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異世界周遊記  作者: 藤原鶯
6/8

王城突入

「フリードリヒさん、やっぱり王様に挨拶とかって」

「本来であれば必要になります」


 フリードリヒさんは鬼気迫った表情で深刻そうに答えた。


「ですが、冬桜様たちのお立場を考えるとそんなことも言ってられないのが実状ですね。アリス様はどうお考えでしょうか?」

「んー、ととさんに挨拶は避けられないと思う。ごめんね。重要なのはそのタイミングなんだけど…」


 それは今威圧までして王城を出て来た僕たちが、どうも、王女を嫁に貰いに来ました なんて笑顔で登場しても挨拶成功となる可能性は低い。


 もし襲ってきても返り討ちには出来ると思うけど、それでさらに印象悪くしてもあれだしなぁ…


「私、1つ案思い付いたんだけど…」


 ルナが呟くとその場の全員がバッとそっち振り向く。


「えっとね…」


 これは、名案が出て来るふりだな。ルナはこの状況でどんな打開策を思い付いたんだ。


「あっちの空に見えてるのってさっき倒したドラゴンだよね?」


 ルナに指差された方向の空を見ると確かにドラゴンらしき姿が見える。色はさっきのドラゴンが赤なのに対して、今度のは黒!?


 黒竜といったら強いドラゴンの代表格だ。もう、竜だかドラゴンだか分かんなくなってきた。どっちも一緒だよね…?


「私には見えないのですがルナ様たちには見えているのでしょうか?」


 フリードリヒさんが訊いてくる。S級のスキルと、神と互角のステータスはやっぱり逸脱しているみたいだな。


 一般的な人たちとの差はこれから確かめてかないと。


「あれ、従えて王城に乗り込んだらびっくりして結婚を許してくれそうじゃない?」


 ルナさんや、ここで盛大にめったにないレアな天然をぶちかまさなくてもいいのに…


 アリスとフリードリヒさんが唖然としてるよ…


 それに名案なのか…?


「この若竜倒したのはあなた方のどちらですか?」


 ま、まさかの…。


「人間の言葉!?」

「はい! 人化で人の街に潜ってたこともあるんです! って、そうじゃなくてですね」

「それは僕です」


 言葉が通じるなら頑張って交渉すればいけたりしないかな。そうだと助かるんだけど。


 隣を見るとルナがおぉ、私の案が実現間近なんて言いながらすごく興奮してるみたいだ。目がキラキラしちゃってるよ。


「王城にあなたの背中に乗って突入したいと考えていたんですが、お願い出来ませんか?」


 興奮を抑えきれず黒竜さんの鱗を撫でながらルナがそう尋ねる。


「うーん、別に大丈夫ですけど…」

「え、まじですか…」


 今度はフリードリヒさんから言葉が漏れた。本当にこの人は苦労人だな。これからも誰かに振り回され続けるんだろうな…


「この2人は、特に男の方は人の域を超越し過ぎて神の領域に突っ込んでるから僕では勝てないですから」


 なんか変に戦う必要もないみたいで助かった。黒竜さん、ありがとう。


「というか、あなたは何者なんですか?」

「一応種族は人間ですね」

「そうですか…」


 黒竜さんは僕のことを隅から隅までじっくりと観察しているみたいだ。


「僕は黒龍の虎丸です。この世界の空を護る一応神格化されてる龍です」


 りゅうの字が違った。竜じゃなくて龍だったよね。しかも神格化っていうことは黒龍神ということだ。めっちゃ格好いいやつやん。


 気になるのは虎丸という名前だけど… あれはきっと触れてはいけないんだ、きっとそのはずさ。


「それじゃあ王城へレッツゴー!」


 1人お先に虎丸の背中に乗っているルナが元気よくそう叫ぶ。






「国王様っ」

 

