自分から異世界転移
不定期での連載となりますがよろしくお願いします!
「えぇっ! お前って彼女いたのか?」
休日、お互いに違う国に住んでいることもあって、本当に久し振りに会うことが出来たルナに腕にくっつかれたままで歩いていると中原拓也と遠藤優弥がこっちに気付き走って来た。
「うはあ、めっちゃ美人じゃん」
自慢になるが、拓也の言うことは間違っていないと断言出来る。ルナはフランス人と日本人のハーフだ。茶髪のボブに、二重の大きな目には茶色がかった瞳。日本人にはない、すっきりとした鼻筋、雪のような肌とは対照的な、薄らと紅い唇。それらの配置は整ってはいるが、人間らしい温かな可愛らしさがある。
実際、彼女は両親の転勤で現在イギリスにいるのだが、そこで通っている高校でもモテまくっているらしい。拓也が感嘆の声を漏らすのも当然のことだろう。
周囲の男性の視線が集まっているのがよく感じられる。小さい子から、初老の、いやもう少し年をとっていそうな人までまさに老若男女が彼女に惹かれてしまっている。パートナーも苦労しているのか、ひっぱたいたりしている。
しかし、ルナは全くそんなのを気にしない。ずっと頬を赤らめてこれでもかと全身で僕といることの嬉しさを表してくれている。そうなると、彼女の大きめの双丘が密着していることになる。既に夜を一緒に過ごしたことはあるとはいえ、馴れない。
「で、付き合ってるの?」
「まぁね」
「お前そんなこと一言も言ってないだろ…」
「いや、訊かれてないし」
「冬桜くん、こちらはどちら様?」
「高校で冬桜の友達をやっている拓也です!」
すごく可愛いだけではなく、ルナは人懐っこいというか、優しい。昔、付き合う前から出身地が違い、容姿も異なり、仲間外れにされがちだった僕に話し掛けてくれていたのだ。だからこそ彼女に惚れまくっているのだが。
「そうなんですか、よろしくお願いしますね! こちらは?」
「遠藤優弥です、よろしくお願いします」
いつも通りを装おうとしているが、遠藤は可愛い人や、美人を見ると少し頬が上がってしまうのがこいつの癖だったりする。
「こちらこそです!」
ルナは両親の言語はもちろんのこと、他にも幾つか言語を操れるなかなかハイスペックな彼女だ。もちろん、花嫁修業など必要としないほど家庭的でもある。うん、誇らしい。
「遠藤。俺らはそろそろおさらばさせてもらおうぜ」
「あぁ、そうだな」
「ありがとう、また学校でな」
ニヤニヤした拓也と視線がルナの体の方に移っている遠藤は気を利かせて離れてくれたみたいだ。
今日のルナの服装はベージュのゆったりしたワンピースを着ている。しかし、腰にしているベルトのせいか、彼女のラインが露わになっている。袖口から見える雪のような肌や、首など全てが魅了してくる。
「あぁぁ」、「うはっ」などといった悲鳴が聞こえてくる。これは僕たちが何かをしているわけではなく、周囲の人間が彼女から目を離せないせいで電柱に突っ込んだりしているからだ。
「ねぇ、冬桜くん?」
「何?」
この前会ったときは成長が早かったルナと視線はあまり変わらなかったが、僕の身長は高校生になってまだ伸びているため、今ではルナが少し下から見上げてくるようになった。この角度もなかなか破壊力が高い。彼女が腕に掴まっていることもあって顔が近い。照れちゃうよ。
「今日は冬桜くんの家に泊まっていくことになってるからね?」
それは嬉しい話だ。ちょうど最近溜めてたんだ。一気に放たせてもらうぜ。
「すぐには眠らせないからね?」
「もうっ! 嬉しい…」
「それじゃあ、今は久し振りのデートを満喫しよう!」
久し振りのデートを満喫した2人は冬桜の家に向かうのだった。
「ただいまー」
「冬桜おかえり! ルナちゃんはっ?」
どどどと玄関に向かって走って来たのは双子の姉の藤野琴音だ。彼女は昔からルナとものすごく仲が良く、会えると普段のちょっとだけあるクールビューティーさが皆無となる。ちょっと残念賞な姉だ。
「琴音! 久し振り!」
靴を脱いでいたルナは彼女の声を聞こえた瞬間、こっちもこっちで抱きつきに行った。
「荷物はもう届いてるよ。ルナは私と同じ部屋だからね?」
「うん! でも夜はいなくなるからね?」
「行かせない! こんな弟のところになんて」
