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異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる   作者: 往復ミサイル
第五章 純白の戦場、真紅の殺意
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対戦車ライフル


 戦車を撃破することができる兵器は、強力な砲弾を発射できる野砲や”対戦車砲”か、分厚い装甲すら易々と吹き飛ばすことが可能な爆薬である。


 現代では強力な対戦車ミサイルやロケットランチャーの対戦車榴弾を使わなければ戦車を破壊することは難しくなっているが、昔の戦車は速度が遅かった上に装甲もそれほど分厚くなかったので、貫通力の高い徹甲弾を使えば、歩兵が装備しているボルトアクションライフルでも装甲を貫通する事ができた。


 けれども、俺が用意した兵器はボルトアクションライフル用の徹甲弾とは比べ物にならないほど獰猛な代物である。


「何それ」


 キャメロットの艦内に用意された射撃訓練場の壁に立てかけられている銃を凝視しながら、射撃訓練にやってきたジェイコブが言った。


 すらりとした長い銃身が伸びており、ハンドガードにはがっちりとしたバイポッドが搭載されているのが分かる。レシーバーの右側からはボルトハンドルが突き出ており、そこに立てかけられている代物がモシンナガンと同じくボルトアクション式のライフルだという事を告げていた。木製のストックが搭載されているものの、トリガーのすぐ後方からはピストルグリップが突き出ており、一般的なボルトアクションライフルと比べると形状はやや異質と言えるだろう。


 とはいっても、その程度の”異質”は普通のボルトアクションライフルを隣に並べた途端に消滅することになる。


 そのライフルは、通常のボルトアクションライフルよりもはるかに巨大だからだ。


「対戦車ライフルだよ」


「対戦車ライフル?」


 対戦車ライフルとは、戦車を撃破するために開発された巨大なライフルである。


 簡単に言うと、貫通力に特化した大口径の弾丸を戦車の装甲が薄い部分に撃ち込んでダメージを与える兵器だ。普通のライフル弾よりもはるかに巨大な弾丸を使用するため、ライフルのサイズも通常のライフルよりはるかにデカい。当たり前だけど、サイズがデカいせいで非常に扱いにくい兵器である。


 対戦車ライフルは第一次世界大戦の終盤や第二次世界大戦の中盤で猛威を振るったけれど、段々と大口径の弾丸で戦車の装甲を貫通することが不可能になっていったため、現代では廃れてしまっている。


 現代の対戦車兵器の主役は、対戦車ミサイルやロケットランチャーなどだ。


 だが、今回の相手は鹵獲されたオルトバルカ軍のM1菱形突撃戦車である。攻勢と戦車の処分を要請してきたオルトバルカ軍がやっと開示してくれた情報によると、M1菱形突撃戦車の正面装甲の厚さはおよそ11mmで、側面は9mmだという。欠点は火力を重視したせいで機動力が低い事と、エンジンであるオルトバルカ製フィオナ機関の信頼性がそれほど高くないという事だ。


 装甲はそれほど分厚くないので、対戦車ライフルでも撃破することは可能だろう。


 というわけで、俺は端末で早速対戦車ライフルを用意していた。


 用意したのは、第一次世界大戦でドイツ軍が投入した『マウザーM1918』という対戦車ライフルである。当時のドイツ軍が採用していた『Gewehr98』というライフルをベースにした代物だが、使用する弾薬は遥かに巨大な13mm弾であり、1発しか弾丸を装填できない。なので、ぶっ放したらボルトハンドルを引き、13mm弾を装填してからボルトハンドルを元の位置に戻す必要があるというわけだ。


 全長はおよそ170cm程度なので、俺の身長よりもやや低いライフルである。


 ちなみに、俺の身長は180cmだ。


 マウザーM1918はサイズが非常にデカい上に重い銃なので扱いにくいのだが、まだ欠点がある。


 それは、反動リコイルが正気の沙汰とは思えないほど大きいという事である。今から試し撃ちするつもりだが、出撃する前に義手がぶっ壊れて出撃を中止する羽目にならないだろうかと思ってしまう。