 議会を開いており、身分が入り混じりながら激しい論争をしている議場。


 その場にいるものたちの唯一の出入りの黒塗りの重厚な扉が勢いよく開かれた。それによりその場の議員、国王は激しい論争を止め、即座にそっちに振り返る。


「今は議会の最中ですよ、近衛副隊長」


 冷たく言い放ったのは、その真面目さ上に侯爵以上がつくことの多い副長官クラスに属しているエリーク伯爵だ。


 彼は、生粋の文官ではなく、武官上がりのためその肉体は貴族とは思えない程に引き締まっている。しかし、そうでありながらも、既存の価値観に囚われない発言をするため国王や一部の貴族には好意的に思われている。


 もちろん、それを良く思う者ばかりではないのが貴族というものだが。


「失礼を覚悟の上です。畏れながら申し上げます」

「うむ」


 副隊長に促しの相槌を打ったのがこの国の国王、ファルク・オデュッセイアである。


 オデュッセイア国というとこれまでの話の流れから第1王女の悪さなどもあり、株価暴落中とも考えられる。しかし、それは第1王女の独断であり、オデュッセイア国としての策ではないのだ。


 国王は遊び過ぎたため民の心が離れ、暗殺された先王から反面教師として学び、善政をしいているのだ。代替わりの際に、悪徳貴族は極々一部を除いて排除されているのだ。


 この例外は、ヒューム侯爵とアバト公爵である。2人の国政への根の深さから一気に排除とすることが出来ずにいた。


「黒龍がこの王都へ真っ直ぐに向かっております…」


 息を呑む音がする。


 黒龍は現在では伝説上の存在とまで言われていた。かつて、王都のみを滅ぼして飛び去ったという奇怪な伝説だ。


 伝説では黒龍は先ず王都の周囲を囲うように破壊し、所々に魔法と使い、圧倒的な力で脱出を不可能にした後に本格的に襲い始めたそうだ。


 もちろん、王都というだけあってレベルの高い騎士団があったがそれも何の抵抗にすらならなかった。


 現在の街が整っているのは、かつては山沿いだった王都が黒龍によって平地とさせられたからである。


 これの原因となったのは諸説あるがお伽噺の一種だろうと考えるのが通説になっている。そんな時代に訪れた災厄。


「民の状況はどうなっている」

「ギリギリで一般人であれば視認出来ない高さを飛行しているため混乱は起こっていません」

「ならば今すぐ警報音を鳴らし、民に避難の準備をさせるんだ」

「はっ」

「議会はここで終了とする。再開はこんな状況のためいつになるか分からない。それぞれ地区を割り振る。そこの統制を頼む」


 こうして慌ただしく黒龍襲撃に備えて動き始めたのとは対照的に冬桜たちは呑気にしていたのだった。


「う~ん! 冬桜くんのお陰で快適な空の旅だよ!」

「冬桜様、ありがとうございます」


 口では僕に感謝しているが、2人は虎丸から身を乗り出して下を覗いている。空を飛ぶ手段に乏しいこの世界では上からの景色は貴重なのは分かるけど、ルナもだなんて…


 ちなみにフリードリヒさんは馬に乗って遠く彼方になっている後方から追い掛けてくれている。


「冬桜様! まもなく王城に着きます」


 こんな登場は初めてですなんてウキウキしているアリスは僕の方を見て伝えてくれた。


 ということはそろそろ王城突入のカウントダウンと行こう。


「5」


「4」


 最初は何やってるのという風にこっちを見ていたルナとアリスも参戦する。


「「「3」」」

「背中の皆さん衝撃に注意して下さいね!」


 カウントダウンは途中で止められないため、全員でしっかり肯き返す。


「「「2」」」


「「「1」」」


 着地すると同時に虎丸が大きく息を吸う。


「グオゥアアアッ」


 虎丸が吼えた。龍というだけあって迫力満点だ。


 でも1つ文句を言わせて貰ってもいいか。音で分かったよね?


