気配
どうやらこの廃墟の病院に閉じ込められてしまったらしい。
扉が開かないと分かった後、二人で手分けして他の入り口が無いか探した。二階は置いといてとりあえず一階を。
窓という窓は外からの人の侵入を防ぐためかすべて板で塞がれていた。(入る時、正面扉だけが堂々と開いていたのは妙だが)
健人が廊下を歩いてる時に見つけた部屋や、その他の部屋は全て鍵が掛かっている。
廊下の先にあった非常出口も開かないことは確認済み。
あとは二階だが、二階から仮に出られたとしても二メートルはある高さである。無傷で降りられるとは限らない。
一階を探し回って疲れた二人は、とりあえずロビーの椅子に腰掛けた。
「あ、菜津
スマホ持ってる!? 外の人に助けを呼ぼう!」
「今日は家に忘れてきちゃった......」
「まじか、俺もさっき電池切れたんだよな......」
「......」
数十分前まで意気揚々としていた健人もさすがに困り顔だった。
扉も窓も頑丈で壊せそうでは無かったしなー。
病院の作りって何でこう頑丈にできてるかな。
菜津も隣に座って黙っていた。
なんかこいつ口数少なく無いか?
てかなんかこんな状況になってるのに感情というものが無さすぎる。
「おまえなんか今日変じゃ...」
ーーカランコロン...
健人が言いかけた時、金属が転がるような音がロビーに響いた。
「きゃっーー」
菜津が驚いて思わず立ち上がって周りを見回した。
なんだ、感情あるじゃん。
まだ若干コロコロ聞こえるその音を頼りに、座っていた椅子の後ろを覗くと、そこにはひとつの空き缶があった。
「ーーなんだこれ?!」
「ーー!?」
健人も思わず立ち上がっていた。
二人は一瞬硬直してから、同タイミングでお互いを向き合う。
「誰かいるのか?」
健人は声を潜めて階段の方を指差した。
転がってきた方向からしてコレは階段の方からきたっぽい。
「......」
「なにかおかしくない?」
二人ともしばらくじっと階段の方を見てから、そう口火を切ったのは菜津だった。
そして菜津の顔がみるみる恐怖の表情に変わって行くのが分かった。
「やっぱり何かおかしいよ!!」
突然菜津が恐怖の表情で叫んだ。
昔菜津とケンカした時の怒った顔を思い出した。
あの時もこんな風に顔赤くして泣いてたっけな。
そんな事を健人はふと考えながら奈津の声をただ聞いた。
「入り口だって風で閉まっただけなら絶対開くはずだし、風もない室内でひとりでに空き缶が転がってくるわけないよ!
何でこんなことになってるの!?
今日はついて来なきゃよかった!!」
見にくく顔を歪める菜津の頬を伝う涙を健人はすくってやり言う。
「まぁ落ち着けよ」