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異世界周遊記  作者: 藤原鶯
8/8

主人公は何者?①

「うおおぉっ、あれが我らが大天使アリス様を奪いやがった奴だっ」


 ギャラリーは異様に鎧、ローブを着込んだ奴が多い気がするなと思ってみてたらこの凄い熱気というか、喧噪というかに当てられる。そして、周りをよく見なくても親指を下向きにされたり、中指を上向きにされたりしてることに気付く。勘弁してくれよ。


 というか、誰にでも微笑こそ浮かべているがどこか意識が見ているものから離れている感覚を与える第一王女とは違って、笑顔だけではなく、時には不満などももちろんのこと、人間味があって親しみ安いアリスの人気の凄まじさが少し分かった気がする。急に求婚されたりで人柄が分かんないから不安だったけど大丈夫かな?


 それしても立派な場所を準備してくれたみたいだな。周りを純度の高い鉱石、オリハルコンで固め、その上に木でギャラリーを作ってある。ファンタジーものにはつきものだけど、オリハルコンって基本貴重なものはずだから、この訓練場は相当お高いんだろうな。そういえば、さっきオリハルコンでできた壁に触れようとしたらその手前に上級結界が張ってあった。後日分かった事だが、日々、魔法騎士団が広域魔法を使ったりするため、念の為に張ってあるみたいだ。じゃあ騎士団はどうかって? そこはあれだよ。やっぱり剣って至近距離だし、多分魔法使いに劣ってるとかそういう訳ではない、と思う…。


「うん? 何だあの女は!?」

「アリス様と結婚するというのに他にも侍らしてるだと? 巫山戯やがって」


 ルナが少し遅れて登場するとまたもや僕にブーイングの嵐。口穢く呪っている奴もいるし。こいつらは試合のギャラリーじゃなくて、僕を罵る場のギャラリーになっている気がする。というか実際そうなのか?失礼だけどもう少しまともなのが良かったなんて思ったり、なんてしていたり、していなかったり。やっぱりしているかも。


「おう、待ってたぜ! それじゃあ早速始めさせてもらうぜ」


 先に会場入りし待っていたリチャルとドルムは完全武装をしていた。横にいるルナに鑑定をしてもらうとなんか良さそうな装備を着けているらしい。ルナも詳しくないからその辺ははっきりとはわからないけど。


 装備を見ただけでもやる気が漲っていることが十分すぎる程分かる。張り切っているところ申し訳ない気もするけど早く終わらせるつもりだからそれはいい。でも、ここで困ったのは、二人の言葉を皮切りに今度はさっきとはまた違った叫び声が聞こえてくることだ。


「副団長、我らがアリス様を奪いやがった奴をぶっ潰してください!」

「でも、あの人が二人を倒したら地獄の訓練も多少楽になるかな?」

「へっ?」


 僕への敵意剥き出しの発言だけだろうなと思っていたら、予想が外れた。まさかの二人に迷惑被ってます系の人がいた。妙な好意すら感じられる発言もある。あの二人、普段どんな訓練してるんだよ。部下に文句たれられてるけどいいのか?


「それじゃあ、早速いくぜ」

「はっ?」


 僕が周りの熱気に呆気に取られている間にリチャルがドルムの補助魔法を受けてすぐに接近してくる。やばい、何も準備してない、終わったと思ったが、想っていた以上に思考がクリアで相手の動きは緩く見えた。


 目の前にいるリチャルとの距離は最初に10メートル程離れていたのがもう残り2,3メートルになっている。そして腰に携えた剣に手をかけ抜刀しようとしているのも認識できている。奥ではドルムが別の魔法を準備している。今まで連携いっぱいしてきたんだろうし、リチャルが邪魔で攻撃してこないなんてないか。


 取り敢えずドルムからあるものを隠すようにしてリチャルの剣を無意識に弾く。何故か剣を素手で弾けた。だが今はそんなことは気にしていられない。一度動きを止めて言う。


「早く始めるのは良いけど、ルナに攻撃が飛んでだったらどうするつもりだ?」


 叫びながらも、冷静に重く言う。そう、リチャル達が勝手に、急に始めたせいでルナがどこにも避難できないで僕の傍にいるのだ。リチャル独りの攻撃だったら全て止められる自信はあるが、ドルムが広域魔法を使ったら全部はきっと防げない。そうなるとルナに傷がつく。それだけは許せない。


 そう考えながら二人を睨むと少しビクッとする。すると傍にいたルナが言った。


「また威圧してるよ?」


 また無意識に力が漏れて出ちゃったのか。威圧も武人であれば戦意喪失とか、気絶とかそういうレベルで済むから良いけど、一般人相手に出た場合その被害は未知数だ。要訓練だな。


