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人間の左手、悪魔の右手


 死者が蘇ることは、絶対にありえない。


 かつて、病気で亡くなった愛娘を蘇らせようとしたヴィクター・フランケンシュタインは娘の遺伝子をベースにしたホムンクルス(リディア)を作り上げ、病死した愛娘を”再現”しようとした。彼が娘を蘇らせるために生み出した技術は世界中の錬金術師に普及したものの、娘を蘇らせることに失敗したフランケンシュタインは、手にした者の願いを叶える力を持つ『メサイアの天秤』を作り上げ、神秘の力に縋った。


 だが、その神秘の力に縋っても愛娘が蘇ることはなかった。


 少なくとも、人間の手で人間を”造り直す”ことは不可能なのだ。


 それゆえに、死者が蘇ることは絶対にありえない。


 なのに、なぜ死んだ筈の人間が目の前にいるのだろうか。


 なぜ、死んだ筈の人間が私に刀を向けているのだろうか。


「ね、姉さん………どうして………? い、生きていたのか…………!?」


「…………」


 姉さんは無表情のまま、私に刀を向ける。そのまま姿勢を低くしたかと思うと、切っ先をコンクリートに擦りつけ、無数の火花を撒き散らしながら、人間よりも発達したキメラの瞬発力をフル活用して距離を詰めてきた。


 右下から振り上げられた刀を左手の漆黒の刀で受け止める。そのまま刀を押し返してから距離をとり、もう一度姉さんに向かって叫んだ。


「姉さん、私が分からないのか!?」


「…………」


 唇を噛み締めながらちらりとジェイコブの方を見た私は、はっとしながら目の前にいる無表情の姉さんを凝視した。


 この姉さんは、本物の姉さんなのか?


 あの時、サクヤ姉さんは勇者に首を斬り落とされて戦死している。あの戦いで戦死した同志たちの死体は回収できていないため、今でもタンプル搭の中に残っている筈だ。


 陥落したタンプル搭は帝国軍に占領されているのだから、サクヤ姉さんの死体を帝国軍が回収していてもおかしくはない。その死体から入手した細胞を使い、錬金術師たちがホムンクルスを作り出すことも可能だろう。


 姉さんのホムンクルスだというのか?


 確かに、サクヤ姉さんの遺伝子をベースにしたホムンクルスを作り上げることは、帝国軍の技術でも可能な筈だ。だが、テンプル騎士団のようにホムンクルスの成長を早める培養液を使って短時間でホムンクルスの赤子を大量生産したり、錬金術を使って調整を施すことはできない筈である。


 タンプル搭にあった技術は接収されているだろうが、ホムンクルスや転生者が生産できる兵器に関する情報などは可能な限り処分してから脱出しているため、奴らの手に渡った技術はごく僅かである筈だ。そのなけなしの技術で、テンプル騎士団の技術を再現できるわけがない。


 第一、あのホムンクルスの製造技術は、大昔の戦争でウィルバー海峡に沈んだ『天空都市ネイリンゲン』の残骸や、世界中の古代遺跡から発掘してきたものをナタリア・ブラスベルグやステラ博士が解析し、軍事技術に転用したものだ。仮にこちらの技術を手に入れる事ができたとしても、完全な解析には難解な古代語を解読できる考古学者が必要になる。


「驚いたか、魔王」


「勇者、貴様………ッ!」


 姉さんを凝視しながら仮説を立てていると、倉庫の中から純白の制服を身に纏った勇者が姿を現した。脇腹には血痕が付着している。おそらく力也が弾丸をお見舞いした際に付着したものなのだろう。だが、傷口らしきものは見当たらない。


 勇者はニヤニヤと笑いながらサクヤ姉さんの方へと歩いた。


 彼を敵だと思ったのか、サクヤ姉さんが唐突に刀を振り下ろす。だが、勇者は彼女の剣戟をあっさりと躱して手を掴むと、サクヤ姉さんの顔面を思い切りぶん殴った。


「!!」


「駄目じゃないか、化け物…………俺はお前のご主人様だぞ?」


 姉さんの髪を掴みながら、勇者は倉庫の外に転がっているヴァルツ兵たちの死体を見渡した。


「ふん、調整が不完全みたいだなぁ………」


「調整………? やはり、その姉さんはホムンクルスか!?」


「ああ。だが、お前たちみたいにちゃんとしたホムンクルスはなかなか作り出せなくてね」


 では、本物の姉さんではないのか。


「遺伝子をベースにして作り出すだけならば簡単だった………だが、戦闘用に調整するのは非常に困難だったみたいでね。我が軍の錬金術師が調整を施しても、失敗作しか完成しなかったんだ」