「何でこんなにも静など突入なんだよ…」


 そう、僕たちを乗せた虎丸は王城に突っ込むのではなく、王城の敷地内の静かに着地してしまったのだった。


「お、おぉ大人しくしろぅ」


 フリードリヒさんと物凄く似ている鎧を纏った騎士団が現れた。


 やっぱり鎧姿の騎士が目の前にいるのまでは様になってて格好いい。でも、口調が完全に負けてるというか弱々しいというか。フリードリヒさんと似た鎧を着ているとは思えない。


 僕が説得しようとして虎丸から降りると上から声が掛けられた。


「私も降ります。私が話した方が従ってくれると思うので」


 そりゃそうだ。王族護衛の任務に付いている近衛騎士団が、その王族であるアリスに声を荒げたり逆らったりなんて滅多なことじゃなければ有り得ない。


「副隊長さん」


 おっと。一瞬僕までぞわっとした。アリスがつい先程までのデレとは打って変わって王族の威厳というか、冷気のようなものを含んだ声で話し始めた。


「アリス様!? 何故黒龍の上から…」

「結婚相手を決めましたの。陛下に報告しなければいけないの。分かるわね?」

「はっ! しかし、後ろの方々は…」

「彼が私の結婚相手よ? それにその女性は私のライバルね」

「では私がお連れしましょう」

「いいわ。私が自分で行くわ。その方が話は通るもの」


 ということで僕たちは虎丸には絶対に触れないようにと念を押してから謁見へと向かうのだった。


「それにしてもさっきのアリスは王族ぽかったね」

「それは褒めてるの?」


 アリスが可愛らしく下から覗き上げてくる。頬を少し膨らましてるのを見ると、馬鹿にされたとでも思ったのだろう。


「褒めてるよ! 格好良かった!」


 綺麗に整えられた髪型を崩さないようにそっとアリスの頭を撫でるとすぐに態度が軟化する。


「そ、そうなの? だったら許してあげる」


 楽しく話している内に目的地に辿り着いたみたいだ。


 目の前に立ち塞がるかのように建っているのは出る時に一度だけ見た王の間とでも呼べる空間と廊下を隔てている扉だ。


 脇にはアリスが目の前にいるのに何の反応も起こさない騎士が扉を護るかのごとく立っている。


「アリスです。陛下に用があります」

「アリス様、戻られたのですね」

「はい」

「後ろの方々は…」


 近衛騎士団の方々は揃って同じ質問をするみたいだ。


「私の結婚相手とその連れです。通れないなんて言わないわよね?」

「も、勿論でございます」


 またまた冷たく対応するアリスに焦っている騎士が扉を押し開けて行く。


 なんだかんだ言って国王には初めてだな。敬語大丈夫かな?


「陛下、アリス、ただいま戻りました」

「アリス! おかえり!」


 アリスの姿を見た途端笑顔になって玉座から走ってくる国王。なんか思ってたんとちゃう。


「このタイミングで帰ってきたということはアリスは黒龍に遭遇したのか?」

「はい! その黒龍で飛んで帰ってきました」


 周りを見回すとあの悪女みたいな第1王女がこっちを見ていた。他には騎士とメイドさんだけだからこんなに緩い雰囲気なのか? 一応黒龍が襲ってきた感出したはずなのに。


「む? 黒龍でと言ったのか?」

「言いましたよ」

「黒龍って、黒龍だよ?」

「乗ってきましたよ?」

「まじ?」

「まじです?」

「ちょっと紅茶プリーズ」


 メイドから紅茶を受け取った国王は玉座に戻って一息ついてコップを口元から離した。


「ええぇぇっ」


 そして絶叫した。


「黒龍だよ? 災厄なのにどうやったの?」

「そこでお話があります。私は今まで結婚相手を決めるためにフォード家の温泉街でお見合いをしていました」

「決めたのか?」

「はい」

「どの小僧にしたんだ? サーマーンの王子か? 公爵家の跡継ぎか?」


 アリスは僕の方をちらっと見て答えた。


「こちらの方ですわ!」


 国王は少し身を乗り出していたのを戻して再びメイドから紅茶を受け取った。そしてまた一息。今度はさらにもう一息。


「えええぇぇぇっ!!」


 さっきよりも少し大きい叫び声な王の間に響き渡った。

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