幕間 氷の国の騎士 ①
「魔導師が、子育てをしている? 何それ、滅茶苦茶面白いじゃない!!」
俺、マドーキの報告に目の前にいる魔導師――氷の国、アイスワンドの守護者、『氷雪の魔女』ダニエメ様。
銀色の美しい髪に、青い瞳を持つ不老の魔導師。
基本的に雪深き場所の住居より中々出てこないこの方は、優秀な魔導師である。
このアイスワンドを長らく守護してきた美しい魔導師である。
俺はこの国の騎士として、色んな使命をこなしている。その使命をこなす中で、死にかけることは当然ある。そもそもこのアイスワンドの環境というのは厳しく、幾ら慣れている存在でも、ふとしたきっかけで死にかけることもある。
……俺はその結果、死にかけていたところをあの魔導師であるディオノレさんと、その娘であるベルレナちゃんに救われた。
魔導師というのは、一人で国を滅ぼせるほどの恐ろしい力を持つ存在である。そんな存在が国を訪れただなんて、何かが起こるのではないかと懸念するのも当然だった。
だけれども話を聞いたところ、ディオノレさんは家族旅行に来ただけだった。
魔導師になるような魔法使いは、一般的な考え方をしていないほうがいい。それこそ、家族としての情なんてどうでもいいと思っているものも多い。なのに、魔導師が娘を連れて家族旅行ををしているなんて予想外でしかなかった。
そのことをダニエメ様に報告したところ、大爆笑された。
「はぁ、それにしてもその魔導師、ディオノレって言ったわね。私、そいつ知っているわ。人前にあまり出てこない魔導師だけど、時々やらかしているもの。でも昔の噂を聞いた限りそういう風に娘を可愛がるようには見えなかったけど……変わったのね」
「知っているんですか?」
「そうね。人でなしの魔導師で、敵対するものに容赦がなくて、魔法の研究のためには何だってするって、知り合いの魔導師に聞いたことがあるわ」
「……俺が知っているディオノレさんと違うんですけど」
俺が出会ったディオノレさんは、ベルレナちゃんのことをとても可愛がっていて、ただの優しいお父さんだった。なのに、人でなしの魔導師なんて言われているなんて……。
「それは娘が出来たからでしょうね。娘が出来て優しくなったんでしょうね。はー、そういう人でなしの魔導師には会いたくないなって思っていたけれど、娘が出来て穏やかになっている魔導師ディオノレになら会っても面白そうだわ」
娘が出来たからこそ、性格が穏やかになった。まぁ、子供は親を変えるような存在だからな。俺だって子供が出来て、色々変わったから。
ベルレナちゃんがいなければ、ディオノレさんはもっと恐ろしい存在だったのだろう。そう考えるとベルレナちゃんがいてくれてよかったと思った。
「またベルレナちゃんを連れて観光に来ることがあれば、会うことも出来るかもしれないですね。俺もまたあの二人に会って、今度はもっとゆっくり話してみたいと思います」
今回は、あまり話すことも出来なかったけれど、きっともっと話せたら楽しいだろうなと思った。それに魔導師と仲良くなるのはそういう個人的な気持ちだけではなく、国のためにもなることなのだ。
「そうね。その魔導師、ディオノレの娘にも会いたいわ。引き籠ってないで、会いに行けばよかったかもしれないわ! そしたらきっと面白かったのに」
「アイスワンドをベルレナちゃんが気に入ったみたいなので、来ることはあると思いますよ。でもお忍びで来ているのならば魔導師には会いたがらないでしょうけど」
「私も顔が知られていないから大丈夫よ! 私が魔導師って知っている存在なんて早々いないもの。だから会いに行っても問題なし。よし、今度、アイスワンドに魔導師、ディオノレが来たら会いに行くわ! ふふ、知り合いの魔導師にも言っておこうかしら」
「……あんまり広めたら怒られますよ」
「魔導師、ディオノレの話を私にしてくれた魔導師に話すだけよ。なので、問題ないわ!」
次にディオノレさんと、ベルレナちゃんに会える時、二人はどんなふうになっているだろうか。
ベルレナちゃんはきっと、かわいらしく成長していくことだろう。このアイスワンドの王族とも年頃が一緒だから、友人にでもなってくれればいいなと思うけど……そういう王族と関わることを嫌がるだろうなと思った。
……というか、ダニエメ様の知り合いの魔導師はどんな方なのだろうか。その人はディオノレさんとどういった関係なのだろうか。
そんなことも少し気になった。
何にせよ、ディオノレさんとベルレナちゃんに次に会えることがあるかは分からないけれど――会えた時はまた楽しく会話を交わせればいいなとそんな風に思った。