 とはいっても、今の俺の右腕は肩の辺りまで義手なので問題ないだろう。こいつを移植する羽目になっていなかったら、大人しくボルトアクションライフル用の徹甲弾で我慢したと思う。


 溜息をついてから、腰のベルトから13mm弾を引っ張り出す。モシンナガンのライフル弾よりもはるかにでっかい銃弾を目にしたジェイコブが目を丸くしているうちに、ボルトハンドルを引いて内部へと弾丸を放り込み、ボルトハンドルを元の位置に戻してからバイポッドを展開する。


 銃口の上にあるフロントサイトは、狙いやすいようにリング状の代物に変更しておいた。


 息を吐きながら標的に照準を合わせ、がっちりしたピストルグリップの前にあるトリガーを引く。


 次の瞬間、まるでライフル弾が肩を直撃したのではないかと思ってしまうほどの衝撃が、対戦車ライフルの銃床に憑依して義手の肩に牙を剥いた。ガチン、と銃床と義手の肩が激突する金属音が響き渡ったが、それよりも巨大な銃声にあっさりと粉砕されてしまった。


 猛烈なマズルフラッシュが銃口から噴き出し、それを置き去りにして飛翔した一発の13mm弾が、射撃訓練場の向こうに用意してある戦車の装甲を直撃する。銃声の残響が消えるよりも先に、甲高い金属音が射撃訓練場の壁で立て続けに反響したかと思いきや、運び込まれていた戦車の装甲に風穴が開いていた。


 ちなみにその装甲は、オルトバルカ軍の将校が用意してくれたものである。セシリアが「オルトバルカ製の戦車の防御力を知るために予備の装甲を提供してほしい」と要請してくれたおかげで、これから処分することになる標的の装甲で試し撃ちができるというわけである。


「か、貫通したぞ………!?」


「痛ってぇ………」


 風穴を開けられた装甲を凝視するジェイコブの隣で、左手で肩を押さえながら呻き声をあげる。下手をしたら強烈な反動リコイルを纏った銃床に義手を断面の肉もろとも捥ぎ取られるのではないかと思ってしまうほどの衝撃だった。


 こんな代物で4発か5発も射撃したら脳震盪が牙を剥くことになりそうである。


 昔のドイツ兵はこんな銃を使っていたのかと思いつつ、ボルトハンドルを引いてでっかい薬莢を排出する。とりあえず、出撃する前に銃口にマズルブレーキを装備しておこう。


 










「美緒がテンプル騎士団に………!?」


 撤退してきた兵士の生き残りの報告を聞いた途端、唐突に絶望が心の中で産声をあげた。


 一週間前のテンプル騎士団の攻勢を撃退するために出撃した美緒はまだ帰還していない。彼女が撤退してきた兵士たちの中にいないことに気付いた私は、部下に命令して偵察や捜索を行われたけれど、愛おしい双子の妹を連れ戻すことはできなかった。


 よりにもよってテンプル騎士団の捕虜にされるなんて………!


 テンプル騎士団はこの世界の条約に批准していない。先進国は捕虜への暴行や人体実験を禁じる条約に批准しているけれど、テンプル騎士団はそういった条約には一切批准していないから、堂々と捕虜の処刑や人体実験をする事ができるの。


 でも、テンプル騎士団は基本的に捕虜を受け入れずに敵を皆殺しにする事が多いらしいわ。


「美緒様を連れ去ったのは、おそらく”ウェーダンの悪魔”ではないかと」


「……………ウェーダンの悪魔?」


 雪まみれになっている兵士を凝視しながら首を傾げると、防衛ラインの生き残りの兵士はぶるぶると震えながら報告し始める。


「ええ。西部戦線のウェーダンで、司令部の兵士をほぼ全員虐殺したテンプル騎士団の兵士です。我が軍の兵士や転生者様を惨殺し、血まみれになった状態で帰還していったそうです」


「何よそいつ。テンプル騎士団(あの蛮族共)にそんなやつがいるわけないじゃない」


「いえ、司令部の生き残りは全員『悪魔を見た』と証言しています。我が軍の諜報部隊からの情報では、西部戦線から東部戦線へその”悪魔”がやってきているとのことです」


 その悪魔が美緒をさらっていったというの?


