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異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる   作者: 往復ミサイル
第五章 純白の戦場、真紅の殺意
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ナバウレア攻勢


 オルトバルカ連合王国は、旧ラトーニウス領『ナバウレア地方』に展開するヴァルツ帝国、ヴリシア・フランセン帝国の連合軍を突破し、国内で革命が勃発する前に戦争に勝利するため、テンプル騎士団と共同で冬季攻勢を開始した。


 規模の小さいテンプル騎士団の主力部隊が、オルトバルカ軍よりも先に攻撃を開始することで始まったこの『ナバウレアの戦い』で、帝国軍の兵士たちは世界大戦で初めて登場する新兵器の恐ろしさを痛感することになった。


 強靭な装甲と、歩兵の群れを容易く吹き飛ばしてしまう主砲を兼ね備えた”戦車”である。











 


「エンジン、異状なし」


「車体各所に凍結なし、いつでも出撃可能」


「砲弾準備よし」


 開きっ放しになっている砲塔のハッチの中から、乗り込んだホムンクルスの兵士たちが報告する声が聞こえてくる。オルトバルカの冬は、かつてはダンジョンに指定されていた地域を除けば世界で最も寒いと言われており、頑丈な機械ですら屋外に置いたままにしておくとあっという間に凍結してしまう。


 シャール2Cの巨大な砲塔の後ろでライフルが凍結していないかチェックした私は、手袋で覆われている両手を見下ろしてから、純白の空を見上げた。まるで空にまで雪が降り積もっているかのような純白の空の中心には、雲の向こうに居座る太陽が見える。


 攻勢が始まれば、この純白の世界で血飛沫と火柱が産声をあげることになるだろう。


 純白の空を、複数のソッピース・キャメルたちが飛んで行く。敵の塹壕の位置を沖にいる艦隊に報告するためだろう。まず最初に艦砲射撃で敵の防衛ラインに損害を与え、更に航空機の空爆で塹壕を攻撃してから、随伴歩兵と共に戦車部隊が突撃するという作戦だ。力也はそれよりも一足先に側面へと回り込んで、モールス信号で艦隊に敵の位置を知らせて砲撃を要請したり、狙撃して敵を攪乱することになっている。


 私の役目は突撃する戦車たちを守る事だ。ホムンクルスの兵士たちには、先陣を切ることになるシャール2Cの1号車『ジャンヌ・ダルク』の車長を担当するように勧められたのだが、戦車は私の専門分野ではない。なので、ウラル教官がジャンヌ・ダルクの車長を担当し、戦車部隊の指揮を執ることになる。


 ジャンヌ・ダルクの車体の上には、モシンナガンを手にした他の随伴歩兵たちも乗っていた。車体に乗っている歩兵以外の歩兵は、戦車の後ろに並んで戦車を盾にしながら進軍することになる。


 しばらくすると、ハッチの中からウラル教官が顔を出した。エンジンをかけて出撃準備を済ませている他の戦車たちを見渡した教官は、腰に下げていた法螺貝を口へと運ぶと、他の兵士たちに進撃開始を告げた。


『ブオォォォォォォォォォォ!!』


 法螺貝の音が響くと同時に、シャール2Cの車体の両脇にある分厚い履帯がゆっくりと回転を始める。大地を覆う雪を容赦なく踏みつけながら進撃を始めた巨躯の後を、ライフルを抱えた随伴歩兵や他の軽戦車たちが進み始める。


 こちらの戦力は、40両のルノーFT-17と虎の子のシャール2Cが2両だ。合計42両の戦車たちを護衛するのは、既に派遣されていた第1、第2、第3遠征軍の兵士たちと、西部戦線からやってきた第4、第5、第6遠征軍の兵士たちである。随伴歩兵の人数は合計で4万人くらいだろうか。


 タンプル搭が壊滅してからは、おそらくもっとも大規模な攻勢だろう。


 唐突に、雪原の向こうで火柱が上がった。巨大な火柱が大地を覆っていた雪原の一角を溶かし、その周囲にいた哀れな敵兵の肉体を焼き尽くす。何の変哲もない雪原から噴き出したマグマのような火柱が消えたかと思うと、今度は戦車部隊の頭上を通過していったソッピース・キャメルの群れが、雪原の向こうにある敵の塹壕へと爆弾やランケン・ダートをばら撒き、雪原の一角を火の海に変貌させた。


