表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
195/744

襲撃艦隊


 ずらりと副砲が搭載された戦艦の船体が、真っ二つに折れる。巨大な火柱が分厚い装甲を抉り、側面から十重二十重に突き出た副砲の砲身をへし折った。


 ヴァルツ海軍の戦艦に牙を剥いたのは、テンプル騎士団主力打撃艦隊と真っ向から戦っているヴァルツ軍の後方から現れた、駆逐艦ヴェールヌイ率いる極めて大規模な水雷戦隊であった。駆逐艦は船体が小型であるため、転移で使い捨てにするためのフィオナ機関という贅沢な装備を搭載できない。そのため、戦艦や空母などが転移で戦闘海域へ急行せざるを得ない場合は、転移ができない駆逐艦や潜水艦は置き去りにされてしまうのである。


 護衛を務める駆逐艦たちがいない状況で敵艦隊の真正面に立ちはだかるのは極めて危険な策だが、ヴィンスキー提督はその欠点を逆手に取り、主力打撃艦隊と水雷戦隊による挟撃を成功させた。


 主力打撃艦隊とヴァルツ主力艦隊が正面から砲撃戦を繰り広げている間に、ヴェールヌイ率いる水雷戦隊は戦闘海域を迂回し、ヴァルツ艦隊の後方へと回り込んでいたのだ。切り札である虎の子の主力打撃艦隊そのものを囮にする極めて大胆な作戦である。


 切り札が陽動だと見破るのは、難しいと言えるだろう。


 ジャック・ド・モレー級による熾烈な44cm砲の砲撃も、この奇襲作戦の成功に貢献したと言っていい。利点の1つである速い連射速度のおかげで、敵艦隊の周囲は常に巨大な水柱に囲まれている状況だ。しかも見張り員たちは正面の主力打撃艦隊を凝視している状況であるため、後方から接近する別の大艦隊を探す余裕などない。


 提督の作戦と、ジャック・ド・モレー級が誇る44cm砲の集中砲火によって守られた水雷戦隊たちは、増設された魚雷発射管から無数の533mm魚雷を発射し、敵艦隊を次々に海の藻屑にしていった。


 魚雷発射管に装填されていたのは、ステラ博士がこの海戦の前に試作していた”533mm複合魔力魚雷”と呼ばれる代物である。対転生者用の強装徹甲弾や対転生者榴弾のように、通常の炸薬に高圧魔力を添加することで破壊力を高めた魚雷だ。高圧魔力を添加した恩恵によって、破壊力と射程距離が更に向上しており、一撃でも命中すれば超弩級戦艦を航行不能にできるほどの攻撃力を誇る。


 更に、まだ試作段階ではあるものの、魚雷の先端部に搭載した魔力誘導装置によって、ロックオンした敵艦に向かってある程度は誘導する事ができる。とはいってもこの装置はまだ信頼性に難がある上に、敵からの魔力ジャミングによって無効化される恐れもある。


 実際に、水雷戦隊が放った533mm魚雷の6割は命中せず、回避しようとする戦艦や巡洋艦の舳先を掠めたり、戦艦たちの艦列の間を通過して、海中で炸薬と魔力による爆発を発生させた。


 魚雷による攻撃を終えた駆逐艦たちが、主砲で敵艦隊に攻撃しながら離脱を開始する。離脱の最中に何隻かのレニングラード級がヴァルツ艦隊からの砲撃で撃沈されたり、大破する羽目になってしまったものの、旗艦であるヴェールヌイや他の駆逐艦たちが殿となった事と、主力打撃艦隊からの攻撃があまりにも熾烈で駆逐艦の相手をしている場合ではない事が功を奏し、大半の駆逐艦たちが離脱に成功した。


 ヴァルツ艦隊が、一時的に水雷戦隊の応戦のためにそちらへと砲撃を始めたのを確認したヴィンスキー提督は、ジャック・ド・モレーにのみ用意されているCICでオペレーターに命じた。


