廃墟の病院
2人の高校生が廃病院の入り口に立っていた。
健人と菜津が、ゴクリとつばを飲み込み廃病院を眺める。
ここは友人から奇妙な噂があると聞いた廃墟だった。
オカルト好きな健人は、菜津ーーオカルトはそんなに得意ではないが、いつも「そういったところ」に行くのに付き合わされるーーと一緒に開け放たれた扉の中へと入って行く。
健人は室内を眺める。
まず目に入ったのはロビーだ。
市民病院程ではないが、そこそこに広い。
待合椅子がざっと10列ほど並んでいた。
「...なんか、いいね」
床には器具やら、布切れやら、書類やらが散らばっている。
非常用出口のランプだけが明かりの便りで、不気味に辺りを深緑色に照らしていた。
そういった非日常的な雰囲気が好きな健人は、いつもながら嬉しそうに言った。
健人のやや後ろを歩く菜津は、その独り言のような言葉を何度目かと思いながら聞いていた。
風の音が時折聞こえる。
開けっぱなしになっていた入り口から風が漏れているのであった。
何となく閉め切るのは怖いので開け放したままにしてある。
「うわ、ガラス割れてるわ。すげえ...」
健人はガラスの破片をバリバリ踏みながら、ロビーの中へと進んで行く。
「ねぇ、あの噂本当なのかな?」
菜津が不安な様子で聞いた。
「ああ、あの包帯ぐるぐる巻きの女が出るとかいうのか?」
「うん」
「そういう噂なんて、今まで何回も聞いたけど実際出た試しがないじゃん」
「そうだけど、由美が言うからさぁ...」
由美は、ここの廃墟の噂を二人に話した張本人だが、親が病院関係の仕事をしてるらしかった。
これまで聞いてきた噂は根も葉も無い噂だったが、今回は何となく信憑性がありそうで菜津は怖がっていた。
「なんか今回はやめた方がよくない...?」
健人は、廃墟探索に夢中で聞いておらず真っ暗な廊下の中へと足を踏み入れていた。
「ねぇ聞いてるの!?」
ガラスを踏まないように注意を払っていた菜津が前を見た時、そこにすでに健人の姿は無かった。
陽気な健人は、菜津の声に気づかず真っ暗な廊下をスマホの明かりを頼りにスタスタと歩いているのであった。