「タクヤの奴もそうやってタンクデサントしてたよ」


 艦砲射撃と空爆を見つめていると、ハッチから顔を出していた教官が私の方を見ながらそう言った。


「胸を張りながら『俺はタンクデサント歴10年だからな』って言ってた」


「ふふっ。よく戦車に乗っていたのだな、ご先祖様は」


 しばらくすると、またしても敵の塹壕から火柱が噴き上がった。おそらく、艦隊からの砲撃だろう。もう砲弾の再装填を終えたとでもいうのだろうか。


 そろそろ敵の塹壕が近くなってきたからなのか、教官は砲塔の中に戻り、砲塔のハッチを閉めた。私も三八式歩兵銃を構えながら銃口を敵の塹壕へと向け、呼吸を整える。


 力也が協力してくれたおかげで、現在のテンプル騎士団ではモシンナガンM1891が正式採用された。軽機関銃はマドセン機関銃が採用されており、重機関銃では同じ弾薬を使用するPM1910が採用されている。そのため、採用されている武器とは全く違う弾薬を使用する三八式歩兵銃はもう採用されていないのだが、力也は”ある銃”を使うためにこれの弾薬はたっぷりと用意してくれている。


 どのような武器なのかと聞いたのだが、彼は「いずれ兵器の主役になる銃の原型の1つ」と言っていた。もしそれが採用されれば、テンプル騎士団の戦力も更に向上するに違いない。


 ドン、と、進撃する戦車たちの隊列の近くに砲弾が直撃する。戦車部隊が接近していることに気付いた敵の野砲の砲手が砲撃してきたのだろう。敵の塹壕を見てみると、先ほどの砲撃や爆撃で負傷して血まみれになっている砲手が、目にした事のない兵器(戦車)を目の当たりにして慌てふためく若い兵士に砲弾の再装填を命じているのが見えた。


 シャール2Cの砲塔がゆっくりと旋回する。砲撃の準備を終えたという事を察した私たちは、大慌てで耳を塞いだ。


 その直後、シャール2Cが一旦停車したかと思うと、砲塔に搭載された75mmカノン砲が火を噴いた。先ほどの敵の野砲とは比べ物にならないほどの轟音が轟き、大慌てで砲弾を装填していた敵兵もろとも野砲を吹き飛ばす。ひしゃげた野砲とグチャグチャになった敵兵の死体が舞い上がったのを見た私は、一緒に戦車の上に乗っていた兵士たちに「戦闘開始!」と叫ぶと、他のホムンクルスたちと一緒にシャール2Cから飛び降りる。


 私たちが飛び降りた直後、敵の塹壕から放たれた機関銃の銃弾がシャール2Cの正面装甲を直撃した。だが、巨大な車体に軽戦車とは比べ物にならないほど分厚い装甲を搭載したシャール2Cに、機関銃が通用するわけがない。仮に使用している弾丸が徹甲弾だったとしても、シャール2Cの正面装甲を穿ち、撃破することは不可能だっただろう。


 周囲を走行していたルノーFT-17も、小ぢんまりとした砲塔に搭載されている37mm砲を放ち、機関銃もろとも射手を吹き飛ばす。戦車を盾にしていた歩兵たちがモシンナガンで敵兵を射殺し始めたのを確認した私は、応戦しようとする敵兵へと三八式歩兵銃を向け、引き金を引いた。


 モシンナガンM1891よりも口径の小さな6.5mm弾が、私と同い年くらいの若い兵士の眉間を無慈悲に撃ち抜く。がくん、と敵兵が頭を大きく揺らしている隙にボルトハンドルを捻ってから引き、薬莢が飛び出すと同時に元の位置へと戻す。


 できるのであれば、連射できる銃が欲しいところだ。遠距離や中距離から敵兵をボルトアクションライフルで狙撃するのであれば問題はないかもしれないが、距離の近い敵兵をいちいちボルトアクションライフルで射撃するのは効率が悪すぎる。