多分、普通の姉弟の関係であればこんな話はしないのだろうが、何故か僕の家では夜をともに過ごすことについてこんなにも普通に話題に上ってしまうのだ。
琴音も琴音で、行ってしまうのは分かっていながらも、お決まりの台詞を絶対に言う。
「久し振りね、ルナちゃん」
主に琴音が現れたせいで玄関でいろいろとしていると、母さんが現れた。
「お久し振りです、お母様!」
今ルナは普通に僕の母をお母様と呼んだ。別に血が繋がっているという訳ではない。僕とルナが付き合い始めてすぐ、ルナは挨拶に行きたいと言い始めた。僕の家に行くと、ちょうど家にいた母さんに、「冬桜くんと結婚を前提にお付き合いをさせていただいているルナ・ランカスターです。是非、お母様と呼ばせて下さい!」と、初対面の母にお願いしたのだ。母も呆気にとられながらも許したため、呼称がこうなっている。
その後、「こんなに可愛いルナちゃんにお母様って呼ばれるんだったら、冬桜、あなたも挨拶に行ってきなさい」と言われ、付き合いたてで両家への挨拶が済んでしまった。その時のルナの両親も呆気にとられていた。
「へっ?」 彼女の両親の第一声がこれである。ルナが自分で僕の母にお母様と呼んでもいいか頼み許されたことと、そのお母様に両家の挨拶を済ませちゃいなよと言われたことを報告すると、「冬桜くん、君もなかなか苦労しているね…」と同情の目を向けられてしまった。
何はともあれ、「君は本当に私たちの娘と結婚する気なんだね?」と確認された後に、僕もお義父さんとお義母さんと呼ぶようにされてしまった。隣でくねくねしながらルナが喜んでいたから良しとしてしまったのだ。
「2人ともちょうど良いところに帰ってきてくれたよ。今、夜ご飯にしようと思ってたのよ」
今日の夜ご飯はいつもよりも豪華だった。ルナが今日泊まりに来ることが分かっていたから奮発したみたいだ。
「ルナはいつ帰っちゃうの?」
言うのを忘れていたが、僕は今春休み中で明後日から高校2年生となる。さすがにイギリスの高校事情は知らないから訊くしかない。
「え、ルナちゃん言わなかったの?」
琴音が驚きを含んだ声でルナに尋ねた。どういうことなんだ? 言わなかったって何かあるのか?
「どうしたの?」
「あれ、言ってなかった?」
「?」
僕以外全員の中で何か共通の認識があるみたいだ。ルナさんや、言ってなかったって全く記憶に無いんですが…
「私も明後日から冬桜くんと同じ高校に通うんだよ?」
「えぇっ!?」
まじすか… めちゃくちゃ嬉しい。うちは服装自由だけど、制服姿の生徒が多い。ということはルナの制服姿を見ることができると。感激過ぎる。
やっぱりスカートは膝上かなぁ。あ、でも短くし過ぎるとチラというチャンスを狙う輩が現れちゃうしなぁ。まだ涼しいから黒タイツとか着ちゃうのかな。
いずれにしてもまた違ったルナが見られる。そして、日本の学校に通うということは久し振りに同じ家で生活出来る!?
小学校時代に留学のようなものをしており、もちろんその時にお世話になったのがルナの実家である。
小学校ながら既に料理を作るのを手伝っていた彼女の料理はうまかったと記憶している。朝起きたらすぐにルナに会えて、登下校まで一緒で幸せだった。
「家はどうするの?」
「私が無理言ってこっちの高校にしてもらっただけだから、パパもママもイギリスに残ってるの」
「ということは?」
「うん、冬桜くんの家にお世話になります!」
「やったぁ!」
今度は朝起きられなくても、ルナに起こしてもらうことが出来るのか。寝起きのあれこれに、たまには一緒にベッドで…
今まではたまにしか会えなかったから出来なかったことが全部出来るようになる。なんかありがとうございます。
二日後。
僕はルナと一緒に電車に乗っている。県下一の進学校が自宅から二駅の所にあったからだ。ルナもそこに編入するってことは相当頭がいいんだろう。
電車に乗るにあたって、心配な点が幾つかある。まず間違いなくナンパ、痴漢がおこるだろう。こんなに可愛くて艶めかしい肢体をしているのだ。この日本でない方がおかしい。
近くにさっきから目つき、視線のやり場がおかしい輩が何人かいる。一応ルナを窓際に立たせて、僕が覆い被さるようにしているが、近くの奴らは怪し過ぎる。
ルナは完全にそういう経験が無いのか、安心しきっているように感じられる。