 ”襲撃艦隊”を出撃させよ、と。



















「提督、3時の方向に転移反応を観測!」


「何?」


 撤退していく水雷戦隊への攻撃を止めさせ、ジャック・ド・モレーにのみ攻撃を集中させるように命じようとしていたヴァルツ軍の提督は、魔力観測員の報告を聞いて強烈な違和感を感じた。


 明らかに、味方艦隊が転移してくる場所ではない。下手をすれば敵艦隊が側面から回り込んでくる恐れもあるため、今の状況では後方へと転移し、戦っている艦隊と合流するのが鉄則と言える。


 その鉄則を無視して転移してくるのは、平然と命令違反をする大馬鹿野郎か、敵艦隊しかいない。


 後者なのではないか、という疑念が、違和感をじわりと侵食していく。魔力観測員が「質量投射、来ます!」と報告した直後、艦隊の側面に巨大な水柱が噴き上がった。


 艦艇が転移してくる時の特徴だ。転移の際に周辺の海水まで一緒に転移してしまうため、質量投射と同時にあのような水柱が出現するのだ。


 次の瞬間、その巨大な水柱の中から、巨大な大剣を彷彿とさせる物体が突き出た。大昔の歩兵が持つ大剣とは比べ物にならないほど巨大だ。そのまま戦艦へと衝突すれば、分厚い装甲で覆われている戦艦だろうと容易く真っ二つにしてしまうに違いない。


 その大剣のような巨大な衝角を見た瞬間に、ヴァルツの提督は理解した。


 あれは味方の艦ではない、と。


 確かにヴァルツ海軍の戦艦にも、艦首に衝角は搭載されている。だが、艦艇の航行に支障が出るほど巨大な衝角は製造された記録がないし、そのような戦艦を試作したという話も聞いたことがない。第一、艦首に搭載された衝角が海戦の主役だったのは大昔の事であり、現代では主砲が主役だ。時代遅れの衝角は、海戦の脇役でしかないのだ。


 その脇役を強引に主役にしてしまったかのような戦艦が、水柱の中から姿を現す。


「じゃ……ジャック・ド・モレー級………!」


 その船体は、ジャック・ド・モレー級と殆ど同じであった。


 舳先には大剣を彷彿とさせる巨大な衝角が搭載されており、その一部が海面から覗いている。前部甲板と後部甲板には55口径44cm4連装砲も搭載されており、艦橋やマストの周囲には対空砲がこれでもかというほど搭載されていたが、時代遅れであるにもかかわらず、提督たちはそのような一般的な武装よりも一瞬だけあらわになった巨大な衝角の方を脅威だと感じていた。


 更に、その奇妙な戦艦の後方に、立て続けに5つの水柱が出現する。その中から姿を現したのは、ジャック・ド・モレー級戦艦の準同型艦1隻と、ソビエツキー・ソユーズ級戦艦4隻である。


 ジャック・ド・モレー級の準同型艦は、他のジャック・ド・モレー級のように44cm砲を搭載するのではなく、一回り小型の40cm砲を搭載しているようだった。火力は低下しているとしか言いようがないが、その代わりに55口径40cm4連装砲を5基も搭載しているため、強力な弾幕を張る事ができるのは想像に難くない。


 後続のソビエツキー・ソユーズ級戦艦も、船体がやや大型化されており、主砲が40cm3連装砲から40cm4連装砲に換装され、攻撃力が更に底上げされているようだった。


 敵艦隊です、と見張り員が叫ぶよりも先に、一番最初に転移してきた戦艦『エイナ・ドルレアン』が進路を変え――――――応戦しようとしていたヴァルツ軍の装甲艦を、巨大な衝角で貫いた。




















「最大戦速だ野郎共! ヴァルツのクソ野郎共を真っ二つにしてやれぇ!」


『『『『『おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』』』』』


 戦艦『エイナ・ドルレアン』の艦橋の中に響き渡った艦長の声は、軍艦の艦長が乗組員たちに命令する声とは程遠いとしか言いようがなかった。命令というよりは罵声と言うべきだろうか。軍隊の無機質な命令というよりは、海賊船の船長が部下に命令しているかのような荒々しさである。


