39.星見の宴⑤
獅子王に手を引かれ、案内されたのは一つ小高くなった場所で、いうなれば草原の絶景ポイントだった。
そこには柔らかそうなブランケットが敷かれている。
大人2人が寝転がるにはちょうどいいサイズで、その用意周到ぶりに私は少し尻込みした。
「ここに座るといい」
獅子王はパンパンとブランケットを叩くと、どうぞ、と促した。
うーん……紳士すぎて、こわい。
でも、それを顔には出さず微笑みを張りつけたまま、言われた通りにした。
「ありがとう。失礼します」
私が座ると、獅子王も自然にその隣に腰かけた。
「さて、このままでは良く見えないな」
「……そ、そうですね?」
獅子王と私は、膝を抱えたまま真っ直ぐ前を見ている。
星を見に来たのに、見ているのは草原だ。
「星を見ようか?」
静かな声に体が跳ね上がった。
「……えっ、えーと、それはー、寝転がって?」
「その方が見やすいと思うが……まさか、緊張しているとか……」
するに決まってるでしょう?
とは言えず、私は強がりを言った!
「そ、そんなわけないでしょう!?」
「ふふ。なら、横になるといい」
「はい、では、遠慮なく!!」
獅子王の不敵な笑みを見ないようにして、勢い良く寝転がった。
一息ついて目を開けると、そこには無数の輝きが満ちていた。
暗闇のキャンバスに広がる煌めきは、今まで見た何よりも素晴らしく、こうして寝転がっていると、星に抱かれているという気分になる。
私は星を掴もうと手を伸ばした。
当然掴めはしないけど、指の間から見える星達が零れるようでそれも美しい。
「綺麗……」
「そうだな」
気付くと、すぐ真横に獅子王がいた。
天から目を逸らし横を見ると、そこにも輝く2つの星がある。
そうだ……昔もこんな風に寝転がって星を見た。
特別室の中からではあったけど、あの時はレグルスがいて、今の獅子王と同じように私を見ていたっけ……。
「……説明はしないんですか?」
懐かしい光景を思い出し、心がざわめくのを悟られないように獅子王に言った。
「してほしいなら、いくらでも?」
「お願いします」
「わかった。それでは、まずあの星……」
獅子王はすっと腕を上げ、1つの輝く星を指差した。
「ほら、真ん中にみえる、あの大きい星、あれは……」
「レグルス」
思わず口をついて出た言葉に、獅子王の体が大きく震えた。
獅子王が指差したのは獅子座。
その中で最も美しく雄々しく輝く星が、愛しい彼と同じ名前であることを私はレグルス本人に教えてもらったのだ。
私は咄嗟に口を押さえ、言ってしまった言葉を無かったことにしようとしたけど、それは無駄な努力だった。
「……へぇ、博識だな。誰かに……聞いた、のか?……」
獅子王は内から絞り出すように言った。
「……はい。以前、ある人に……」
私も、恐る恐る返した。
偶然とは言え、レグルスの名を口にしたことが、獅子王を動揺させている。
全く知らないのなら、彼のこの反応は明らかにおかしい。
獅子王は、レグルスを知っている。
彼がどうなったかをきっと知っている!!
私はそれを確信した。
「とても大切な人に、教えてもらいました」
寝転がったまま、顔だけを獅子王に向けると、彼もこちらを見ていた。
「そうか。それは君の特別な人か?」
「特別な人でした……ですが、突然私の前から去り……それからは……」
「……わからない?」
「はい。どうなったかは、わかりません……」
「……行方不明か?」
「そういうことになりますね」
「……………………」
獅子王は黙り込み、天を見上げた。
真っ直ぐに獅子座を見つめる金色の瞳は、ゆらゆらと惑うように揺れている。
何でもいいからレグルスのことを知りたい、そう思っていても、本当は真実を知るのが怖いと思う自分もいる。
結果を知ってしまったら?
もうこの世にいないと言われたら?
既に悲劇的な結果を想像していたとしても、それを肯定されてしまえば、もう想像すら出来なくなってしまう。
レグルスがこの世に「いないかもしれない」じゃなく「いない」になってしまえば……。
そう思うと途端に怖くなった。
「すみません。変な話をしました。忘れて下さい」
「…………………」
「さぁ、星を見ましょう!獅子座の横のは何というんですか?」
努めて元気良く言った私を、獅子王は無言で見つめ返した。
そして、暫くするとまた天を見つめさっきと同じように指を指し言った。
「……獅子座の隣、あれはウミヘビを模した姿になっているんだ……」
それから、私達はまるでさっきの話など無かったかのように、和やかに星の輝きを堪能した。