 テンプル騎士団のホムンクルスは、全く調整を施していない。一部のホムンクルスには情報処理能力や、オリジナルであるタクヤ・ハヤカワに目にした映像や聞いた音声を伝達できるように調整された個体も存在するものの、殆どのホムンクルスは調整を施されずにそのまま生み出され、普通の人間の子供と同じように育てられる。


 そして、軍に志願する個体だけを訓練し、他の個体には希望する役職や職業を与えるのだ。戦闘用に調整された個体が実戦に投入されたのは、テンプル騎士団が創設された頃に勃発した|第二次カルガニスタン侵攻《災禍の紅月》だと言われている。


「…………だから、”中身”を変える事にした」


「なに………?」


 中身………!?


「なかなか調整できなかったからさ…………あの世から呼び戻したんだよ、”この女の魂”を」


「!?」


 魂を呼び戻した………!?


 歯を食いしばりながら、勇者に殴られたにも拘らず無表情の姉さんを凝視する。


 確かに、人間を完全に蘇生させることは不可能だが、魂だけをあの世から呼び戻すのであればハードルはかなり下がる。実際に、現在は世界中の宗教で禁術とされているが、死者の魂をあの世から呼び戻す魔術も存在する。


 姉さんの魂を………あの世から呼び戻したのか………!?


 惨殺された死人に、安らかに眠る事すら許さないとは………!


「貴様ぁ………!」


「所詮は角と尻尾の生えた化け物(キメラ)のメスだろう?」


 そう言いながら、勇者は腰に下げていた剣を抜いた。


「さあ、化け物…………殺せ、お前の大切な妹を」


「…………」


「くっ………」


 肉体はホムンクルスだが、あの肉体に入っているのは姉さんの魂だ。


 ダメだ………姉さんを斬ることはできない………!


 敵なのだから斬らなければならない。だが、覚悟を決めようとする度に幼少の頃に姉さんと一緒に過ごした思い出がフラッシュバックする。


 一緒に遊んだり、厳しい訓練を受けた。


 私が欲しがっていた人形を、姉さんは自分の小遣いで買ってきてくれた。


 優しかった姉さんを斬れるわけがない。


「殺せよ、化け物」


「やめろ、姉さん」


「殺せ」


「やめてくれ………刀を下ろせ、姉さん! 姉さんと殺し合いなんてしたくない!!」


「どうした? お前は敵を殺すことしかできない化け物なんだろう? だったら殺せよ、周りに転がっている死体共を切り刻んだ時のように」


 ゆっくりと刀を構え、私を睨みつける姉さん。先ほどまでは無表情だったが、一瞬だけサクヤ姉さんの手が震えた。


「――――――アァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」


 次の瞬間、サクヤ姉さんが雄叫びを上げながら飛び掛かってきた。刀の柄を両手で握りつつ、その両手の表面に黒い外殻を纏いながら刀を思い切り振り下ろす。


 両手に持っている刀を使ってその一撃を受け止めつつ、ちらりと勇者の方を見た。姉さんとは幼少の頃から模擬戦を行っているため、彼女の戦い方は理解している。


 しかし、もしこの戦いに勇者まで加勢すれば、私に勝ち目はない。格上の相手と2対1で戦わなければならなくなるのだから。


「――――――ジェイコォォォォブッ! 転生者を連れて合流地点に行けぇぇぇぇぇぇぇ!!」


「了解………無理すんなよ、団長………!」


 私が姉さんと勇者の2人を食い止める事ができれば、この基地から脱出するのは容易いだろう。それに、ジェイコブもベテランの兵士のうちの1人である。装備している武器はハンドガンとピストルカービンだけだが、その装備だけでも混乱している敵の守備隊から逃げ切ってくれるに違いない。


 両手を漆黒の外殻で覆い、姉さんの刀を押し返す。その間に尻尾を伸ばして腰に下げている短刀を引き抜き、ジェイコブを追撃しようとしている勇者へと向かって投擲した。


 あの勇者もレベルやステータスに頼り切っている典型的な転生者らしく、回転しながら飛んできた短刀を弾くことはできなかった。私が投擲した短刀はあっさりと勇者の後頭部に突き刺さり、姉さんに惨殺されたヴァルツ兵の死体たちの真っ只中へと勇者を転倒させてしまう。