 実際に、エイナ・ドルレアンの乗組員の殆どは”元海賊”で構成されている。


 海賊が”絶滅”したのは、テンプル騎士団三代目団長『ヒロヤ・ハヤカワ』の時代と言われている。彼の説得によって多くの海賊たちが海賊を辞め、海賊船に乗っていた経験を生かしてテンプル騎士団海軍に入隊し、優秀な乗組員たちとして活躍していく事になる。


 襲撃艦隊の旗艦を務める戦艦エイナ・ドルレアンの乗組員たちも、ヒロヤによって説得され、テンプル騎士団海軍(タンプルネイビー)となった者たちである。乗組員の殆どが寿命の長いハーフエルフで構成されているため、海賊を辞めてからはある程度老いているものの、海賊船に乗っていた頃から高められていた堅牢なチームワークは未だに錆び付いていない。


「艦長、どれを狙う!?」


「あの装甲艦だ。でっかいのをぶち込んでやろうぜ!!」


「おお! 最大戦速! 目標、正面の装甲艦!」


 海賊船の船長だった艦長の命令によって、エイナ・ドルレアンは一気に加速した。後続の味方艦隊を置き去りにして加速した304mの巨体にヴァルツ艦隊の砲撃が命中するものの、戦艦大和に匹敵する防御力を誇るジャック・ド・モレー級の船体は攻撃を意に介さない。殆どを弾き飛ばし、無傷と言ってもいいほど損害が小さい状態を堅持しながら、哀れな装甲艦への肉薄へと成功してしまう。


 かつて”奴隷解放の母”と呼ばれたカノン・セラス・レ・ドルレアンの出身地であるオルトバルカの都市の名を冠した戦艦とは思えないほど、エイナ・ドルレアンの突撃は熾烈であった。


 めきっ、と装甲が軋む音と同時に、バギン、と装甲が断たれる金属音が艦橋の中に響き渡ったと思いきや、舳先で無数の金属の破片や火花が舞い、敵艦の小さな船体が傾いた。もっと加速する事ができていたのであれば、きっと罪人の首を断つギロチンのように敵艦を真っ二つにする事ができていたかもしれない。


 大剣を思わせる衝角が装甲艦の船体に食い込み、そのまま亀裂を広げていく。エイナ・ドルレアンの全長304mの船体に激突された哀れな装甲艦は、体当たりを受けて浸水したという報告を乗組員が艦長へ伝えるよりも先に、衝角によって船体を真っ二つにされてしまった。


 浸水し始めた敵艦の船体を突き飛ばし、エイナ・ドルレアンは強引に前進していく。切断された装甲艦の船体が擦れる音や、砲弾が船体に命中して跳弾する音が十重二十重に艦内に響き渡るが、エイナ・ドルレアンの艦長はその轟音を意に介さない。むしろ、その恐ろしい金属音を聞きながら口笛を吹き、部下が用意したラム酒を口へと運んでいた。


 エイナ・ドルレアンが正面の敵を巨大な衝角で切断し、44cm4連装砲で次々に粉砕していく。後続の戦艦『アドミラル・アントン』も5基の40cm4連装砲を旋回させ、先頭を進むエイナ・ドルレアンを砲撃しようとする敵艦隊へと、ソビエツキー・ソユーズ級たちと共に40cm砲の嵐を叩き込む。


 アドミラル・アントンは、他のジャック・ド・モレー級とは異なり40cm砲を搭載している。元々は主砲の数を増やすことによって攻撃力の増加を図った準同型艦であり、この艦以降に建造されるジャック・ド・モレー級は”後期型”と呼称され、同様の改修を受けることになっていたが、それが実現する前に44cm砲が実用化されてしまったため、40cm4連装砲を5基も搭載している艦はこの艦のみとなってしまった。


 しかも、44cm砲に換装すると重量オーバーとなってしまうため、アドミラル・アントンのみは44cm砲への換装を見送られてしまっている。攻撃力を強化するための改修を受けた艦が、結果的に他の姉妹に攻撃力で劣ってしまうのはあまりにも強烈な皮肉である。


