端末のアップデート
いつも書きながら思うんですけど、こうなるシリーズに登場したキャラで一番人気あるキャラって誰なんでしょうね………。
個人的にはナタリアかイリナ辺りなんじゃないかなとは思うんですが。
動かなくなった死体を塹壕の中に隠してから、返り血で禍々しい迷彩模様と化した義手を握り締める。今しがた義手の”爪”で首筋を貫かれて絶命したのは、一般的な歩兵と比べると少しばかり豪華な服を着ていて、首とか胸元に勲章を付けた将校だった。
周囲を見張っていたコレットに合図を送り、標的を仕留めた事を伝えてから姿勢を低くして、仲間と共に敵の塹壕を後にする。
サプレッサー付きのStG44を構えながら周囲を警戒するが、ヴァルツ軍の間抜け共は自分たちを指揮する将校が暗殺されたことに気付いていないらしい。未だに対空砲を夜空に向け、曳光弾で空を舞う爆撃機を攻撃している。だが、テンプル騎士団の爆撃機は想定しているよりも高い高度を飛んでいるようで、砲弾は爆撃機たちが飛んでいる高度へ到達するよりも先に炸裂して、爆炎を生み出している。
迎撃が夢中になっている隙に逃げるとしよう。
第二分隊を指揮するヴラジーミルたちと合流し、仲間に損害が出ていないかチェックする。今回の任務はベテランの多い第一分隊や第二分隊だけでなく、増員されたことで第二部隊から繰り上げられた新人たちも一緒に参加している。新人とはいっても、俺たちのように記録が残らない極秘の部隊ではなく、しっかりと記録の残る部隊だった連中だから錬度は十分だ。問題はそいつらの代わりに第二部隊に入隊した連中だな。
「仕留めたか」
バラクラバ帽とヘルメットをかぶったヴラジーミルがサプレッサー付きのStG44を構えながら尋ねてくる。首を縦に振り、標的を仕留めた事を伝えると、彼は「さすがだ」と言いながら笑った。
最近、転生者と戦場で遭遇する事はなくなった。春季攻勢を頓挫させられることを防ぐためなのか、転生者は本国の方へと引き戻されているらしく、ヴァルツ帝国軍は転生者ではなく通常の部隊で連合軍を食い止める羽目になっているようだ。おかげでこっちの損害は減っているし、敵もそれほど脅威ではない。
おかげで、最近の標的は調子に乗っている転生者ではなく、経験豊富な敵の将校へと変わっていった。何か変わったのかなと思いながらこういう任務を受けているんだが、正直に言うと何も変わらない。サプレッサー付きの銃で狙撃したり、油断している標的に忍び寄って首を切り裂いてやるくらいである。
殺す感覚は、何も変わらない。
「あいつら、朝になったらびっくりするでしょうね」
「いや、朝になる前に気付くだろ。俺はそっちに賭ける」
「分隊長、前もそっちに賭けて惨敗してたじゃないッスか」
撤退しながら、第二分隊の連中はそんな雑談をしていた。第一分隊でそういう賭けをする事はないんだが、第二分隊ではどうやら”将校が暗殺されたことに敵がいつ気付くか”という賭けが流行っているらしい。
物騒な賭けだな、と思いながら、輸送機が待っている合流地点へと向かった。
最近、朝起きるのが怖い。
夢が終わり、目を覚ましたのだという感覚を感じる度にこの恐怖は襲ってくる。毛布の感触以外になにも感じなければ問題はないけれど、首筋とか胸板の辺りに柔らかい感触がしたらその恐怖は確定する。
今日はどうやら、”彼女”がいるらしい。
ゆっくりと瞼を開けながら、ベッドの左側の方をそっと見る。この部屋には2人用のベッドと1人用のベッドが置かれていて、俺は1人用のベッドを使って眠っている。2人用のベッドはハヤカワ姉妹が使っており、領土侵犯をするとサクヤさんの尻尾で思い切りぶん殴られる。
だが、領土侵犯を受けているのは俺の方らしかった。
「ん………」
1人用のベッドで眠る俺のすぐ隣で、パジャマ姿の金髪の美少女が眠っている。美しい金髪の中からは狼の耳が生えていて、腰の後ろからは尻尾が生えているのが分かるんだが、耳と尻尾を覆っている体毛が黄金だからなのか、狼というよりは狐を思わせる。
そう、シュタージの指揮官であるクラリッサである。
「………」
大佐、何やってるんですか。