 その隙に、ジェイコブは残っていたスモークグレネードを投擲しながら両手と両足をキメラの蒼い外殻で覆い、転生者を背負っているとは思えないほどの速度で基地の外へと走り出していた。


「クソッタレが………化け物のメスの分際でぇ………ッ!!」


 後頭部に刺さった短刀を強引に引き抜きながら、血まみれの勇者が起き上がる。後頭部の傷口の中で骨や肉が断面の反対側の肉や骨と絡みつき、その表面を頭皮が包み込む。


 血まみれの短刀を投げ捨てながら、勇者は剣をこっちに向けた。ジェイコブを追撃する邪魔をされた事と、格下だと思い込んでいた私に傷つけられたことで激昂しているらしい。


 キメラを侮るなよ、クソ野郎。


「ぶち殺すッ!!」


 激昂しながら突っ込んでくる勇者が、剣を突き出してくる。身体を横に傾けてその一撃を躱し、訓練で鍛え上げているとは思えない貧弱そうな腕に尻尾を巻き付ける。そのまま両手の刀を投げ捨ててから勇者の両手を掴み、サクヤ姉さんと同じように背負い投げで投げ飛ばす。


 地面に背中を叩きつけられた勇者が呻き声を発している間に、彼の喉元にもう一本の短刀を突き立ててから刀を拾い直した。姉さんからすれば勇者は”ご主人様”らしいが、勇者が飼い慣らしているつもりの姉さんは主人が喉を担当で串刺しにされても何とも思っていないらしく、先ほどと同じように刀を構えていた。


 後ろへとジャンプして距離をとった直後、首に刺さっていた刀を引き抜いた勇者が傷口を再生させながら立ち上がる。


 呼吸を整えた私は、姿勢を低くしながらその2人へと肉薄するのだった。












 もう、右腕と両足は機械の手足だ。だから人の手をぎゅっと握ったとしても、その手が温かいのか冷たいのか分からない。銃弾を撃ち込まれたり、ナイフを突き立てられても、その痛みが全く分からない。


 右腕と両足が無傷だという事を確認してから、左腕の方を凝視した。無数の鉄骨やクレーンの残骸が落下してきたにもかかわらず、義手や義足に鉄骨は刺さっていない。身体には小さな金属片がいくつか刺さっていたけれど、後で引っこ抜いてからエリクサーを飲めばすぐに回復できるだろう。


 しかし――――――左腕は血まみれだった。


「くそったれ」


 傍らで強烈な血の臭いを発している左腕を見つめながら悪態をつく。


 左腕の肘から先が、クレーンの残骸が直撃したせいで倒れてきたコンテナに押し潰されているのだ。力を入れてみようとするが、全く左腕には力が入らない。肘の辺りからは大量の血が流れ出ていて、コンテナや周囲の金属片を真っ赤に染めている。


 くそ、早くセシリアたちに合流しなければ………。


 コンテナの下敷きになっている腕を引っ張ってみるが、血まみれの左腕はびくともしなかった。このまま強引に引っ張れば、肘から先が千切れ飛んでしまいそうである。


 倉庫の外から、刀の刀身がぶつかり合う音や、セシリアの呻き声が聞こえてくる。彼女は倉庫の外で戦っているようだ。


 ちらりと左腕を見てから、右手を背中にある大太刀の柄に手を伸ばす。漆黒の刀身を鞘の中から引っ張り出し、そっと左腕に近づけていく。


『――――――腕、切っちゃうんですか?』


 いつの間にか、ひしゃげたコンテナの上に制服を身に纏った明日花が座っていた。前世の世界で暮らしていた頃に、よく年上と喧嘩をしてボロボロになった俺を手当てしてくれた時のように心配そうな顔をしながら、腕を切り落とそうとしている俺を見下ろしている。


