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異世界周遊記  作者: 藤原鶯
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異世界周遊の始まり

 突然視界が変わったかと思うと、僕達は荘厳な王室と一発で思える所にいる。金、銀の装飾品に、赤のカーペット、ちょっとした階段があり、その先にはナイスガイなおじさんが大きな椅子に座っている。その両隣の騎士は、槍とがっちがちの鎧を纏っている。やべぇ、中世の異世界オーラめちゃくちゃ放ってる!


 脇にいるのはまさか、メイドか? そうなのか? メイドの格好はたとえ、世界を超えても不変のものなのか? 


 メイドの服装だけでなく、王と思しき人、騎士などに既視感を覚える。


 地球にいた頃に読みあさっていた異世界転移、転生のラノベの挿絵でよく見た記憶がある。


 メイドに思わず興奮しているとルナに小突かれる。そっちを見るとやはりむすっとしている。やっぱり、ルナが一番可愛い。なだめるためにも頭を撫でていると、


「あなた方は、この世界の5大国の一つであるオデュッセイアに勇者として召喚された。そのことに感謝し、我々の敵である多くの魔物や、魔人よ討伐をすることを期待している」


と、大声が響いてきた。


 突然喋り出したのは、僕らの周りを囲うように佇んでいる、白い法衣に金銀の装具を纏い、その態度からは、俺達偉いです、聖なるオーラ放ってるでしょ?と思っている感がむんむんと出ている何かの宗教団体だろう。


 顔を布のようなもので覆っているのを考えると、どう考えても結構広いこの部屋中に声が響くとは思えない。ちょっと気になる。



 僕は転移する直前にしていた脳内での会話で、異世界転移させられることを知っていたから、落ち着いていられるが、急にこういうことになったら、状況を把握出来ず、動揺するだろう。そんなところに、威圧的に話されるとちょっと精神的にやられちゃう気がするなぁ。それを狙っている可能性もあるけど。洗脳的な何かか?


「大司祭様、勇者様方は我々がこちらの一方的な都合で勝手に召喚したのです。丁寧な接しなければなりません」


 次に喋ったのは、白と水色が大部分を占め、清楚なイメージを感じるドレスを着た、すっごい美人だ。


 もう少しだけ見ていたい気もするが、ここらで切り上げないとね。うちのお姫様が嫉妬しちゃうからね。


 威圧的に話し、いかにも嫌われるタイプの奴の後に、人から好かれやすいお姫様が下に見られた僕達を擁護するように話す。これで僕らの心はお姫様に傾くんだろうな。顔に出やすい、チャラ男軍団などは明らかに心を奪われているみたいだ。


「あっ、失礼しました。自己紹介や、事情説明がまだでしたね。私はこの国の第一王女のフーカ・オデュッセイアです…」


 その後、お姫様は丁寧な説明をしてくれた。でも、その説明が丁寧過ぎて、体感で何十分もあるように感じた。だから要約するとこう。いろいろ大変だから助けてくれだって。


 はい、しっかり要約します。まず、この世界には5大国と呼ばれる国があり、僕たちを召喚したオデュッセイアはその一つ。その他にも国は小国で7国ある。他の世界から召喚することが出来る国はこの国だけだそうだ。悲劇とも言えるのが、元の世界に帰る方法は判明していなくて、前回召喚された勇者はこの世界で息絶えたそうだ。


 この情報を言われたときは、さすがに誰も口をきくことが出来なかった。新しい世界で何かを期待した奴らもいただろうが、それも地球に帰れる。自分の家に帰る方法がある。だから楽しむことが出来るのだから。



 また、この世界にはレベルとスキルが存在している。レベルは確認されている最高は、401だそうだ。これは以前召喚された勇者で、この次となると二桁にまで落ちるみたいだ。レベルを上げるのはなかなか大変そうだな。


 スキルは、この世界の一般人の持つのは、農耕、料理、裁縫など、非戦闘系のものが多く、基本2つだそうだ。もちろん、スキル無しでもそういった動作は出来るが、スキル持ちは専門職となれる技量を得ることが出来るらしい。


 対する勇者は絶対に全員が鑑定と言語理解を持ち、さらにもう2つスキルを持っていることが多いらしい。スキルにもレベルがあって、こっちは使えば使っただけ上がっていくらしい。


 それで、肝心なのはレベルの上げ方で、これを上げるには魔物や、魔人を倒す必要があり、今まではそれを倒すことを生業とする冒険者がいて平和は保たれていたみたいなのだが、突然変異で魔王が生まれてしまい、均衡が崩れたそうだ。で、僕たちにこの討伐をお願いしたいというわけだそうだ。


