表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生の続きを聖女として始めます  作者: mika
現代2019年
6/84

6.ジュリ②

食堂で食事を済ませ、私は亜果利や他の部員とともに屋外練習場へと移動した。

聖フィオーナ学園アーチェリー部は部員が30人いて、全国的にみても実力のある人が多く在籍している。

去年の高校総体では準優勝し、爆発的に部員が増えた。

その功労者は間違いなく私と亜果利。

2人とも小さい頃からアーチェリーを始めていて、実力は別格だったからだ。

彼女が始めた理由はわからないけど、私が幼少からアーチェリーを始めたのには明確な理由がある。

極めて高い集中力が必要なアーチェリーという競技は、あの悪夢を忘れるのには最適な手段だったのだ。


「相変わらず、ブレないね」


矢を放ったあと、後ろから声がかかる。

先に休憩をとった亜果利だ。


「そう?あまり考えないようにしてるからかな?」


「無心か……いつも思うけど、樹里は精密機械のようだね。的を狙っている時はサイボーグみたい」


「サイボーグ……絶対ほめてないな……」


呆れ顔の私に、真剣な顔で亜果利が言った。


「何か大事なものを、どこかに忘れてきた……そんな感じなんだよなぁ……」


「………何それ?」


「いや、私にもよくわかんないんだけどさ……」


亜果利の顔にはどこか困惑が見えた。

でも、それは私自身も感じていたことでもある。

自分にとって何か大切なものを、どこかに置き去りにしている……それがない今の私は、機械のように日々を繰り返し生きてるだけなんじゃないか。

と。


「あ、そうだ、顧問が呼んでたよ。総体のメンバーについて相談したいって……」


考え込む私の前で、思い出したように亜果利が言った。


「あ、ああ、うん」


そういえば、アーチェリー部の新しい部長になったんだっけ?

責任感のまるでない部長の私と、責任感だけの副部長の亜果利。

立場が反対のような気がするけど、対外的な仕事が多い部長よりも、部員全てに心を配れる副部長の方が亜果利には向いていると、顧問に判断されたのだ。


「面倒くさいなぁ……まぁ仕方ない……」


「ふふっ、頑張って!部長!」


背中をポンと押され、私は弓をしまい練習場を後にした。



屋外練習場から教官、職員棟に行くには、聖フィオーナ大聖堂を必ず通過する。

この大聖堂は、保護者の寄付により建てられたものだ。

金持ちのお嬢様ばかりが通う高校であるため、寄付も高額で、あらゆる設備が新しく快適に過ごせるように出来ている。

大聖堂は地域のシンボル的なものでもあり、生徒もこの美しい大聖堂に誇りを持っていた。


硝子張りにされた渡り廊下を進み、大聖堂の裏口へ入り、そのまま直進すると教官、職員棟に出る。

途中、大聖堂本館へ入る観音開きの大きな扉があって、ここから、ミサ時にシスター達が出入りをしたりする。

私は、足早にその扉を通りすぎようとしたが、その時、何故か大聖堂の鐘がいつもより大きく鳴り響いた。


「あれ?今日何か行事があったかな?」


独り言を呟き、目の前の扉に近寄ると、中の様子を伺うために耳を澄ます。

中は静かで誰の声も聞こえない。

その静けさは逆に私の好奇心を煽った。

開けてみようか?覗くだけなら、誰にも気づかれないよね?

私は激しく鳴る鐘の音に急かされるようにして、つい扉を開けてしまった。


扉は音もなく開いた。

私はほんの2センチほど扉を開けたまま、中の様子を窺った。


聖堂内には、人の気配が全くない。

キョロキョロと目を泳がせると、祭壇と座席の中央にキラキラと輝くものが見え思わず声をあげた。


「なんだろ……すごくキレイ……」


その輝くものの正体を探るため視線を滑らせると、やがてあるものに行き当たった。

……なるほど、上部のステンドグラスの光が差し込んでいるせいで、こんな幻想的な光景を見せてるのか。

私の足は誘われるように祭壇へ向かった。

光は祭壇中央に集まって、七色の光を放ちながら不思議な紋章を写し出している。

……もっと近くで見たい。

そう思い、紋章の中央まで行く。


すると、さっきまで激しく鳴っていた鐘の音が突然止んだ。


「どうして……誰かが止め……」


その言葉が終わりきる前に、床に写っていた光の紋章が私の体を包み込んだ。

あまりの眩しさに目を細め、天を仰ぐと、今度は降り注ぐ光が私をくるむように覆い被さってくる。


「やだ……まぶしい……これ何!?」


《ど………か、我が………い……下さ………》


「誰??何を言ってるの?」


光の中で、私は誰かの声を聞いた。

それは必死に願う誰かの切なる願いのような。

絶望の中でもがく悲鳴のような。


そんな声だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