パパと二度目の冬 ⑨
わたしはその男性を見て思わず身構えてしまう。そしてパパを見る。
パパは面倒なことが嫌いで、変なことにならないように動いていたのに……それなのにわたしが助けたいって言ったから、こうして男の人が此処まできている。
パパはわたしのお願いを聞いてこの人を助けてくれたけど、そのせいでパパが望まない展開になるなら……お願いなんてしない方がよかっただろうか。パパが面倒なことになってしまったって思っていたらどうしようかな。
わたしはそんなことを考えていたら、パパに頭を撫でられる。
「ベルレナ、なんて顔をしているんだ。そんな不安そうな顔をしなくていい。――で、お前は何の用だ?」
「ええっと……少し場所を変えてもいいだろうか」
「何故だ?」
「……此処だと周りに話が聞こえるだろう?」
確かにここは食堂だもんね。わたしとパパは宿の食堂にご飯を食べに来ていたのだ。
「こうすればいいだけだ」
パパが何かをしたらしい。パパから魔力が放たれたのは分かったけれど、どういう魔法なのか、わたしには分からなかった。
「ねぇねぇ、パパ、なにしたの?」
「防音の魔法だ。周りに色々聞かれるのはめんどくせぇ」
「流石パパ!!」
わたしは男の人のことなんて放っておいて、パパのことが凄いってはしゃいでしまった。
「この位、ベルレナもそのうち出来るようになる」
「本当!?」
「ああ」
パパはにこやかに笑っている。パパのこの優しい瞳好きだなぁって思う。
「こ、こんなに素早く魔法を……」
「で、何の用だ?」
パパはわたしの頭を撫でながら男の人をチラ見していった。
「あ、ああ。えっと、お礼を言いたかっただけだ。助けてもらっただろう。俺の命は貴方に助けてもらわなければ失っていたかもしれない。だから、ありがとう」
「お礼なんていい。ベルレナが助けたがったから助けただけだ」
パパはこの男の人のこと、興味ないみたい。ううん、パパは基本的にどんな人でも興味持ってないものね。
「――それで、貴方は魔導師と見受けられるが」
「それが? 俺は家族旅行をしているだけだから、お前がそれを広めて面倒なことを起こすっていうなら殺すぞ?」
この人はパパが魔導師だって確信して話しかけてきたみたい。それにしてもパパが物騒なことを言っている。
「パパ!! そんな風に脅しちゃ駄目だよ! そもそも本当に広める気ならもうとっくに広まっているでしょ! この人はパパが魔導師って知った上で話しかけているんだから変なことなんてしないよ! 必要だったら仕方がないって思うけれど、そんなに簡単に殺すって言わないの!」
「あー……あくまで脅しだぞ? よっぽどこいつが馬鹿じゃなければ殺したりはしないさ。俺にはそういう趣味はないからな」
「もー。そうだったとしてももっと優しい言い方あるよね? パパってば、面倒だからってなんでも脅してたら怖がられちゃうよ? わたしは大好きなパパが怖がられるの嫌なんだからね?」
「……善処するよ」
わたしとパパがそんな会話を交わしていれば、向かいに座っていた男の人が面白そうに笑いだした。パパが睨むように男の人を見る。
「そう、睨まないでくれ。魔導師と言えど、娘に弱いのは俺たちと変わらないんだなと思ってな」
そう言った男の人は、わたしとパパを生暖かい目で見ている。そして続けて言う。
「俺が貴方が魔導師だと思ったのは、他の魔導師を知っているからだ。普通のただの魔法使いならあれだけ簡単に魔法を使えないし、子連れで雪山になんていかないのは知っているからな」
この人は、パパ以外の魔導師を知っているらしい。
魔導師って、魔法を極めていて、長寿に至ったパパみたいな人。あんまり人数はいないって聞いているけれど……。
「他の魔導師?」
「ああ。この国には、魔導師がいるんだ。人前にはあまり出ないし、表向きには公表されていないが、この国の守護者だ」
この氷の国にもパパと同じような魔導師がいるらしい。わたしはそれを聞いてわぁって思わず声をあげてしまった。
それにしてもパパもこの国に魔導師がいるとは知らなかったみたい。まぁ、パパはあまり周りに興味ないから、そういうことを知ろうともしなかったんだろうけれど。というか、魔導師がいると知っても興味なさそうだし。パパらしいなぁ。
「へぇ。で?」
「それで魔導師の強さというのは十分わかっている。魔導師を敵に回すようなことはしないさ。それで国が滅ぼされたらたまったもんじゃないからな。お礼を言いたかったのと……魔導師が此処にやってきている理由を知りたかっただけなんだ。まさか、家族旅行だとは思わなかったが」
そう言って笑う男の人――名はマドーキさんという。
しばらく色んな話を聞いた。何で表には出てこない魔導師のことをマドーキさんは知っているのだろうとか、この国の暮らしについてとか、マドーキさん自身のこととか。
沢山聞いていて分かったのだけど、マドーキさんってこの国の騎士として働いているんだって。だから魔導師とも知り合いだし、王族とも知り合いだったりするんだとか。
へぇーって思った。
楽しく会話を交わした後、マドーキさんは去っていった。
その日、沢山会話を交わしたマドーキさんとはその後会うこともなかった。
それからまた観光をして、わたしとパパは屋敷に帰ることにした。
「ねぇねぇ、パパ、また来ようね」
「ああ」
――次に来た時には、卵から産まれていない精霊獣も一緒かな?
そして次に来る時には、またマドーキさんにも会えるかな? それにこの国にいるっていう魔導師にも……。
そんなことを考えながらわたしはパパの転移で屋敷へと戻るのだった。
とっても楽しかった!!
 