「ああ」


『肉と骨でできている唯一の腕なのにですか? その腕まで義手にしちゃったら、何も感じなくなっちゃいますよ、兄さん』


 この腕を機械の義手にしてしまえば、もう何も感じなくなってしまう。


 人の手を握っても、暖かいのか冷たいのか分からない。銃弾で撃ち抜かれたり、ナイフを突き立てられても、その痛みが分からなくなる。


 何も感じなくなってしまう。


 辛うじて残っている”人間の手”を捨てることになってしまう。


 自分の身体がどんどん機械になっていく。人間のように、痛みや温かさを感じる事ができなくなる。


「構わない」


 微笑みながら、コンテナの上に座っている明日花を見上げた。


「あの時、苦しんでいるお前の近くにいたというのに、俺はお前を救えなかった………。今、倉庫の外で大切な仲間が苦しんでるんだ。あの時みたいに、俺のすぐ近くで」


『…………』


「もう嫌なんだ。すぐ近くにいる仲間を助ける事ができないのは」


 あの時みたいに、失いたくない。


 お前みたいに、絶望させたくない。


 これ以上ないほど辛いのだ。すぐ近くにいるにもかかわらず、苦しんでいる大切な人を助けてあげられないのは。


 それにお前も辛かったことだろう。すぐ隣の牢屋に俺がいるというのに、助けてもらえなかったのだから。


「だから………この腕がそれの枷になるというのなら――――――」


 微笑みながら、義手に力を込めた。


「―――――――こんな腕、いらない」


 ブチン、と、左腕が千切れ飛んだ。


 漆黒の刀身の大太刀が、かつては自分自身の柄を握っていた主人の左腕を容赦なく切断したのだ。大量の鮮血が溢れ出し、大太刀の刀身を黒と真紅の迷彩模様へと変えていく。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 絶叫しながら右腕をポーチの中へと突っ込み、作戦開始前にジェイコブから渡されたエリクサーを一気に5つほど口の中へと放り込んだ。飲み込んだ直後、左腕の断面の肉が傷口を塞いだかと思うと、皮膚がその表面を包み込み、断面から躍り出ていた鮮血たちをあっという間に止血してしまう。


 呼吸を整えながら、明日花が座っている筈のコンテナを見上げる。けれども、あの時助けてやることができなかった哀れな妹の幻は、もうコンテナの上から姿を消していた。


 瓦礫を義手で思い切り殴り飛ばし、クレーンの残骸やコンテナの隙間から躍り出る。右腕を口へと近付け、煉獄の鉄杭(スタウロス)の起動スイッチを押した。


《リミッターの解除を確認しました。小型フィオナ機関、魔力加圧限界値の制限を解除します》


 耳の中に響いた甲高い声が、義手の中に内蔵されている小型フィオナ機関のリミッターが解除された事を告げた。


《魔圧、魔力加圧限界値を突破。フィオナ機関、暴走を開始》


 電子音にも似た警報が聞こえたかと思うと、漆黒の義手の一部が、まるで溶鉱炉の中で溶け始めた金属のように紅く染まり始める。フィオナ博士が搭載してくれたフィオナ機関が暴走を開始したことで、蓄積されている魔力が暴発寸前まで加圧されているのだ。


 瓦礫の山の周囲に勇者はいない。やはり、勇者は外でセシリアたちと戦っている。


「勝手に終わらせてんじゃねえぞ、天城ィ………!」


《魔力の準備が完了しました。偽装解除のため、爆発ボルトを使用します。危険ですので右腕を胴体から離してください》


 義手に内蔵された爆発ボルトが炸裂し、義手のフレームや機械の指が吹っ飛んでいく。やがて、あらゆる防御という概念を無視し、一撃で敵を殺すことが可能な煉獄の鉄杭(スタウロス)があらわになった。


 左腕を切断したせいで、身体が何度かふらついてしまう。


 左半身に体重を預けながら、倉庫の外へと向かって走り出した。


 キャメロットに戻ったら、左腕も機械になっちまう。


 けれども、俺はそれで構わない。何も感じなくなるという事は、敵に情けをかけることもできなくなるという事だから。


 復讐のために戦う男には、それがお似合いだろう。


 だから俺は、是が非でもあいつらをぶち殺す。明日花を絶望させて殺したクソ野郎共を、全員無残にぶち殺す。


「――――――惨殺あるのみぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!」


《バックブラスト、点火のカウントダウンを開始します。後方に友軍がいないか確認してください》


 倉庫の外で、セシリアが黒い制服に身を包んだ女性の兵士――――――セシリアにそっくりな顔つきだ――――――と、白い制服に身を包んだ勇者と戦っているのが見える。セシリアを罵倒しながら剣を振り回していた勇者は、どうやら先ほどクレーンの下敷きになった筈の男が殺気を発しながら突っ込んでくる事に気付いたらしく、こっちを振り向くと同時に凍り付いた。


