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遭遇

二階への階段を登る二人。



健人は前を行き、そのすぐ後を菜津が行く。



二人とも一歩一歩慎重に足を進める。

なるべく足音がしないように。



この上に何者かがいて、いつ襲って来ないとも限らないからだ。



足を進めつつ意識を集中するが、二階に人の気配は感じられない。



健人と菜津の頬を汗がつたった。



やっとの思いで二人は二階へと辿り着いた。





先に二階へと上がった健人の目に最初に入ったものは、正面にある部屋だった。

なぜか扉が開け放たれており、部屋の中が見える。



見たところ入院部屋だった。


ベッドがいくつか並んでいる。


一階にある部屋はどの部屋も施錠されていたのにこの部屋だけ開いている。


二階も一階と同じように廊下づたいにいくつも部屋があるがどの部屋も扉は閉まっている。


なんでこの部屋だけ?










「きゃああああああああああああああああああああ」


突然後ろにいる菜津から悲鳴が上がった。



健人は菜津に手を掴まれ、訳の分からないまま二階の廊下の先へと引っ張って連れて行かれる。


菜津の尋常じゃない様子からして「何か」がでたことは分かるが、何で一階に引き返さず誰かが潜むとも分からない二階へ飛び込む?


健人はその行為に戸惑いながらもとりあえず菜津についていった。



二人は二階の廊下をまっすぐ駆け抜けると、突き当たりに来たところでストップした。



そして健人は菜津に手招きされて廊下にある観葉植物の裏へと一緒に隠れる。





「ーーどうした!?」


隠れるなり健人はすぐに菜津に聞いた。



そして菜津のひどく怯えた表情を見て少し驚いた。菜津は視線をあちこちに向けながら身体を小刻みに震わせている。





「...はぁ、あの開いてた部屋に、何かがいた。」


菜津は息を落ち着かせてから震えた声で答えた。

よほど恐ろしいのかその部屋がある方を見ないようにしているようだった。



「あの部屋なら俺も見たけど何もいなかったぞ?」


健人が菜津を疑うように聞くと、



「ーーベッドの後ろから起き上がったのよ!!」


菜津は抗議するように叫んだ。



そしてなんとか息を整えながら続けた。





「全身、包帯だらけの、ミイラみたいな....はぁ」





健人はゴクリと唾を飲んだ。


由美から聞いた話がフラッシュバックする。


ーー包帯を巻かれた女が出るらしいよーー






いやいや普通に考えてそんなもの現実にあり得るわけないだろ。



冷静に考えようとしながらも今までに感じたことのない悪寒が健人の背中を走っていた。


あの部屋の方を見てみる。


しかし廊下には何もいない。



「菜津、そのーー」



健人が言いかけた時、菜津がしっと人差し指を立ててそれを制止した。

菜津の視線はあの部屋の方に向いている。


健人は恐る恐る廊下の方を覗いた。






何もいない。





いや、



開け放しにされたあの部屋から何か白くて細長いものが一筋、廊下に伸びた。





あきらかに「何か」がいる。




10mはあるかと思うこの長い廊下も今では短く感じた。




そして二人は目撃した。





まず足。そして腕。最後には全体が廊下へと出てきた。



菜津は見ていられなくなったのか顔を手で覆った。



手足の先から顔に至るまで全てを包帯で覆われた女だ。



包帯には赤黒いシミがいくつもついていて、包帯の奥にある切れ長の目がキッとこちらを見ていた。



今すぐにでもこの場から逃げ出したい。

でもこの行き止まりの廊下に逃げ場はないのだ。



歯がガチガチと自分の意思に反して鳴った。





ザザッ...ザザッ



包帯を引きずる音が聞こえてくる。


「アレ」がこちらに向かって動き始めていた。



菜津は顔を手で覆ったままだった。

完全に現実を逃避している。





「菜津!すぐ逃げよう!!」


健人は菜津の腕を引っ張るが、


イヤッ!っとすぐに手をほどかれる。


「どこへ逃げるのよ!!」


パニックになってそう叫ぶ菜津を見て、


ーーお前があの時二階へ飛び込むからこうなったんだろうがーー


喉元までその言葉が出かけるが押しとどめる。



冷静になれ。考えろ。



二人がいるここは廊下の突き当たり。袋小路だ。


他の部屋はたぶん一階みたいに施錠されてるだろうし、入れたとしても袋小路に変わりはない。



やっぱ逃げ道は階段しかないか。


でも階段までの道のりには「アレ」がいる。


ザザッ...ザザッ


そう考えているうちに音が近くなってきていた。


もう今どれぐらい近くまで来たんだ!?

どうする??どうする??


生まれて初めて感じる「死の予感」が着々と近づいてくるようだった。



ザザッ...ザザッ


どうしようどうしようどうしようどうしたら????


ザザッ...ザザッ


もうだめだ!!もう嫌だ!!もう帰りたい!!


ザザッ...ザザッ



もう死を覚悟しようと思ったその時、健人は見つけてしまった。


唯一の出口を。


灯台下暗し。なぜ今まで気づかなかったのか、

その廊下に面したひとつの小窓は、唯一板が張られていない窓だった。


そして窓の外に木の枝が見える。



ーー窓からあの枝に飛び移れば、逃げられるかもしれないが枝までの距離的に男でやっとの距離だ。





そう、唯一の出口は自分一人用。




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