 唇を噛み締めながら、腰に下げているレイピアの柄を思い切り握りしめる。転生者は端末を没収されるとステータスによる身体能力の強化が解除されてしまうから、連れ去って端末を没収したり破壊すれば、強力な転生者を嬲り殺しにする事ができる。


 連れ去られた美緒が、あの蛮族共に痛めつけられているのは想像に難くない。しかも、あの蛮族共は捕虜への暴行や処刑を禁じるための条約には一切批准していない野蛮人たちよ。もしかしたら、あの子を拷問してから惨殺するつもりかもしれない。


「……………面白いわ。その悪魔は、この私が討伐する」


「きっ、危険です! 奈緒様、落ち着いてください! ウェーダンの悪魔は転生者だという情報も―――――――」


「関係ないわ!!」


 右手でレイピアを素早く引き抜き、白銀の切っ先を報告している兵士の喉元に突き付ける。止めようとしていた兵士はぎょっとしながら突き付けられている刀身を見下ろし、後ろへと一歩下がった。


 私が負けるというの?


 負けるわけがないじゃない。私に与えられた力が、そんな”悪魔”に負ける筈がない。


 勇者様が率いる帝国軍に刃向かおうとした愚かな連合王国の連中も、この力で返り討ちにしてやったのだから。


 雄叫びを上げながら突っ込んできたバカ共を蹂躙してやった時の事を思い出しながら、テントの外へと歩く。外は相変わらず雪が降り続いていて、昼間の戦闘で戦死した敵兵の死体はとっくに雪の中に埋もれていた。撃破された敵の戦車の風穴から顔を出していた炎や黒煙も姿を消していて、真っ白に塗装された戦車の表面に焦げ目を刻み付け、かつては燃えていたという事を告げている。


 テントの外では、コートに身を包んだ数名の兵士たちが、鹵獲した戦車の近くにランタンを置いて整備をしているところだった。オイルまみれになっている彼らは私がやってきた事に気付くと、大慌てで工具を置いて立ち上がり、私に向かって敬礼する。


「お疲れ様であります、転生者様!」


「今回の戦闘は圧勝でしたね」


 最初の頃は”転生者様”って呼ばれる度に恥ずかしいと思ったけれど、そう呼ばれて称えられるのは当り前よ。


 私たちには、この兵士たちと違って圧倒的な力があるのだから。


 帝国に刃向かうのならば、大人しく蹂躙されてしまえばいい。


「投入できる戦車パンツァーはどれくらいかしら?」


「鹵獲した10両の戦車のうち、再起動できたのは6両でした。残りの4両は損傷が酷かったので、分解して他の車両の修復に使いました」


「では、次の防衛戦にはその6両を投入しましょう」


了解です(ヤヴォール)!」


「それと、敵兵を何名か生け捕りにして美緒の居場所を吐かせましょう。吐かなかったら、戦車で踏み潰しても構わないわ」


はっ(ヤー)!」


 戦車がなくても蛮族を簡単に蹂躙できるけれど、敵は一週間前の攻勢で戦車を投入している。私ならば戦車をレイピアで切り裂く事ができるけれど、我が軍の兵士たちは戦車を撃破できる武装を装備していないから、戦車を破壊することはできない。


 この鹵獲したオルトバルカの戦車は有効活用させてもらいましょう。非力な兵士たちでも、敵の戦車を撃破できるようになるのだから。


 もしその”ウェーダンの悪魔”が一緒に攻め込んで来たら、そいつを生け捕りにしてあげましょう。ヴァルツ帝国は条約に批准しているけれど、捕虜の拷問が禁じられるのは同じ条約に批准している国の兵士のみ。だから、あの蛮族共には拷問しても問題はないのよ。


 拷問して、美緒の居場所を聞き出してから戦車で踏み潰してやる。


 待っててね、美緒。


 あなたを連れ去ったウェーダンの悪魔は、お姉ちゃんが退治してあげるから。












 オルトバルカの夜空には、稀にオーロラが姿を現すという。


 オーロラはあるだろうかと思いながら、容赦なく雪をばら撒いている夜空を見上げる。けれども、夜空に居座るのはごく普通の星空と落下してくる雪の群ればかりだ。この攻勢が終わる前にオーロラを見ることはできるだろうか。


