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異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる   作者: 往復ミサイル
第五章 純白の戦場、真紅の殺意
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快進撃


「何なんだよ、あの兵器は!?」


 塹壕へと進撃してくるテンプル騎士団の新兵器の群れをライフルで狙撃しながら、軍曹が悪態をついた。弾切れになったライフルに弾丸を装填し、俺も敵の新兵器にライフル弾を容赦なく叩き込むが、人間の肉体を容易く撃ち抜くライフル弾は金属音を奏でながら弾き飛ばされてしまう。


 今までの攻勢で塹壕へと突っ込んでくるのは、ライフルや棍棒を持った兵士が当たり前だった。敵の雄叫びが聞こえ、黒服を纏って弾幕の真っ只中を突破してくるテンプル騎士団の兵士たちの姿が見える度に、あの忌々しい蛮族共を叩き潰してやるとこっちの兵士たちは奮い立っていたのである。


 だが、今回の戦いでは奮い立つどころか、総崩れになりつつあった。


 忌々しい蛮族共が、まるで装甲車の上に野砲を搭載したような形状の兵器を大量に投入してきたのである。


 ライフルや機関銃は全くと言っていいほど通用しない。こちらの塹壕にも野砲や迫撃砲は配備されていたが、沖に居座っている敵艦隊の艦砲射撃や、爆弾をぶら下げて急降下してくる敵の航空隊の空爆によって次々に破壊されており、虎の子の砲弾であの装甲を貫通してくれる野砲は残っていなかった。迫撃砲や手榴弾なら対抗できるかもしれなかったが、迫撃砲の砲手たちは敵の新兵器が放った砲弾で吹っ飛ばされているし、手榴弾はライフル弾よりもはるかに射程距離が短いから、こいつをぶん投げるのは難しだろう。


「ギャッ――――――」


 敵の新兵器を狙撃していた軍曹の胸板を、唐突に敵の随伴歩兵が放った弾丸が貫いた。


「軍曹!」


「衛生兵、軍曹が撃たれた!!」


 他の兵士を手当てしていた衛生兵に向かって叫びながら、腰にぶら下げていた手榴弾を引っ張り出す。塹壕に配備されている野砲や迫撃砲と比べるとかなり威力は低いものの、守備隊の一斉射撃を意に介さずに突っ込んでくる新兵器にダメージを与えることはできるだろう。


 砲撃しながら突っ込んでくる敵の新兵器を睨みつけながら、大昔にフランセン共和国の騎士団に所属していたご先祖様の話を思い出す。


 俺のご先祖様は、創設されたばかりのテンプル騎士団と戦った生き残りの1人だった。当時のフランセンの植民地だったカルガニスタンを奪還するために、フランセン共和国騎士団の主力部隊がカルガニスタン―――――テンプル騎士団は”クレイデリア連邦”と呼んでいた―――――へと攻め込んだらしいのだが、カルガニスタンの国境へと足を踏み入れた直後に壊滅させられたらしい。


 その時に牙を剥いたのが、テンプル騎士団の錬金術師が生み出したという無数のホムンクルスの兵士たちと、車体の上に巨大な大砲を搭載した大量の”鋼鉄の馬車”たちだったという。


 ご先祖様の部隊を壊滅させたのは、あの兵器だとでもいうのか?


「くそったれ!」


 接近してきた小型の兵器に向かって、俺は手榴弾を投擲した。安全ピンを引き抜かれた手榴弾はぐるぐると回転しながら敵の砲塔に激突し、そのまま車体へと転がり落ちてから起爆した。内蔵されていた高圧の魔力が暴発し、真紅の爆炎を生み出す。


 爆発が車体に牙を剥くと同時に、ぴたりと敵の兵器が一瞬だけ停止した。


 やはりライフル弾よりもダメージは与えられるのだと確信した直後、別の兵器が砲弾を放ち、同じように手榴弾を投擲しようとしていた兵士たちを吹っ飛ばしやがった。


「敵兵が突っ込んでくる!」


「!!」


 こちらが総崩れになったと判断したのか、重機関銃が通用しない新兵器を盾にしながら接近していた敵兵たちが、新兵器の陰から躍り出た。銃剣の付いたライフルや、現在ではどこの国の軍隊も採用していない剣を持ちながら、塹壕へと向かって突撃してくる。


 舐めるなよ、蛮族共が!