 俺は殺せない。


 お前に復讐を果たすまでは、何度でも蘇ってやる。


「ば、バカな! 何でまだ生きて―――――――」


「殺しに来たぞ、クソ野郎!」


 勇者は剣を構えながら俺を斬りつけようとしたが、右腕に内蔵されている杭を見た途端、目を見開きながら回避しようとした。さすがにこの一撃を喰らうのは危険だという事を咄嗟に理解したのだろう。


 もし斬りつけようとしていたならば、敢えて勇者に斬られつつこいつを腹に叩き込んでやるつもりだったんだが、回避されても問題はない。


 俺たちがメルンブルッヘ基地を襲撃した目的は、リョウを救出することだったのだから。


 勇者に叩き込む筈だった煉獄の鉄杭(スタウロス)を、お構いなしに足元のコンクリートへと叩き込んだ。義手の肘の部分から猛烈なバックブラストが噴出し、装填されていた対転生者用の杭が、レベルの高い転生者よりもはるかに脆いコンクリートの地面を容赦なく粉砕する。轟音と無数のコンクリートの破片が周囲に飛び散り、衝撃波が俺や勇者の肉体を吹っ飛ばす。


 右腕の義手が、バックブラストの噴射とパイルバンカーの反動リコイルによってバラバラになる。


 セシリアと接近戦を繰り広げていた敵の女性の兵士も、今の衝撃波で海の近くまで吹っ飛ばされているところだった。


「ボス、今のうちに!」


「待て!!」


 刀を腰に下げ、海の近くまで吹っ飛ばされた女性の兵士の所へと走るセシリア。両腕が無くなってしまった俺も、海へと向かって突っ走る。


 どうやらジェイコブはリョウを連れて離脱したらしい。後は俺たちが脱出すれば、救出作戦は成功と言えるだろう。”大損害”を被る羽目になっちまったがな。


「逃がすな! あの蛮族共を殺せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 倉庫の近くで、走ってきたヴァルツ兵たちに向かって勇者が喚いている。数名の兵士がこっちに向かって射撃を開始したが、周囲に友軍の無残な死体がいくつも転がっているせいで動揺しているのか、命中精度は劣悪だった。


 セシリアは先ほど吹っ飛んだ女性の兵士から刀を奪い取ったかと思うと、その女性を背中に背負った。


「ボス、そいつをどうするつもりだ!?」


「連れ帰る! 理由は戻ってから話す!!」


「了解!!」


 彼女は俺の左腕が無くなっていることに今気づいたらしく、エリクサーのおかげで塞がっている腕の断面を見てぎょっとした。腕を失う羽目になった理由は、俺もキャメロットに戻ってから彼女に話しておくべきだろう。


 一足先にセシリアが海へと飛び込んだのを確認してから、まだ喚いている勇者に向かって宣言した。


「天城――――――――次は殺す」


 そう言ってから踵を返し、俺もメルンブルッヘの海へと飛び込んだ。


 海へと飛び込んだ直後、コレットたちが仕掛けた爆薬が起爆したらしく、停泊していた艦艇の方から爆音が聞こえてきた。












 なぜ、力也の左腕が無くなっていたのだろうか?


 泳ぎながらそう思っていた私は、ちらりと後ろを泳いでいる力也の方を振り向いた。両腕が無くなってしまっているから、今の彼の泳ぐ速度はかなり遅い。しかもあの義足も結構重いため、力也はどんどん海中へと沈みつつあった。


 必死に泳いでいた力也の口から、次々に空気が躍り出る。


「…………っ!」


 あのままでは、力也が溺れ死んでしまう。


 姉さん、すまない。もう少し我慢してくれ。


 姉さんを背負いつつ、自分の尻尾を姉さんの身体に巻き付ける。そのまま更に潜り、沈んでいく力也の方へと全速力で泳ぐ。


 ジェイコブの言っていた通り、この男はかなり無茶をするが生還した。


 だが、左腕を失うとはな………。


 このたわけが。私を心配させおって。


 キャメロットに戻ったらお仕置きしてやる。


 両手を伸ばし、沈んでいく力也の身体を掴む。そして彼の口に自分の口を押し付け、私の空気を分けてやってから、メルンブルッヘ沖で待機しているヴェールヌイへと向かって泳ぎ出した。





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