 この世界ではもう写真やラジオが発明されているけれど、写真は未だに白黒写真なので、美しいオーロラを撮影したとしても白黒のオーロラになってしまう。


 溜息をつくと、口から追い出された息が瞬く間に真っ白に染まった。


 支給されたブーツで雪原に足跡を刻み付けながら、敵の防衛ラインへと向かって歩き続ける。俺のブーツが踏みしめようとしている場所には既にでっかい足跡が刻み付けられていた。


 俺の前を歩いているのは、真っ白なコートに身を包んで頭にウシャンカをかぶった巨漢だ。背中には真っ白な布を巻きつけたマドセン機関銃を背負っていて、頭にかぶっているウシャンカからは桜色の頭髪が覗いている。


 なんと、今回の俺の任務にウラル副団長が同行することになったのだ。どうやら俺の実力を実際に見るつもりらしい。


 セシリアは俺の復讐心を肯定してくれたが、この男はその復讐に釘を刺しやがった。唯一の家族を虐げた怨敵への報復に”限度”は不要だ。それに、怨敵たちは塵よりも命が軽いクソ野郎なのだから、惨殺しても全く問題は無い筈である。


 この男は甘い。報復に限度が存在してはならないのだ。


 もし報復した相手の家族が俺に報復するためにやってきたというのであれば、その家族もろとも皆殺しにしてやればいい。怨敵を殺すことで俺に報復しようとする者たちを根絶やしにしてしまえば、報復はこちらの完全勝利で幕を下ろす。


 だから、”敵”を完全に取り除いてしまえば問題はない。敵を残してしまうからこそ、復讐は連鎖と化すのだ。


 ウラル副団長はそれを理解していない。


 正直に言うと、あまりこの男は好きではない。


 こっそり銀の弾丸を用意して後頭部を撃ち抜いてやろうかと思いつつ、ちらりと背中で揺れているでっかい銃身を見上げる。


 今回のメインアームは、白い布を巻きつけたマウザーM1918である。用意した弾薬20発だが、この弾丸を全部撃ち尽くしたら義手が抉れるかもしれない。


 サイドアームは愛用しているコルトM1911だ。メインアームが使い勝手の悪い対戦車ライフルであるため、実質的に今回はこいつがメインアームと言ってもいいだろう。特にカスタマイズは行っていないが、念のため2丁用意しておいた。


 近接武器はジェイコブの店で購入した大太刀と短刀である。


 しばらく歩いていると、ウラルが急に姿勢を低くした。同じように姿勢を低くしながら腰に下げた潜望鏡を取り出し、前方を確認する。


 雪に覆われた麦畑の向こうに、明かりが見える。どうやら兵士が木箱の上に置いたランタンの明かりらしい。その灯りの近くでは小型のランタンを腰に吊るした兵士が立っていて、近くの廃墟の中にいる仲間と話をしているようだった。


 廃墟の中にいるのは、ライフルを装備した数名の兵士と――――――これ見よがしに帝国軍のエンブレムが描かれた、鹵獲されたM1菱形突撃戦車だ。


 あの廃墟や農村に隠れ、攻勢を始めるテンプル騎士団を待ち伏せするつもりらしい。


 作戦を台無しにしてやろうと思いつつ、右手を背中の対戦車ライフルへと伸ばす。少しばかり距離が遠いから匍匐前進する必要があるなと思っていると、左腕をウラルのがっちりとした手が掴んだ。


「待て、昼間になるまで待とう」


「朝になれば警備が厳しくなります。今すぐ奇襲した方がいいのでは?」


「友軍の攻勢開始まで時間がある。ここで攻撃すれば敵を警戒させることになるぞ」


 溜息をついてから、対戦車ライフルから手を離す。敵兵がこっちを見ていないことを確認してから、腰に下げているスコップを引っ張り出し、この吸血鬼の巨漢と2人でタコツボを掘り始めるのだった。

 


 


 


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