 ライフルのボルトハンドルを引き、敵兵へと狙いを定める。銃口から飛び出したライフル弾が真っ白なヘルメットをかぶっていた蒼い髪の女性の兵士―――――多分ホムンクルス兵だろう―――――の眉間を直撃し、華奢な兵士が頭を大きく揺らした。


 ボルトハンドルへと手を伸ばし、捻ってから後方へと引っ張る。魔力の残滓と煙を纏った薬莢が飛び出し、雪まみれの塹壕の中へと回転しながら落下していく。


 新兵器の陰から別のホムンクルスの兵士が飛び出してくる。そいつを狙撃したんだが、命中したライフル弾は甲高い音を響かせると、一瞬だけ火花を散らして弾き飛ばされてしまう。今しがた弾丸を命中させたそのホムンクルスの兵士は、ライフル弾を意に介さずに剣を引き抜くと、他のホムンクルスの兵士たちと一緒に塹壕へと突撃を始めやがった。


 ホムンクルスたちの肉体が、まるで大昔の騎士団を蹂躙していたドラゴンを彷彿とさせる蒼い外殻に覆われていく。重機関銃の射手たちがホムンクルス兵に照準を合わせて弾幕を張るが、案の定、重機関銃の弾丸も甲高い音を響かせて立て続けに弾かれてしまう。


 くそったれ………!


 テンプル騎士団のホムンクルスのベースになっているのは、創設者の1人であるタクヤ・ハヤカワの遺伝子だという。人間の遺伝子と魔物の遺伝子を併せ持つ”キメラ”と呼ばれる種族であるため、あのようにドラゴンの外殻を生成して肉体に展開し、弾丸から身を守る事ができるのだ。


 弾丸をものともせずに突っ込んでくることが可能な防御力と、歩兵の機動力を兼ね備えた厄介な”兵器”である。


 先陣を切るホムンクルスの後方から突っ込んでくるのは、ライフル弾に被弾したとしても突撃を継続できるほど肉体が頑丈なハーフエルフやオークの兵士たちだった。キメラのホムンクルスよりもはるかに戦闘力は低いものの、筋力は人間よりも遥かに発達しているため、白兵戦になればあっという間に叩き潰されてしまう。


 突撃してくる兵士たちの後方に居座るのは、先ほど進撃してきた新兵器たちよりもはるかに巨大な兵器だった。


「な、何だあれは………!」


 装甲車を易々と踏み潰してしまう事が可能なほど巨大な履帯と、分厚い装甲に覆われた巨大な車体の上に、あの新兵器とは比べ物にならないほど巨大な砲塔が鎮座しているのである。車体の側面から突き出ているのは重機関銃の銃身だろうか。よく見ると、車体後部にも小型の砲塔が搭載されており、”副砲”として機能しているようだった。


 後方には、それと同型の車両が走行しているのが見える。


 次の瞬間、巨大な新兵器の主砲が火を噴いた。艦砲射撃を思わせる爆音が轟いた直後、突撃してくるホムンクルス兵たちを銃撃していた重機関銃が、装填手と射手もろとも粉々になった。銃身の周囲に搭載されているタンクに入っていた水が爆炎であっという間に蒸発し、木っ端微塵になった肉片が黒焦げになった状態で周囲へと飛び散る。


 その”鋼鉄の馬車”は、応戦している守備隊の兵士をお構いなしに踏み潰しながら塹壕を突破すると、側面に搭載されている重機関銃で掃射を始めやがった。


「うわっ―――――――」


 慌てて塹壕から這い上がろうとしたが―――――塹壕を脱出するよりも先に、背中で激痛が生まれた。機関銃に被弾したのだろうかと思いながら後ろを見てみると、スパイク型銃剣の付いたライフルを抱えた華奢なホムンクルスが、銃剣で俺の背中を串刺しにしていた。