 現在魔王とその側近は、どの国にも属していない土地である、ルーイン地方にある、ダンジョンに城を構えているらしい。人類が到達出来た最前線はルーイン地方をぐるっと囲んでいる黒い森林の途中までだそうだ。


 では何故、城の話を知っていたりするかというと、かつて手下の魔人をなんとかして洗脳して答えさせたらしい。


「お、俺たちは戦闘なんてしたことないんだぞ? 死んだらどうする?」


 完全に皆の意識外に行ってしまっていた担任の村上太陽(むらかみたいよう)が、質問をした。確かにこの質問は、どうやって元の世界に帰るかに次いで重要になってくる話だ。


「この世界で死んだ場合は、完全に死となってしまいます」


 「えっ…」、「まじかよ…」といったどよめきが広がる。当たり前のことだけど、これは行動を自重する奴も現れてくるだろうな。僕も戦闘狂でも何でもないからさすがに、抵抗がある。


 この世界では魔物とかが存在しているということは死がすぐ傍にある。少しでも油断すれば終わり。


「ごめんなさい」


 お姫様が頭を下げた。結論から言うと効果は絶大だった。普通美人に頭を下げられ、お願いされてそれを断ったら男が廃るってもんだからな。女子も仕方ないなぁ、などと呟きながら騒ぐことを止めた。


 隣を見るとルナが震えている。


「ルナ、大丈夫だよ。地球にいた頃さ、神様がルナの安全は保証するって言ってくれたから」

「ほ、本当?」

「うん。それに絶対に僕が守るよ」

「絶対だよ?」

「もちろん!」

「ありがとう!」


 いつもなら確かめなくてもすぐに信頼してくれるルナもさすがに少し焦っているみたいだ。だから僕達は、周りでは他の生徒たちが決心する中、話そっちのけでイチャつきまくる。皆、お姫様の方に集中してて気付かないけど。


「皆さんにはきっと何かしら戦闘で役に立つスキルがあるはずです」


 そうお姫様が言うと、「そうだよな、俺達勇者だもんな」と自分に言い聞かせるような声が響き始めた。


 そんな簡単な話なのか? これはゲームじゃなくて、死が隣にあるんだぞ? これじゃあ、誰か身近な奴が死んでも気付かずに、戦い続けることになる。既に洗脳されていると言っても間違いじゃないのか…


 真面目キャラを売りにしていた元委員長の茂木和彦(もぎかずひこ)まで俺達ならいけるぜと思ってる奴らと一緒になっている。


「それでは、これよりスキルの鑑定の方に移ります」


 そう言うと、スーツのような、公式の場で着そうな服をビシッと着た人が現れた。


「こちらが、今回皆さんの鑑定をさせていただく、鑑定士のロンです」


 紹介された鑑定士さんが頭を下げる。ついこちら側も頭を下げる。こればっかりは日本人の習性だから仕方ないのだ。






 今は僕らのほとんどが鑑定、ランク分けを終えている。ランク分けとは、そのスキルの性能の高さで分けた単純なものだそうだ。


 この後に僕達の中で起こることはほぼ明らかだろう。高確率で、これが原因で身分差が出来て、威張る奴、それに付き従う奴と別れてしまうと思う。


 鑑定されてないのはイチャついていた僕とルナだけ。先にルナにやってもらう。


「あなたのスキルは、初級神の加護です!」


 今まで、最高のAランクと判定された、日村と東条綾(とうじょうあや)や、Bランクの相手をしていたお姫様がこっちにやって来た。


 ちなみに、日村は火、氷、雷、風の四魔法のスキルだそうだ。魔法は、スキル無しでも使えるが、家庭魔法以外の魔法となるとスキルなしでは直径何メートルにもなる魔方陣を作る必要があり、スキルの有用性は高いそうだ。


 東条さんは、意外にお嬢様らしく、所作が一つ一つ、幼い頃から磨かれているのか洗練されている。その過程で護身術を教えられたらしく、剣術、体術があり、さらに空を飛べるスキルである飛翔もある。


 そんないかにも使えるスキルを持つ奴らの相手を止めてこっちに来るということは凄いスキルなのか?


「それは本当ですか?」

「はい」


 お姫様の目が獲物を見つけたかのように、ギラギラと光っている。なんか嫌な予感がするな。


「王族になりませんか?」


 ルナへの第一声はそれだった。理由はこうだ。まず神の加護は文句なしのSランクだそうだ。かつて神の加護のスキルを持つ者は例外なく歴史に名を残す英雄となっているそうだ。だから、何とかして王族に引き入れる必要があるらしい。


 「ごめんなさい。私はこの冬桜くんと一緒にいたいので無理です」とルナは即答してくれた。大国の王族という圧倒的ステータスを捨て、すぐに僕の元へ来てくれる。本当に地球と、この世界合わせても、ルナ以上のいい女なんているのだろうか。


