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人生の続きを聖女として始めます  作者: mika
エルナダ暦 1025年
76/84

76.雌伏④(リブラ)

レーヴェ殿下とエスコルピオ殿がやって来て、大神殿は神殿兵の士気が格段に上がった。

神殿兵とは、大神官が直轄する部隊で、前任者のバロンス様が全ての財力を使って創設したものだ。

5年前に獅子王陛下により半数は解任されてしまったが、今回その任を解かれたものが全て復職した。

というのも、解任された者は子爵家であの悲劇を陛下と共に見た者達であり、秘密保持の為に神殿兵を自ら退いていたからだ。

しかし、彼らは何もしていない訳ではなかった。

ある者は、他国への偵察に赴き、またある者は市井へ紛れ込み情報を収集する。

皆、エルナダの為に、スタンフォードの動きを知るべく各地に散っていたということを、私は最近になって知ったのだ。


「リブラ様、配置はこれでよろしいか?」


「ええ。いいと思います」


神殿兵長前任者ラスティが確認を取りに来た。

彼は体格がよく屈強な男だ。

あの夜、子爵邸でマデリン様の亡骸を木から下ろした、それがラスティだったそうだ。

彼は私に向かい、ほっとするように言った。


「……漸く叶いますな……スタンフォードを潰すことが……」


「そうですね……あの、こんな質問不躾とは思いますが……あなたはどうしてそこまでして陛下に尽くすのです?」


それは単純な疑問だった。

悲劇を見て心を痛めたのか?

それとも単なる忠誠心か?

生粋の神徒である私にはその気持ちがわからなかったのだ。


「……あの日のことを……私は今でも夢に見る」


ラスティはこちらを見て、大きな肩を少し震わせた。


「燃える屋敷と舞い上がる火の粉。それを背にした大きな樫木。樫木には人が吊るされていた……心優しく実直な人と、とても美しい女性が、だ……」


「はい……」


「マデリン様を下ろすとき、私が何を考えたかわかるか?」


ラスティは遠くを見た。

その視線の先には、大神殿内で作業をしている神殿兵やヴィス、松明を手に颯爽と指揮を執るレーヴェ殿下とエスコルピオ殿がいた。


「軽いな……そう思ったのだ」


「軽い?」


「そうだ。驚くほど軽かったのだ。人とはこんなに軽くなるものかと恐ろしくて震えた。失血も多く、背中には致命傷になった深い傷……か弱い女性に対する仕打ちにしてはあまりに酷い……そして、私は考えた。このように軽く、力もない女性を極めて陰惨な方法で殺すスタンフォードのやつらは……人ではなく悪魔だと……」


「……」


「近衛兵や親衛隊、その他兵士と違い、私達神殿兵は信心深い。神を信じ神に寄り添って生きるのだ。故に、あの出来事を引き起こしたバートラム・スタンフォードを多くの者が、悪魔と認定した」


なるほど。

ラスティの説明は、私にとって共感出来るものだった。

唯一事件関係者でない私だが、彼の考えは神徒として充分に理解できる。


「良くわかりました。神の名において、バートラム・スタンフォードという悪魔は退治しなければなりませんね」


私はラスティと顔を見合わせた。


やがて準備は整った。

円形の大神殿は夥しい松明で煌々と照らされ、一直線の道が出来ている。

地下牢で追い詰められたバートラムが、第3のルートである大神殿地下を目指しやってくる可能性はかなり高い。

これは作戦会議で立証済みだ。

松明で道を作り、中庭に誘導するのが目的だったが、更にもう一つ、暗闇で待機する兵を隠すためでもある。

そして中庭には、大神殿の倍の松明が用意されていた。

それはバートラムの姿を、薄闇の中でもハッキリとわかるようにするための準備である。


「リブラ!準備出来た?」


レーヴェ殿下が弾むように駆けてきた。

その後ろからはエスコルピオ殿も顔を覗かせる。

いつもの癖で心臓がドキッとしたが、それも一瞬だった。

最近のエスコルピオ殿は、冷徹な鉄仮面の下から、ふわりと優しい笑みを浮かべるようになっていたのだ。


「はい!殿下や皆様のお陰で滞りなく。あとは……お任せ致しましょう。さぁ、賊から見えない所へ」


「うん!!」


レーヴェ殿下を促しながら、私は天を仰ぎ神に祈りを捧げた。

これもみな、神の奇跡。

ジュリ様を遣わして下さった神に感謝を!

そして……「良くやった、私!」と自画自賛もしておいた!

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