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人生の続きを聖女として始めます  作者: mika
現代2019年
5/84

5.ジュリ①

「いやぁぁぁぁーーーー!!」


誰もいない空間に片手を伸ばし、何かを掴む。

そしてハッと目を開けると、拳を握った自分の手が見えた。

ゆっくり体を起こし、強く握った指を一本一本広げていくが、当然中には何もない。


「また……あの夢………」


私は小さく呟いた。

幼い頃から、同じ悪夢を繰り返し見た。

夢の中の自分はどうやら子爵令嬢で、わけありの王族と恋に落ち、そして別れ、後に子供も奪われ、非業の死を遂げるという恐ろしいものだった。

その非業の死は、生々しくとてもリアルで、見るたびに絶叫して起きてしまい度々両親を心配させた。

夢は大きくなるにつれて見なくなる、という医者の見解は大きく外れ、17歳になった現在は2日に一度は見るまでになっていた。


樹里じゅりっ!?大丈夫?また見たの?」


ルームメイトの亜果利あかりがノックもなしに顔を覗かせた。

美術商を営む両親は多忙で、ほとんど日本にはいない為、私は全寮制ミッションスクールの聖フィオーナ学園を選んだ。

良家の子女が通うこの学園は、女子校で設立も古く伝統があり、お金持ちで忙しい両親を持つ子が沢山いる。

木嶋家も幸いお金には苦労しておらず、授業料のかなり高い私立でも、すんなり了承が出た。


「亜果利……うん、ごめん……起こしたよね?」


「いや。私はいいんだけど、こんなんじゃ樹里がもたないよ……」


「そうだね……」


俯く私の側に腰掛け、亜果利が優しく背中を擦ってくれる。

彼女、亜果利・F・西宮とはアーチェリー部で出会い、偶然寮で同室になった。

聖フィオーナ学園の理事長の遠縁にあたり、北欧系の血が混ざっているためかモデルのような超美人。

でも、そんな風貌とはうって変わって面倒見が良くお人好しで、私のことを一番に心配してくれる親友である。


「…………落ち着いた?今日は朝から部活だよ?行ける?」


亜果利は心配そうに私を覗き込んだ。


「もちろん!何かに集中して嫌なことは忘れないとね!」


「よーしっ!じゃあ、先に食堂行ってるから!すぐに来なよ!」


「はいはい!おかーさん!」


「ぐっ!!それは、やめてっ!」


彼女は大袈裟に頭を抱え、私を肘で小突いた。

そして、安心させるようにふんわり笑うと、手を振りながら部屋を出た。


彼女のお陰で、私はかなり救われている。

こんなおかしい夢を見て奇声をあげるルームメイトなんて、本当なら嫌がられて当然なのに……。


その時、私はふと思った。

悪夢は小さい頃より確実に現実味を帯びてきている。

触れた感触や切ない思い、押し潰されそうな心に鼻をつく血の臭い……。

もしあの悪夢が、私の前世の出来事だったとしら?

非業の死を遂げた私は、それを忘れられずにまだここに……胸の中にいるのでは?

………いや、まさか、そんなことがあるはずないよね。

前世なんてバカげたこと、あるはずがない。


私はベットから起きて、支度を始めた。

今日は土曜日、食堂は少し遅めの8時から開いている。

亜果利が席を取ってくれているはずだから急がないと。

顔を洗い、部活のジャージを羽織り、長い髪を一つに束ね、いつものように簡単に身支度を済ませると私は部屋を走り出た。

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