春の訪れと、二度目の誕生日 ①
冬が通り過ぎて行って、春がやってくる。
温かな春の日差しと、花の香りに気持ちがよくなる。
アイスワンドから持ち帰った精霊獣の卵は、まだ孵っていない。パパがいうには、そう簡単に産まれるわけではないらしい。いつ産まれるのかなってわたしはワクワクしている。
パパは相変わらずだらだらしている。
わたしが起こしに行かないと、いつまでも寝ていて、本当にパパは不健康だなと思った。パパが幾ら魔導師とはいえ、不健康だと駄目だと思うから、パパをもっと健康にしないと! とそういう気持ちでいっぱいなの。
色んなところにパパに連れて行ってもらってから、わたしは特にパパはとてもかっこよくて素敵だなと思ったの。パパのことが改めて好きだなってそういう気持ちになった。
だから、わたし、パパの良さをもっと色んな人に知ってもらいたいって思って仕方がないの。
少しずつ交流を持っている人たちは、パパの素敵さを分かってくれていると思う。そう思うとわたしは嬉しい。
言動からパパは誤解されやすいけど、誤解されっぱなしは嫌だもんね。
「パパ、おはよう! 起きて」
「……もう少し」
「駄目! もう朝なんだよ? わたしはパパと一緒に朝ごはんを食べたいもん」
わたしはそう言ってパパを起こす。
パパは相変わらず朝に弱いなぁ。
パパと一緒に朝食を食べる。
「ねぇねぇ、パパ。このピザ、美味しいでしょ?」
「ああ。ベルレナも料理が上手になったな」
「ふふ、此処でずっと料理しているからね。もっと美味しいものをパパに食べさせてあげるから!」
パパにそう言ったら、パパは笑顔で頷いてくれた。
それにしてもパパは食事に無頓着だけど、わたしが作ったものを美味しいって食べてくれるんだよね。わたしはパパがそう言って喜んでくれるだけで嬉しい。
そういえば、街のお友達から恋愛小説の本を読ませてもらったんだよね。パパの書庫にはそういう本が全然ないから、面白いなと思った。
誰かと恋をするとか、そういうのはわたしは知らないけれど――心温まるような恋愛関係を築いている人たちは凄い素敵だなって思ったの。なんかね、街のお友達のヒミも言っていたんだけど、胃袋を掴むといいんだって。美味しい料理を作れるのって、お嫁さんになるのに良いことなんだって。
でも好きだなって思った人が、ご飯を美味しいって思ってくれたらきっと嬉しいよね。わたしが誰かとそういう仲になるとか想像は出来ないけれど、美味しいって料理を食べてくれる人だといいなぁなんて思った。
「ベルレナ、何、じっと俺を見ているんだ?」
「んーとね、ヒミから恋愛小説を借りて読んだんだけど、いつか誰かとそういう仲になるのならば美味しいって食べてほしいなって」
「ベルレナが料理を作ったのに美味しいも言わない奴なんて近づけさせないぞ」
「ふふ、パパってば、過激だなぁ。わたし、パパに美味しいって言ってもらえるの嬉しいって思って、誰かとそういう仲になるなら美味しいって言ってくれる人がいいなぁって」
「そうだな。……でもベルレナには恋愛はまだ早いからな」
「そうだね。子供のわたしより、パパだよ!」
「は?」
パパだよって口にしたら何を言っているんだ? という風にみられる。もー、パパは魔導師として長い時を生きているからだろうけれども、そういうのが無頓着すぎると思うの。
自分には関係ないと言う態度しているけれど、パパと結婚したい人は沢山いるんだよ!
「パパって、とっても綺麗だし、わたしの自慢だし。パパこそ、結婚相手を見つけるべきなんだよ! わたしは恋をしているパパも見てみたいもん!!」
「……ベルレナ、俺は魔法の研究をしてくる」
「あ、パパ! 逃げないでよ!!」
パパは自分が恋愛をするつもりなんてないからか、わたしの言葉に逃げるように去って行ってしまった。
うーん、恋をしているパパも見てみたいのだけど。
まだ子供のわたしは、恋なんてまだしてないし。パパが恋愛したら面白いと思うのだけど……。
ニコラドさんにパパの恋愛経歴でもきいてみようかな!
トバイがパパへと手紙を持ってきていたので、わたしもついでにニコラドさんへの手紙を渡す。パパに「何を書いているんだ?」って聞かれたけど、秘密にしておいた。
パパはどういう人が好みなんだろうか? 恋愛したパパはどんなふうになるんだろうか? 恋愛小説をこの頃、読んでいるわたしはそういう気持ちでいっぱいである。
ちなみにその後、すぐにニコラドさんはやってきてくれた。手紙での返事ではなく、直接来るとは思わなかったのでちょっと驚いた。
「おい、ディオノレ。俺がベルレナと話すからちょっとどっかいけ」
「……ベルレナに余計なことを話すなよ?」
「はいはい」
そう言ってニコラドさんはパパのことを追い出していた。
「で、ディオノレの恋愛話だよな」
そう言いながらニコラドさんは楽しそうに笑っていた。
何がきけるのかな?




