一話 幸せな日常
キンッ、キンッ、ガキンッ!
刃が交差し火花が飛び散る。
「やっ!はっ!」
「ん、甘い」
カンッと剣が弾き飛ばされ地面に突き刺さる。
顎の下で止められた剣がキラリと輝いている。
「……参りました」
「健闘ってとこかな。ここまでね」
「もう一度!もう一回お願いします!」
「あらレオちゃんは朝ご飯はいらないの?」
「あ!やっぱりいい!ご飯食べる!」
私はレオン・カースフォーレスト、昨日8歳になりました!好きな事は剣をお母さんに教えてもらう事と食べる事。ここはおっきな森の中!凶暴な魔物と呼ばれてる生き物達がたくさん住んでいる。オーガやオーク、ブラックヴォルフと呼ばれる賢くて強い。
この森に住んでいるのは私たち家族だけらしい。家族というのはお母さんとお父さんと弟のシンとハロー。ハローは今1歳でとっても可愛い。この森には魔物がいるから怖いと言って他の人は近づいてもこない。だけど2人、ここに来る人がいて……
ちなみに私たちの家はお父さんが作った結界魔道具というので守られているから平気だ。
「姉ちゃん、何ボーっとしてるの?」
「ボーっとなんてしてないよ!」
「してたよ」
「シン、あんたも少しくらい剣の訓練しなさいよ!」
「やだよ。だって姉ちゃん怖いもん」
「シンが弱いからいけないのよ!」
「うわーん母さん!姉ちゃんが意地悪してくるよう」
困ったような顔をしたお母さんを見て思う。
ああ、またやっちゃったって。一つしか歳の変わらないのに意気地なしで白くて小さい弟のシンを見るとどうしても素直になれなくなる。もっと優しくしたいのに、シンの方が私より賢くて物覚えが良くて、手先も器用で、人の事を気遣える凄い人なのに……。
シンは生まれた時からの記憶を全て憶えてて一度見たことは絶対に忘れたことが無いらしい。
「お父さん、私またやっちゃった……」
「レオは何がいけなかったのかわかるかい?」
「……分かんない。シンの前に行ったら思って無いようなことが出ちゃうの」
「どうしたらいいか考えてみようか」
「うん」
その時、
「おはよーございまーす!」
玄関からそんな声が聞こえてきた。
「一旦おしまい。ロドさん達が来たからお迎えに行っておいで」
「うん」
玄関に走って行きお客さんに抱きつく。
「おはよっ!フィル!」
「おっと、元気だねレオンは。おはよう」
ニッコリと笑う青年とその後ろに立つ男の人こそがこの森に来るたった2人の人物。フィルとロドさん。食べ物や道具や本などたくさんのものを持ってきてくれる。
「レオンとシンはまた喧嘩したのか?」
「なんで分かったの?」
「俺には超能力があるから」
「ええーズルい!僕も欲しい!」
「シンは持ってるよ。忘れた事がないんだろう?俺らが前回ここに来た時の昼ご飯は?」
「えっとね、ホーンラビットのシチューとサラダとブドウジュース!」
「ほらすごい能力だろ?レオンなんて全く覚えてないってかんじだ」
「そ、そんな事ないし!」
(確かにサラダの事忘れてたけど……)
「そんなところで話してないでさっさと中に入りなさい」
「「はーい」」
私はフィルが大好きだ。理由はこの森から出たことのない私たちに外の話をしてくれるから。そして今日も朝ご飯を食べながら話を聞くのだった。
「この森に人が入れない理由を教えてあげようか」
「知ってるよ!魔物のせいなんでしょ?」
「それもあるよ。それもあるけどもう一つ理由があるんだよ」
「なになに?知りたい!」
「この森の奥に来れば来るほど圧がかかるんだ。ここは最奥だからねみんな来れないんだよ」
「なんで『圧』がかかるの?」
「このあたりには強い魔物ばかりだから。魔物は体にある魔力の量が多ければ多い程強くて賢くて大きくなる。ドラゴンだったら自我を持って話したりもするよ。そんな魔物ばかりが集まれば森の外と中で魔力量に差ができるんだ。だから圧がかかる」
「私たちにはかかってないの?」
「かかっているけど魔力量が凄く多いから平気だ。つまりシンも普通の人よりも多いんだ。レオンには負けるがな」
「フィルやロドさんも?」
「ああ」
「この森に強い魔物がたくさん集まっている理由は?」
「それを調べているのが君たちのお母さんだよ」
「魔力がいっぱいになり過ぎた人ってどうなるの?」
「……暴走して、死ぬ」
「「!!」」
「そうならない為にも体に流れる魔力を制御できるように魔力を練っておくこと。OK?」
「「うん!」」
そんな話を聞いていなかったとしたら私は生き延びる事ができなかったと思う。