春の訪れと、二度目の誕生日 ④
パパに抱っこされたまま、街を移動する。
こうしてパパに抱きかかえられていると、パパの体温が感じられて嬉しい気持ちになる。今回やってきたのは、今まで行ったことがない街なのだけど、わたしとパパを見て街の人たちが笑みを浮かべてくれる。
「仲が良い親子ね」
「お父さんも娘さんもとても綺麗」
周りからのそういう声を聞いて、わたしは何だか嬉しくなった。
わたしのパパ、とっても綺麗で、かっこよくて、素敵だもん。周りから声をかけられて、わたしは嬉しくなってパパのことを自慢する。パパはわたしが自慢をすると、少しだけ恥ずかしそうにしていて、やっぱりパパは素敵だなと思う。
「今日ね、わたしとパパの誕生日なの」
そう言ったら街の人たちはおめでとうと口にして、おまけをしてくれたりした。
パパは基本的に人と関わらずに暮らしている人だから、こうやって沢山の人におめでとうと言われることが少しむず痒いようだった。
「ねぇねぇ、パパ、あれ、欲しい!!」
わたしはそう言いながら指をさす。その先にあるのは春に咲くお花で作られた香水である。ふんわりとした花の香り、それをかいでいると自分がまるで花畑に来たようなそんな気持ちにもなった。
「わぁ、いい匂い」
素敵な匂いに、ワクワクした気持ちになる。
誕生日の月のお客さんには、おまけでメッセージカードもくれるってことなので、わたしとパパはお揃いの香水を買った。おめでとうと書かれたメッセージカードも何だか嬉しい。
そういえば、パパは移動の間、ずっとわたしのことを抱きかかえていた。重くないのかな?
と思ったけど、問題はないみたい。わたし、自分の足で全然歩いていなくてまるでお姫様か何かになったような気持ちになった。
やっぱり誕生日をお祝いしてもらえるのって楽しい。身体を奪われて、ただ漂って、あの子が祝われているのを見ていただけだった頃はとてもつらかった。独りぼっちだという感覚になって、未来に対しての希望なんて抱けなかった。――でもそんな私が今、沢山の人からお祝いされている。そのことが本当に嬉しかった。
「パパ、わたし、とても楽しい。パパも楽しい?」
「ああ。楽しいぞ」
「ふふ、良かった! パパの誕生日でもあるんだから、パパにも沢山楽しんでもらわなきゃだもんね」
「ベルレナを拾ってから、俺はずっと楽しいからただ好きなようにすればいい。そうすれば俺は楽しいから」
パパはそんな嬉しいことを口にしてくれている。
パパはわたしのおかげで楽しく過ごせているってそんな風に言ってくれるなんて、なんて嬉しいことだろうか。パパはわたしがいると嬉しいと言ってくれて、わたしもパパがいて嬉しい。互いに一緒に居て嬉しい関係って良いなって思う。わたし、パパのことが大好きだから、パパのことをもっと喜ばせて、楽しませて――パパにもっとわたしのことを大好きになってほしい。
「じゃあ、パパ、もっとお買い物しよう! わたしはパパに似合うものをもっと買いたいの。わたしのパパが素敵なんだって、わたしはパパのことが大好きなんだって、それをまわりに見せびらかしたいの!」
大好きなパパをもっと素敵にして、この素敵なパパがわたしの大好きなパパなんだって見せびらかしたい。わたしのパパ、素敵でしょって聞いて周りたい。
そういう気持ちでいっぱいのわたしはそれからパパに抱っこされたまま色んなお店に連れて行ってもらった。そしてパパに似合うものを沢山選んだ。パパも同じぐらいわたしに似合うものを沢山選んでくれて、購入したものは沢山になった。
少しだけ買い過ぎてしまったかな? とも思ったけれど、今日は誕生日だっていう特別な日だから仕方ないよね。こういう特別な日はぱーって沢山お祝いしないと! だって生まれてくれてありがとうってお祝いする日なんだもん!
生まれてきてくれてありがとう、誕生日おめでとうって、そういう言葉ってとても素敵だと思う。何だろう、その人を全肯定する言葉だし、そんな風に言われて嫌な気持ちになる人なんていないもの。わたしもこれから沢山の人と出会っていくと思うけれど、その出会った人たちの誕生日は思いっきり盛大にお祝いしたいなって思った。
「パパ、楽しかったね! 来年もまた、一緒にお祝いしようね」
「ああ。もちろんだ」
来年も、パパと一緒に誕生日をお祝いしよう。
そんな約束を当たり前みたいにパパと出来て、その来年がきっと当たり前に来ると確信出来ていることが嬉しかった。
そしてわたしの二度目の誕生日はそうやって過ぎて行った。