 キメラの尻尾をポーチへと伸ばし、中に入っている手榴弾を引っ張り出す。三八式歩兵銃のハンドガードから離した左手で安全ピンを引き抜いてから、敵の塹壕の中へと放り投げた。


 ライフルで応戦していた兵士が、その手榴弾を大慌てで投げ返そうとする。その兵士を三八式歩兵銃で狙撃した直後、投げ返そうとしていた手榴弾が塹壕の中で炸裂して、接近してくる戦車や随伴歩兵たちに向かってライフル弾を放っていた敵兵たちを一気に吹き飛ばした。


「塹壕に突撃する! 続け!」


 敵の塹壕はすでに壊滅状態だった。最初の艦砲射撃と空爆で虎の子の野砲や機関銃をあっさりと破壊されてしまった上に、鉄条網を戦車に踏み躙られていたるところに突破口ができてしまっている。しかも敵は戦車に襲撃されることを想定していないから、対戦車用の兵器を殆ど装備していない。


 あとは、歩兵が塹壕へと突入して白兵戦を開始すればチェックメイトである。


 白兵戦はテンプル騎士団のお家芸だ。創設時からテンプル騎士団の兵士たちは白兵戦を得意としており、銃が正式採用されているにもかかわらず、剣や棍棒を当たり前のように腰に下げている兵士も珍しくなかったという。現代でも剣は正式採用されているし、兵士の訓練の中には未だに剣術の訓練も存在するのだ。


 戦車が踏み潰した鉄条網を飛び越え、銃剣付きの三八式歩兵銃を抱えて敵の塹壕の中へと飛び込む。慌てて私に銃を向けようとしていた敵兵の顎を銃床で殴りつけ、転倒したところを銃剣で串刺しにしてから強引に引き抜く。左手を腰のホルスターへと伸ばし、中に収まっているコルトM1911を引き抜いて2名の敵兵を素早く撃ち抜いてから、コルトM1911をホルスターへと戻して敵兵に三八式歩兵銃の6.5mm弾を叩き込む。


 剣を手にしたホムンクルスの兵士が、敵兵の首を斬り落とす。塹壕の床へと落下したその首を蹴飛ばして敵兵が怯んでいる隙に、私はその怯んでいる敵兵の喉元に銃剣を突き立てた。


 返り血を浴びながらその敵兵の死体を蹴飛ばし、奥にいる敵兵の頭を6.5mm弾で撃ち抜く。


 既に戦車部隊はこの塹壕を突破し、後方にある塹壕へと砲撃を開始しているようだった。


 後方の塹壕から放たれた榴弾がシャール2Cの正面装甲を直撃する。だが、シャール2Cの正面装甲に弾かれてしまったらしく、ゴォン、と塹壕の外から甲高い音が聞こえてきた。


 上空からプロペラの音が聞こえてくる。近くに転がっていた木材で敵兵の頭を打ち据えながらちらりと空を見上げてみると、ランケン・ダートをたっぷりと搭載したソッピース・キャメルの群れがこの塹壕を飛び越え、後方にある塹壕へと急降下を始めているところだった。


 そろそろ塹壕を出て戦車について行った方がいいだろう。


 塹壕の中が敵兵の死体だらけになったのを確認してから、仲間の兵士たちと一緒に次の塹壕へと向かう。おそらく、艦隊の艦砲射撃が始まってからまだ5分くらいしか経過していない筈だ。


「第一防衛ライン突破!」


 速いな。


 テンプル騎士団の兵士たちは、創設時から防衛戦よりも攻勢を得意としている。今までは兵器や兵士が少なかったせいで攻勢をする事は不可能となっていたのだが、力也が協力してくれたおかげで兵士たちの装備も統一する事ができたし、ホムンクルスの大量生産のおかげで兵力も確保できている。


 我らを嘲笑っていた帝国軍の連中に見せつけてやろう。


 本当のテンプル騎士団の力を。












「おお、速いじゃないか」


 双眼鏡を覗き込みながら、味方の位置を確認する。傍らに置いてある地図に味方が第一防衛ラインを突破したことを書き込み、航空隊のランケン・ダートでミンチにされていく敵兵たちを凝視する。