 強引に銃剣を引き抜き、他の兵士たちと一緒に塹壕を突破していくホムンクルス兵たち。傷口と口から鮮血を流しながら塹壕へと転がり落ちた俺は、真っ白な空を見上げながら死ぬ羽目になった。












「第4防衛ラインが突破されました………!」


「バカな!? 戦闘が始まってからまだ20分程度しか経っておらんのだぞ!?」


 報告を聞いたヴァルツ軍の将校は、テーブルの上の地図を見下ろしながら歯を食いしばった。


 この『ナバウレア攻勢』の主力部隊はあくまでも後方のオルトバルカ連合王国軍であり、テンプル騎士団はその主力部隊の露払いか囮である筈であった。


 それゆえに、テンプル騎士団がこのような快進撃を開始し、一気に第4防衛ラインまで突破するのは想定外でしかなかったのである。


 テンプル騎士団の戦力は、塹壕の守備隊よりもはるかに人数が少なかったため、その兵力で攻勢を開始しても露払いか囮として機能するのが関の山である。いくら沖で艦砲射撃の準備をしている艦隊と、制空権を確保し、いつでも空爆が可能な航空隊がいるとはいえ、人数の少ない歩兵で塹壕を突破するのは不可能と言ってもいい。


 だが――――――テンプル騎士団が初めて投入した兵器によって、ヴァルツ軍の防衛ラインは蹂躙されていた。


「敵は新兵器を投入した模様です」


「新兵器?」


「ええ。伝令からの報告では、『銃撃が弾かれるほどの装甲で覆われた車体の上に、野砲を搭載したような装甲車が大量に進撃してきた』とのことです。別の伝令は、『野砲を搭載した巨大な装甲車が小型の装甲車を引き連れていた』と証言していますが………」


「野砲を搭載した装甲車だと?」


 将校は報告してきた参謀を見つめながら目を細めた。


 大昔に崩壊したフランセン共和国の騎士たちを蹂躙した当時のテンプル騎士団も、そのような兵器を投入していたという話を思い出す。列強国の1つであったフランセンを蹂躙できるほどの兵器を投入してきたという事は、壊滅状態だったテンプル騎士団の戦力に余裕ができてきたという事を意味している。


 蛮族だと見下している場合ではないのだろうか、と将校が考えたその時だった。


「あら、劣勢みたいね」


 司令部でよく聞くことになる兵士たちの低い声とは比べ物にならないほど高い声が、テントの入口の方から聞こえた。


 テントの入り口に立っていたのは、訓練を受けた男性の兵士たちと比べれば華奢としか言いようがない2人の少女だった。身長は殆ど同じであり、瞳の色や髪の色も殆ど同じである。テンプル騎士団が製造しているホムンクルスと同じ技術を使って製造されたホムンクルスなのではないかと思ってしまうほど容姿が同じだが、転生者に支給される純白の制服を身に纏っており、ポケットには同じく転生者に与えられる端末が覗いている。


 そう、その2人の少女は双子の転生者なのである。


「て、転生者様………」


 慌てて敬礼をした参謀と共に、将校も敬礼をしながら溜息をついた。


「何であんな蛮族なんかに負けてるのかしら?」


「帝国と勇者様の栄光に泥を塗るつもり?」


「もっ、申し訳ありません………敵軍が投入した新兵器によって、守備隊が大損害を――――――」


 はるかに歳下の少女に謝罪する参謀を睨みつけながら、将校は唇を噛み締める。


 将校は、戦争を経験するどころか訓練すら受けたことがないくせに、将校よりも権限が上になっている転生者が気に入らなかった。ウェーダンでテンプル騎士団に惨敗し、戦闘では役に立たないという事が証明されたにも拘らず、未だにローラント少将は「帝国の切り札になる」と主張し続けているのである。


 華奢な双子の少女を見下していると、少女の内の片方がテーブルの上の地図を見下ろしながら言った。


「奈緒、私が行くわ」


「美緒、1人で大丈夫なの?」


「簡単よ。この端末を使えばすぐに全滅させられるわ」


 そう言いながら、美緒――――――奈緒が姉らしい――――――はポケットの中から桜色の端末を取り出した。


 転生者に与えられる不思議な端末は、攻撃力、防御力、スピードの3つを大幅に強化してくれる。防御力のステータスが高くなれば銃弾が直撃したとしても殴りつけられる程度のダメージしか与えられなくなるし、攻撃力のステータスが高くなれば車両を放り投げられるほどの筋力を手に入れる事ができるようになる。それゆえに、転生者は強力な存在なのだ。