「ルナ、一応気を付けとくけど、何かされたりしたらすぐ言ってね?」
「うん!」
「すぐだよ?」
「でも、冬桜くんが守ってくれるんでしょ?」
嬉しいことを言ってくれる。守るなんて当たり前に決まってる。そして、そんなことを言ってくれる彼女がもの凄く愛おしい。僕のことを立ててくれるいい女過ぎる。
それと同時に絶対に触れさせないと固い決心をする。
朝からなかなかに激しい視線、距離の攻防戦をし、制した僕は学校への道程で、完全に満足しきっていた。
「あれ? 冬桜くーん、女連れてんの?」
「だから何?」
「結構美人じゃん。何も起こらないといいね」
去年クラスでチャラい代表を務めていた、日村聖人、原辰飛、宇治原秀樹が絡んできた。
こいつらはキングオブクズだ。かつて仲睦まじかったカップルを卑劣な手段で破局としたことがある。その他にも虐めはもちろん、非道と呼べることを多くしているらしい。
ここではルナの可愛さが徒になってしまう可能性がある。こいつらは美人に目がなく、気に入ると襲う。これは本当の話だ。被害者はさすがに1人だけだが、それはさっき話したカップルの彼女だった。そのときの彼氏は心が本当にずたずたになっていた。顔は青白くやつれ、その彼女は転校してしまった。
その時は校長から1週間の自宅謹慎を命じられたが、懲りずにまた同じ過ちを繰り返そうとしている。
「ねえねえ、冬桜くん。あの人たちとは関わらない方がいい?」
ルナが耳元で呟いてきた。
「うん。絶対に関わっちゃ駄目。と言っても多分あっちから関わってくるだろうけどね。何かされたら、いや、されそうになったらすぐ言って」
「分かった、約束する!」
僕は絶対に君だけは失いたくないんだ。やっと同棲の形になってこれからもっと楽しいことが増えていくはず。朝からの攻防戦に続き、学校でも苦労は絶えなそうだけど、へばったらそこで終わり。
「しまっていこう」
小さくそう呟いた。
「どうしたの、冬桜くん?」
「何でもないよ! 行こうか」
僕が急に立ち止まったから少しルナが先になってしまった。少し走って追い付き、また一緒に歩く。何でもかかってこいや。
現在クラス中いっぱいに幾何学的な模様の光が現れている。僕の知識をどれだけ探っても検索結果は一つしか出てこない。
「異世界転移じゃん」
隣ではたまたま同じクラスになったルナが苦悶の表情を浮かべている。チャラい日村たちでさへ動けていないことを考えると、非現実的な力が働いてると分かる。
今現れている光のことも考えるとやっぱり異世界転移っぽいな。ここで試しに指を動かしてみると、動く。部位が小さいと動くのか?
足などを動かそうとするとやはり動く。僕が動いているのを見て周りのルナたちの目が大きく見開かれている。
「この模様は邪魔すると消えたりするかな?」
そう思った僕が足を一歩踏み出すと即座に光は消えた。その瞬間、クラス中の生徒、先生が動き出す。
「ぷはっ、生き返ったぜ。何だったん」
誰かが話し出した瞬間また光が現れた。やっぱり、この動けなくなる効果は転移の方の魔方陣の効果が消えないようにするためみたいだ。まだ体に制限を感じないためまた動く。そして消える。これを何度かすると声が脳内に直接響いてきた。
「もう、あなた何者なんです? 神である私が面白そうだから途中介入したのに、全然転移される気配無いじゃない」
「いや、そう言われても」
「普通異世界転移ってされたいものなんじゃないの?」
「いや、まぁ、妄想したりはしたことあるけど…」
「じゃ、いいじゃん! 大人しくしててよ」
「大切な人が巻き添えになっててそれは無理な話だな。ルナの安全を確保するんだったら良いけど」
「あー、分かったから大人しくしてて」
なんとか脳内で会話を成立させたが、周りの奴らには聞こえてないみたいだ。何で僕だけ動けるんだ?
異世界転移に興味は元々あったし、ルナの安全も確保されてるからどんな形であれ、楽しんで帰ってこよう。
おっ、そろそろ意識が怪しくなってきたみたいだ…
「彼は何者なんだ? 私の全力が僅かな抵抗にすらなっていなかった。念話も、スキル持ってないと出来ないはずなんだけどな… 地球神、こんなやついるなんて一言も言ってなかったじゃん。もう聞きにいくしかないね」
地球の神界にいた謎の神?は急いで地球神の元へ向かっていった。