 帝国軍の第一防衛ラインの左翼はもう壊滅状態だった。残っている中央と右翼の部隊が慌てて側面からテンプル騎士団の戦車部隊を攻撃しようとしているが、まだ主力部隊であるオルトバルカ連合王国軍が残っているからなのか、全ての戦力を投入して突破を阻止する事ができなくなっている。


 このままテンプル騎士団が後方へと浸透すれば、第一防衛ラインの残存兵力は最前線で孤立する可能性があるため、後退して第二防衛ラインの守備隊と合流せざるを得なくなるだろう。そのまま第一防衛ラインに残っていれば、もしかしたらテンプル騎士団が浸透を中止して第一防衛ラインの守備隊を背後から攻撃するかもしれないし、真正面にいるオルトバルカ軍が侵攻を始めれば包囲されてしまうからだ。


 案の定、敵の指揮官は防衛ラインの放棄を選んだらしい。中央部と右翼に残っていた兵士たちが大慌てで塹壕から飛び出し、後方の塹壕へと走っていくのが見える。けれども後方の塹壕も既に航空隊の攻撃によって火の海と化していて、戦車に搭載された機関銃で蜂の巣にされた死体や、黒焦げになった死体で埋め尽くされつつあった。


 諜報部隊の報告によれば、敵の防衛ラインは全部で5つだという。まだ5分の2だが、このすべてが陥落するのは時間の問題だろう。


 敵はヴァルツ帝国とヴリシア・フランセン帝国の連合軍だが、ヴリシア・フランセン帝国はゴダレッドの戦いで大損害を被っているし、西部戦線でのフェルデーニャ王国との戦闘もしなければならないから、大規模な兵力をここに派遣するのは不可能である筈だ。


 主力部隊はヴリシア・フランセン帝国よりもベテランの兵士が多いヴァルツ帝国という事になるが、このまま進撃すれば勝利できるだろう。


 だからと言って、高を括るつもりは全く無いがね。


 満身創痍の敵だろうと、確実に殺す。一切油断はせず、慢心は存在自体を許さない。


 第二防衛ラインに艦砲射撃を要請しようと思ったが、既に戦車部隊の一部が肉薄しつつある。そんなところに砲撃を要請すれば、ジャック・ド・モレー級戦艦やソビエツキー・ソユーズ級戦艦の40cm砲が味方の戦車にまで牙を剥くことになる。


 第三防衛ラインにしておくか。


 近くに置いておいたモールス信号の発信機へと手を伸ばし、第三防衛ラインの座標を艦隊へと伝達する。


 攻撃目標は敵の第三防衛ライン。左翼のみに砲撃を集中せよ。


 伝達を終えてから、白い布を巻きつけていたモシンナガンを掴む。銃が凍り付いていないことを確認していると、ランケン・ダートを使い果たしたソッピース・キャメルの群れが海の方へと戻っていくのが見えた。空母ナタリア・ブラスベルグで補給をするのだろう。


 やがて、第三防衛ラインのある方向で火柱が噴き上がった。雪原からマグマが噴火しているかのような巨大な火柱が、第三防衛ラインの左翼に牙を剥く。


 モールス信号の発信機へと手を伸ばし、艦隊へと今の砲撃の効果があった事と、もっとやってくれという事を告げてから、懐中時計で時間を確認した。


 オルトバルカ軍が攻勢を開始するまであと20分。


 信じ難い事に、左翼のみを突破しているとはいえ、テンプル騎士団は敵の塹壕をたった5分で突破している。このままでは、オルトバルカの連中が攻勢を開始する前に敵の防衛ラインは壊滅してしまう事だろう。


 懐中時計を内ポケットに戻し、モシンナガンで狙撃する準備を済ませながら、俺は確信する。


 この攻勢は大成功だ、と。






 


※元ネタ解説『ソンムの戦い』

 ソンムの戦いは、第一次世界大戦中に勃発したイギリス軍とドイツ軍の戦闘です。戦車が初めて投入された戦闘となりましたが、イギリス軍が投入した戦車は手榴弾やボルトアクションライフルの徹甲弾で破壊できるほど装甲が薄い上に、信頼性が低く、ドイツ軍を打ち破ることはできませんでした。




※ナバウレア地方は、第一部でエミリアが駐留していた騎士団の駐屯地があった場所です。

 


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