 だが、合計20門の40cm砲を連射できるということは、非常に濃密な弾幕を相手にお見舞いする事ができることを意味する。装填装置の改良で10秒以内に砲弾の再装填を行うことが可能になったジャック・ド・モレー級の砲塔を1基増設するだけで、その攻撃力は爆発的に向上すると言ってもいい。


 エイナ・ドルレアンを狙う戦艦たちが、次々に40cm砲の徹甲弾に穿たれていく。主砲もろとも前部甲板を削ぎ落とされた敵艦が行動不能になり、そのままエイナ・ドルレアンの衝角に貫かれて真っ二つになる。一矢報いるために駆逐艦たちがエイナ・ドルレアンへと肉薄を試みるが、砲撃だけでなく衝角による体当たりも想定して建造されたエイナ・ドルレアンは速度も非常に速い。魚雷の射程距離に入る前に振り切られてしまい、追撃すらままならない。


 エイナ・ドルレアンを取り逃がしてしまった駆逐艦たちはアドミラル・アントンへと標的を変更するが、肉薄する前に40cm砲の濃密な弾幕に呑み込まれた。


 アドミラル・アントンの後方を航行するソビエツキー・ソユーズ級たちも、ジャック・ド・モレー級と同じくテンプル騎士団製の装填装置を砲塔に搭載した恩恵で、連射速度が爆発的に向上していた。砲撃を終えた砲身が下がっていったかと思いきや、数秒後に再び仰角を元の角度へと戻して砲撃し、また先ほどの位置まで下がっていく。


「艦首魚雷発射管、1番から4番まで注水!」


「もう済んでますぜ、艦長!」


「よーし、ぶっ放せェ! 財宝を積んでない敵艦なんか沈めちまえェ!」


「沈めぇ!!」


 エイナ・ドルレアンの衝角の付け根にも、他の同型艦(姉妹)たちと同じく533mm魚雷発射管が4門も搭載されている。既に解放されていた発射管から立て続けに533mm魚雷が躍り出たかと思いきや、主砲と副砲を連続で放って必死にエイナ・ドルレアンを攻撃する前弩級戦艦の船体を直撃した。


 火柱が船体を抉り、剥がれ落ちた副砲やひしゃげたマストが千切れ飛ぶ。魚雷に抉られた大穴に巨大な衝角を突き立てて船体を切断したエイナ・ドルレアンは、そのまま爆炎の真っ只中を通過し、慌てふためくヴァルツ艦隊を衝角で真っ二つにしていった。


 30cm砲の集中砲火ですら、止められない。


 荒々しい海賊たちが操る怪物は、全く止まらない。






















「襲撃艦隊、敵艦隊の分断に成功!」


「海賊共め、やりおるわ」


 報告を聞きながら、ヴィンスキー提督はニヤリと笑った。口は荒い上に下品な連中ではあるものの、大昔から船に乗っている熟練の乗組員が多いため、彼らの技術と連携はテンプル騎士団海軍(タンプルネイビー)創設時から生き残っているベテランと同等と言っていい。


 彼らを殺さずに説得し、戦力としたヒロヤの判断は正しかったと言えるだろう。


 CICの正面にある巨大な魔法陣には、敵艦隊の側面に転移した襲撃艦隊がヴァルツ主力艦隊の分断に成功した事が表示されていた。ヴァルツ艦隊の陣形は完全に前後に分断されており、反対側から離脱する襲撃艦隊には1隻も損害が出ていない。


「よし、襲撃艦隊はそのまま敵艦隊を側面から攻撃。全艦、分断された敵の前衛艦隊から叩くぞ。最大戦速!」


「最大戦速! 目標、敵前衛艦隊!」


 ジャック・ド・モレー率いる主力打撃艦隊が、日が昇り始めた海原を進んでいく。


 海原での海戦は、テンプル騎士団の大勝利と言ってもよかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