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プロローグ2


 段々と乗客たちの絶叫が聞こえなくなっていく。そろそろ、抱きしめている妹と一緒にバスもろとも谷底へと転落し、ひしゃげたバスと共にミンチと化す頃だろうか。


 明日花だけは守りたかったのに…………。


 ごめんな、明日花。


 そう思いながら明日花を抱きしめたけど――――――どういうわけなのか、いつの間にか先ほどまで抱きしめていた筈の明日花がいなくなっていた。


 落下した衝撃で吹っ飛んでしまったのだろうか。それとも、ミンチになってしまったせいで感覚がなくなってしまったのだろうか。


 目を開ければ、きっとグチャグチャになった死体たちがひしゃげたバスの中に転がっている事だろう。無残な光景を目にする覚悟を決めた俺は、ゆっくりと瞼を開けた。


「…………?」


 先ほどまで、俺たちはバスの中に乗っていた筈だ。


 なのに、バスの窓や他の乗客たちが見当たらない。それに、先ほどまで俺が腰を下ろしていた筈の座席や、抱きしめていた筈の妹も見当たらない。目を開けているというのに、未だに目を瞑ったままなのではないだろうかと思ってしまうほどの暗闇の中に、自分の身体が浮遊している。


 確かにバスはガードレールを突き破って転落した筈だ。バスがガードレールを粉砕した時の金属音や、乗客たちの悲鳴ははっきりと覚えている。ということは、ここがあの世だとでもいうのか?


 全く明かりがない真っ暗な空間を見渡していると、いきなり目の前の何もない空間が紅い光を放ち始めた。火の粉のような小さな光は凄まじい勢いで成長すると、俺の目の前で形を変え、文字の群れへと変貌する。


「これは………?」


 そこに表示されたのは――――――日本語で書かれたメッセージだった。


《速河力也様、異世界へようこそ!》


「…………はっ?」


 い、異世界?


 首を傾げながらメッセージを凝視していると、どういうわけか俺を歓迎してくれたメッセージが砕け散った。バラバラになった真紅の光の破片が再び互いに結び付き合うと、今度は先ほどのメッセージよりもかなり小さな光の塊へと変化していく。


 やがて、その紅い光たちは携帯電話を思わせる小さな端末へと変貌した。


 真っ暗な空間の中に浮かんでいるその端末に、恐る恐る手を伸ばす。端末の大半は画面で構成されていて、そのすぐ下に電源と思われるボタンが1つだけある。他にボタンが何もないという事は、基本的には電源を入れてから画面をタッチして操作するという事なのだろうか。


 奇妙な端末のボタンを押すと、画面にまたメッセージが表示される。


《この端末では、様々な武器や能力を生み出し、それらを装備したりすることができます。これから力也様が向かう異世界では必需品となるでしょう。なお、バッテリーが切れることはないのでご安心ください》


 バッテリーが切れないって凄くないか? これ作ったの誰だ?


 それと、武器や能力を生み出せるってどういう事だ? この端末で本物の武器を作れるってことか?


 首を傾げながらそのメッセージを見ていると、メッセージが消滅し、今度はまるでゲームのメニュー画面を思わせる画面が表示された。真紅の結晶をいくつも組み合わせたかのような背景の前に、『武器や兵器の生産』、『武器や能力の装備』、『ステータス』の3つのメニューが表示される。


 ステータスは何なのだろうかと思いつつ、一番右側にあるステータスをタッチする。すると背景の真紅の結晶が砕け散り、画面に俺の名前とステータスとレベルが表示された。


 当たり前だが、レベルはまだ1だ。ステータスは攻撃力、防御力、スピードの3つのみで、全て100になっている。


 まるでゲームみたいだ。


《レベルが上がるとポイントを手に入れることが出来ます。ポイントは武器と能力の生産に使用することが出来ます》


 なるほどな。


 説明文が消えるのを待ってから、画面の下にあったボタンを押してさっきのメニューに戻り、今度は『武器や兵器の生産』のメニューをタッチした。


 今度は『武器の生産』、『兵器の生産』、『能力の生産』の3つのメニューが出現する。能力よりも武器の方が気になった俺は、とりあえず先にそっちをタッチする。兵器も気になるけれど、まず先に武器の方を見てみるとしよう。兵器の方はある程度ポイントが溜まってから使い始めるべきだ。