 周りにいる女子生徒たちは、玉の輿にでも興味があるのか呆れた表情をルナに向けている。ただ一人を除いて。


 そのただ一人である、九条愛梨(くじょうあいり)は、「やった! 私でも王族になれるのね!」などと呟いている。初めて同じクラスになるし、その人格は謎だが、少し面倒くさそうだ。出来れば関わりたくない。


「次で最後ですね。最後は冬桜さんですね?」

「はい」


 最後だからなのか、僕に弱いスキルが当たってルナを奪うことを期待しているのか、日村たちはこっちを凝視している。


 僕にもし弱いスキルが当たったとしても、ルナが拒否すればある程度は防いでくれる神の加護があるから心配ないため、少し安心できる。


「スキルは無しです」

「本当に?」

「以上です」

「うわっ、まじかよ。くそ雑魚じゃん。そんなんじゃあ、愛しい彼女さんが守れませんよ~」


 予想通り、僕の鑑定結果を聞いて日村たちが馬鹿にしてくる。さすがに、スキル無しはきついか。こうなった以上、スキル持ちとスキル無しの差の確認が必須だ。後は、レベルによって変わる物の確認もだな。そう思考を巡らしているとお姫様がルナにまた近付いた。


「ルナさん、あなたのお相手は最弱の勇者のようですよ? 今からでも王族になれますがどうです?」


 これから先の僕の身分がこの異世界の人達よりも下となり酷い扱いになることを確信したお姫様は再びそう尋ねた。


「いいです」


 今度は温厚なルナが突き放すかのように冷たく言い放った。久し振りにルナが怒っているのを見た。基本、笑顔が絶えないだけに、怒ると相手は本当に焦る。しかも今は、彼女のスキルの性能からか、誰も迂闊に手を出しにくい。


「冬桜くん、もう一緒に旅行しよう?」

「うん?」


 旅行だって? 聞き返したけれど、確かにそれは名案かもしれない。それだったら二人の時間も増えるし、誰かにルナにちょっかいを出される心配もなくなる!


「私の大切な人を悪く言うような人と一緒にいるのは嫌なの。それに、せっかく2人揃ってるから思いっきり楽しみたいの。ダメかな?」


「つっ」


 頭の中に声が聞こえてきた。びっくりして声が少し出た。


『君が、下級神から報告のあった冬桜くんだね?』

『そうですが、何か?』

『確かに、この世界の理を超越してるね。スキル無しで念話するなんて』

『僕はこれから彼女と旅行に行くんです。何も無いなら切りますけど?』

『待って待って。僕はある上級神なんだ。今、君の彼女の加護を上級神のそれに格上げしといたから』

『ありがとうございます』

『後、君ならスキルありで出来ること基本無しで出来るから。じゃあね』


 これは嬉しい誤算だ。これから大変だなと思っていたが、僕にスキルが無いのは必要無いからだということが分かった。これで心置きなくルナとの旅行を楽しめる。


 きっとこのことを言ったとしても、何こいつ言ってんだみたいになるから止めとこう。他の人にはこの念話は聞こえないみたいだし。


「大丈夫?」


 ルナがいつの間にか僕の顔を覗き込んでいた。


「大丈夫だよ。それじゃあ、行こうか」

「待てっ」


 誰かが呼び止める声が聞こえた。振り向くと日村がこっちを呼び止めようとしていた。


「その女は置いていけ」

「何言ってんの?」


 ルナをその女扱いしやがって。最高の女なんだぞ? しかも少し怖がってるじゃねぇかよ。僕の背後に隠れてる。楽しい出発の瞬間を邪魔するな。


「近衛兵たちっ、あの女を連れ戻しなさい!」


 お姫様まであの女扱い。絶対にルナはやらない。そう強く思い拳に力がこもった瞬間、明らかにルナ以外の奴らがビクッとなり、一歩も動かなくなった。



「冬桜くん、これ、状態異常:威圧になってるよ」


 ルナに言われて確認しようとしても、視界は何も変わらない。鑑定はスキルが無いと出来ないのか?


「確認出来ないみたい。これからもルナに鑑定はお願いしてもいい?」

「任せて!」


 ルナが胸を張る。ルナの大きめの胸が服を着ているにも関わらず少し揺れている。やばい、ムラムラしてくる。エロすぎるんだよ。でも、これからはいくらでも抱けるんだ。今は我慢だ…


 賢者よ、降臨してくれ…


 まだ情報収集も完璧じゃないからもう少ししたい気もするが、この状況ではそれも出来なそうだ。取り敢えずここを出よう。


「それじゃあ、さようなら」


 まだ僕にされた威圧が解けていず、動けないその場の奴らを一瞥して、僕らはその場を立ち去った。

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