたいか、分かっていないけれど、もっと魔法は使えるようになりたいなと思う。
ちなみにわたしが魔法の練習をしている間、パパはのんびりと屋敷の中で過ごしているみたい。魔法の研究をしたり、昼寝をしたり、パパって結構いつもだらだらしているから。
そうやって魔法の練習をしていたら、何かが近づいてくる気配がした。
そちらに視線を向ければ、箒に乗った黒髪黒目の女性がいた。黒いドレスみたいなのを着ていて、とっても大人っぽい人。あれ、もしかしてこの人が『黒闇の魔女』さんなのかな? 何で箒に乗っているんだろう? 魔導師ならばそういう箒などなくても空ぐらい飛べそうだけれど……。
それにしても少しだけ目つきはキツイ感じだけど、綺麗な人だと思う。
なんて思いながら、
「こんにちは!」
と声をかけたら、何故だか『黒闇の魔女』さんは口元を抑えた。
「こ、これが、ディオノレの娘? か、可愛い……」
何だかブツブツ言っているけれど、どうしたんだろう?
「どうしたの? 大丈夫?」
口元を抑えている『黒闇の魔女』さんが心配になって、首をかしげながら近づいて問いかける。
「……はっ、そうじゃないわ!」
「大丈夫??」
なんか一人で納得してキッとこっちを見ているけれど、うーん、どうしたんだろう? ニコラドさんは怖い人みたいに言っていたけれど、そんなに怖い人には見えないなぁ。
「……ディオノレの娘!」
「うん。わたし、パパの娘だよ! わたしね、ベルレナって言うの! 貴方は『黒闇の魔女』さん?」
「くっ……」
「どうしたの??」
何だか様子がおかしいけれど、どうしたんだろう?
なんて思っていたら、パパが屋敷から出てきた。