『だったら私が教えましょうか?』


 珍しく甚兵衛の声が頭に響いてくる。こいつ、まだ僕が異世界に来たばっかりだというのに担当神らしき仕事見たことない気が…


『ぅおほん。そんなこと無いですよ?』

『そうだよね…』


 うーん、そんなことはあるよって思うと頭の中に甚兵衛の腕を構えていかにもちゃんと働いてますよみたいな表情を浮かべているのが思い浮かぶ。絶対働いてな、


『何かありました?』


 こいつ、少しでも自分に都合が悪いことあると逃げるタイプだったのか。まだ、もう少しだけまともな神だと思ってたけど、これなら最初の神様の方が良かったのかもな。


『失礼な。僕はちゃんと働いてますよーだ』


 精神年齢まで幼いとな。堅苦しい担当とかよりは良いけど、これもこれだな。優しくて綺麗な女神とかだったら最高だったのに。


「冬桜くん、大丈夫?」


 一瞬背中に冷たい何かを感じばっと後ろを振り返ると優しい笑顔を浮かべたルナがいた。まさかなぁ。僕の考えを読み取ったりだなんてしているはずないよな?


 何とかこの八方塞がりともいえる状況を脱却しようと話題を戻す。


「ルナ、悪いんだけどアリスのところにいてもらってもいい?」

「私、邪魔だよね。うん、分かった。待ってる」

「ごめん」


 ルナが少し悲しそうに呟くがこの二人を片付けないと後々面倒くさそうなんだ。本当にごめん。何か埋め合わせはするから。そう思っている内にルナが離れる。そしてそのタイミングを見計らっていた二人は再び挨拶無しで攻撃をぶつけてくる。


 今度はさっきとは違い、僕の足下は泥沼みたいになっており、二人側から僕の方に風が吹いている。単純な魔法だけど、魔法対策がろくに出来ない僕に効果は抜群だ。


 リチャルは剣を槍みたいに引いている。こっちに近付かずくことなく、僕が拘束を受けている内に倒しちゃおうという考えか。ドルムの方は何もしてない? いやそんなはずは無い。何かあるはずだ。王国で二番目の魔法使いがその程度だったらこの世界初心者の僕でも大国でも潰せそうだ。


ゾワッ


 背中に殺気を感じる。何か第六感のようなものが働いているような奇妙な感じがする。後ろの状況は何もしなくても分かる。それに前から意識を反らしたら神に匹敵するって言われた僕の体も無傷でいられるとは思えない。そう思い、無意識に視界を隠そうとした僕はその後の思考が抜ける感じがした。


(浮いてる!?)


 僕は浮いているのだ。そして目下には後ろに雷系の魔法を使われそうになり、前からは串刺しにされそうになっている僕がいる。どういう事だ? 何でこんな事になってるんだ?


 そんなことを思っていると僕の体は僕が何も命令していないのに動いている。半透明の薄い膜が即座に背中から少し離れた所に現れる。そして、僕自身から禍々しいドス黒いオーラが炎のように立ち上り始める。そしてリチャルの攻撃は放たれた。


 虹色に輝いているといっても過言ではない輝きを伴ってゴオオオッとでも出してそうな勢いで僕を突き刺そうと飛んでくる。


 一方僕は何もしない。何もしていないのだ。仁王立ちをし、オーラを出し続けてはいるがそれだけ。マズイッ、刺されるとそう思った瞬間にオーラは剣を包み込んだ。全てを貫くかと思われた剣はオーラに包まれた瞬間動きを止めた。さっきまでの勢いはどうなったって言うんだ。そう驚き、瞬きをすると視界には僕ではなく、リチャル達がいた。


「戻った、のか?」


 自分自身を見ているときは感じられなかった全身の感覚が戻っている。指を少し動かしてみても全く問題が無いみたいだ。さっきのは何だったんだ。それに、このオーラは。


 僕は自分がこんなものを出せるなんて全く分からなかった。そうである以上、僕がこれを出しているはずは無いんだけど、どう見ても蒸気みたいに立ち上ってるんだよな。


「う、うがっ、」

「あ、あぁ」


 目の前の二人は小刻みに震えている。何か恐ろしいものを前にでもしているかのように。それと共に先程までのざわめきはもうこの訓練場には微塵も残っていなかった。


「冬桜くん、威圧してるみたいだよっ」


 ルナの声で何が起こったんだと考え込んでいた僕の意識が戻ってくる。


 威圧? やってないんだけど、そうなってる?


『そのオーラだよ』

『オーラ? これが?』

『うん。多分念じられば抑えられると思う』

『こうか?』


 試しにやってみると意外と簡単に治まった。その消え方は戻るというよりは霧散したという表現が合ってる気がする。本当に何だったんだ。


『それが、冬桜くんがこの世界のスキルとかでは力が顕れない上に、上級神が独りに担当として付いている理由だよ』

『それはどういう?』


 ただ力が異常だから付いているのかと思ってたけど違うのか? それに、ただそうだったのではなくこうなっているのにも理由がある…?


『冬桜くんは僕ら上級神には理解の出来ない存在なんだよ』


 こいつは何を言っているんだ? 僕が上級神に理解出来ない存在? そもそも他の人のことだったら理解してるっていうことなのか?

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