「お姉ちゃんはここで指揮を執ってて。私が蛮族共を皆殺しにしちゃうんだから♪」


「ずるいわよ、美緒。あなただけレベルが上がっちゃうじゃない」


「何言ってるのよ、奈緒。前の戦いは奈緒が1人で敵を皆殺しにしちゃったじゃん」


 双子の転生者たちの会話を聞きながら、将校は拳を握り締めていた。


 訓練や戦闘を経験してきた兵士たちからすれば、屈辱でしかない。


 彼女たちのような未熟な兵士たちが、偉大なる帝国の切り札になるのだから。













「て、テンプル騎士団が敵の第4防衛ラインを突破!」


「バカな!? まだ20分しか経過していないぞ!?」


 テンプル騎士団の快進撃によって、オルトバルカ連合王国軍の将校たちも驚愕する羽目になった。


 このナバウレア攻勢の作戦は、彼らを一足先に突撃させて敵軍の戦力を削らせ、オルトバルカ軍が用意していた新兵器を投入してヴァルツ軍の塹壕を突破するという作戦であった。


 だが、露払いである筈のテンプル騎士団が、艦砲射撃と空爆で敵の塹壕を攻撃した挙句、新兵器を投入して塹壕を次々に突破したことによって、まだオルトバルカ軍が新兵器を投入する準備を終えていないにもかかわらず、テンプル騎士団は敵の防衛ラインの5分の4を突破してしまっているのである。


 戦力を消費せずに攻勢が成功するのは喜ばしい事だが―――――――このままテンプル騎士団が帝国軍を叩きのめして勝利すれば、ナバウレア攻勢を開始する筈だったオルトバルカ軍は各国から嘲笑されることだろう。『蛮族に戦果を全て奪われた大国』と。


 帝国軍に惨敗するのは女王であるシャルロット8世に泥を塗る行為だが、テンプル騎士団に戦果を全て奪われるのも、同じく女王に泥を塗る行為である。


「こ、攻勢の準備は!?」


「エンジンの整備が遅れているらしく、あと20分はかかります」


「20分だと? テンプル騎士団(蛮族共)はたった5分で敵の塹壕を突破しているのだぞ!?」


 もし最終防衛ラインまで5分で突破してしまえば、オルトバルカ軍の介入前にナバウレア攻勢は終わってしまう事だろう。


 グレイム大将は歯を食いしばりながら、テントに飾られているシャルロット8世の肖像画を見つめた。


(女王陛下に泥を塗るわけにはいかん………!)


 拳を握り締めながら、テーブルの上の地図を見下ろす。オルトバルカ軍の左翼から突撃したテンプル騎士団は敵の塹壕の左翼を次々に突破している。中央と右翼の部隊は、次々に防衛ラインを突破していくテンプル騎士団と前方に展開するオルトバルカ軍に挟撃されるのを防ぐために、左翼が突破される度に後方へと後退し続けていた。


 今すぐにテンプル騎士団の後方へと回り込んだとしても、もうテンプル騎士団を止める事は不可能だろう。残存部隊で包囲したとしても、テンプル騎士団は即座に敵の司令部を制圧してから反転し、オルトバルカ軍と共に後方の残存部隊を挟撃するに違いない。


「………砲兵隊に砲撃を命じろ」


「しかし、テンプル騎士団の進撃速度が早過ぎるせいで誤射の恐れがあります」


「構わん」


「は………?」


 砲弾が飛来すれば、巻き込まれないように進撃を停止するに違いない。もしその砲撃でテンプル騎士団側に戦死者が出たとしても、「テンプル騎士団は戦力を削るだけで十分だったというのに、勝手に前進した」と主張すれば問題はないだろう。


 そう考えながら、グレイム大将は命じた。


「――――――テンプル騎士団もろとも砲撃せよ」



 




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