「…………おおっ!」


 ずらりと並んだ武器の項目を見て、俺は少しばかりはしゃいでしまった。項目の中には剣や槍などの近距離武器がずらりと並んでいたんだが、項目の下の方にはちゃんと『銃』と書かれた項目がある。他にも弓や杖などの項目があったが、銃に目を奪われてしまっていた。


 友人の影響で、中学の頃からミリオタになっちゃったんだよね。


 銃をタッチすると、ハンドガンやアサルトライフルなどの様々な種類の銃が表示される。けれども、どういうわけかアサルトライフルやマークスマンライフル等の武器はタッチしてもメニュー画面を開く事ができなくなっている。


《レベル50以上にならなければアンロックできません》


 くそったれ、まだアサルトライフルは作っちゃダメなのか。真っ先にAK-47を作ろうと思ったんだが。


 舌打ちをしてから、大人しくボルトアクションライフルの項目をタッチする。どうやらこういう古い銃ならば生産できるらしい。メニュー画面が開いたかと思うと、第一次世界大戦や第二次世界大戦で活躍した様々なボルトアクションライフルの名前と画像がずらりと表示された。


 けれども、この中にも生産できない銃があるらしく、『×』と表示されている銃も見受けられる。


《現在、ポイントは1000ポイントあります。そのポイントで初期装備を決めてください》


 初期装備か。最初から用意されてるわけじゃないんだな。


 とりあえず、俺は生産できるライフルの中からフランス製ボルトアクションライフルの『ルベルM1886』を選んだ。現在のライフルにも使われている”無煙火薬”と呼ばれる強力な火薬を初めて使えるようになった代物である。


 従来のライフルには、発射した際に白い煙を発する”黒色火薬”という火薬が使われていた。けれどもこの火薬は貧弱で、破壊力を底上げするには火薬の量を増やして弾丸をでっかくしなければならない―――――昔のマスケットの中には75口径の弾丸を使う物もあった―――――という欠点があった。


 けれども、この無煙火薬は殆ど煙を出さないし、破壊力も黒色火薬の比ではなかったのである。


 このルベルM1886は、”ボルトアクション式”と呼ばれる方式の銃だ。一発ぶっ放したら、ライフルの側面にあるボルトハンドルと呼ばれる部品を操作しなければならないため、連射速度はそれほど速くはない。けれども破壊力は極めて高いし、命中精度も優秀だ。


 ボルトアクション式のライフルは第一次世界大戦や第二次世界大戦の主役だったけど、現在でもスナイパーライフルとして活躍している。


《武器は生産するだけでなく、自由にカスタマイズすることが可能です。カスタマイズにも少量のポイントを使用します》


 しかもカスタマイズまでできるのか。最高じゃないか!


 よし、最終的に全部の種類の銃を生産してカスタマイズしまくってやろう………!


 とりあえず、10ポイントを使ってルベルM1886にスパイク型の銃剣を装備しておく。これならば、ボルトハンドルを操作している最中に突っ込んできた敵をこいつで串刺しにしてやることが可能だ。


 次はハンドガンにしようかと思ったが、ポイントがもう40ポイントしか残っていない。何か生産できるかもしれないが、このポイントは念のためとっておくとしよう。できるならばサイドアームも欲しいところだけど、銃剣付きのボルトアクションライフルならある程度は接近戦もできるからな。


《では、これより異世界へと向かいます》


「ちょっと待て。異世界ってどういうことだ?」


 端末の画面に浮かんだ文字へと思わず俺は聞いてしまう。当然ながら返事などなかった。


《速河力也様、頑張ってください!》


「頑張ってくださいじゃねーって!」


 本当にどういう事なんだよ? 異世界って何だ?


 俺はいくつも疑問を浮かべたが、突然現れた真っ白な光が、俺のその疑問たちを一気に薙ぎ払うかのように広がり、俺の事を呑み込んだ。


 そういえば、明日花は無事なのだろうか。


 もしかすると、彼女もこの真っ暗な空間へと迷い込んで、同じようにこの不思議な端末を与えられて異世界に行ってしまったのかもしれない。


 異世界に辿り着いたら、明日花を探そう。


 そう思いながら、俺は真っ白な光を睨みつけた。









 異世界で妹に会えるかもしれないと思っていた。







 けれども――――――俺は、その異世界で全てを失うことになるのだった。







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