どうやらこの部屋の合鍵を用意しているらしく、最近は勝手に部屋の中にいることが多い。しかもこうやって勝手に俺の隣で眠っている時は、朝早く起きるセシリアが素振りに行っている間に侵入してくるらしく、彼女と鉢合わせになることもないらしい。
セシリアもこうなっている事を察知しているらしく、最近では素振りに行く前に入口の所にSマインを設置している。けれどもクラリッサはパジャマ姿でそれを回避して、俺のベッドで一緒に眠っている。
2人とも、危険なのでマジでやめてください。この前トイレに行こうとしてSマインのワイヤーに引っかかりそうになりました。
トイレに行こうとして死にかけた時の事を思い出している内に、ベッドの中に侵入していた金髪の美少女が目を覚ました。
「あ、おはよう。相変わらず君の寝顔は可愛いね♪」
「何やってんですか大佐」
「もうっ、敬語は使わなくていいって言ったじゃん。名前で呼んでもいいわよ?」
「クラリッサ、こんな所をセシリアに見られたら殺されるんだけど」
とりあえず、ベッドから出ましょう。
そう思いながら毛布の中から足を延ばし、床を踏みしめる。だが、そのまま立ち上がろうとするよりも先に、肉球の付いた真っ白な手が伸びてきて、再びベッドの中に引き戻されてしまう。
「ふふふっ、まだ団長が戻ってくるまで時間があるわよ♪」
「サクヤさんにバレる」
「あの人が起きる時間も調査済みだから問題ないわ」
彼女がそう言いながら、肉球の付いた手で俺の頬を撫で始めたその時だった。クラリッサを撃退するために入り口に設置されていたSマインがいつの間にか消えていたかと思うと、勢い良く扉が開いたのである。
入り口から突入してきたのは、銃剣付きの一〇〇式機関短銃を構えたセシリアさんでした。
「力也、その女と何をしている………!?」
「い、いや、違うんだボス」
「あら、いつもより早いわね」
「今日はいつもより早めに素振りを切り上げてきたのだ」
入り口のドアを閉め、銃剣付きの銃をこっちに向けながらゆっくりと近付いてくるセシリア。マジで殺されるかもしれないというのに、まだクラリッサはニコニコしながら俺の頬を肉球の付いた手で撫で回している。ぷにぷにしてて気持ちいいんだけどそろそろやめてほしい。
「覚悟はいいか、2人とも」
何で俺まで含まれてるんでしょうか。ボス、俺は被害者なんですが………。
頬を撫で回していたクラリッサの手が離れたと思った次の瞬間だった。
バチン、と甲高い音が響いたかと思いきや、いつの間にか一〇〇式機関短銃の銃身に、漆黒の鞭のようなものが絡みついていたのである。
「!?」
「仲間に銃を向けちゃダメじゃないの♪」
隣にいるクラリッサは、いつの間にか漆黒の鞭を取り出していた。どこに隠していたのだろうか、と思っている内に、クラリッサは鞭を使ってセシリアから一〇〇式機関短銃を奪い取ってしまう。彼女の筋力ならば奪われることはなかったとは思うんだが、クラリッサが丸腰だと思い込んで油断していたのが仇になったらしい。
くるくると回転しながら宙を舞った一〇〇式機関短銃が、どすっ、と俺の頭の1cmほど脇を掠めて枕に突き刺さる。殺す気かお前ら。
「安心しなさい、団長。力也くんに変な事はしてないわ。食べようかなって思ってたけど」
「くっ………!」
「ほらほら、そんな事よりシャワー浴びてきなさいな。あ、力也くん。今日は私にも朝ご飯作ってほしいわね。お腹空いてるの」
「あ、ああ」
今日は焼き魚でいいよな………。
そんな事を考えながら、ベッドから起き上がってキッチンへと向かう。多分、クラリッサが部屋を後にしてからもセシリアは不機嫌なままだろう。彼女にこういう事をされると、いつも彼女は不機嫌になる。
味噌汁に油揚げを入れておこうと思いながら準備していると、パジャマ姿のクラリッサがシャワールームの扉を開けやがった。
「突入ぅー♪」
「なっ!? 貴様、何をしている!?」
「私もシャワー浴びようかなって。一緒に浴びましょ?」
「こ、断るっ! 誰が貴様のような奴と………!」
「そんな事言わないでよー♪」
服を脱ぎながらドアを閉めるクラリッサ。シャワールームの方から聞こえる声を聞きながら、俺は昨日購入した鱈を冷蔵庫の中から取り出す。
『んっ………! や、やめろっ、胸を触るんじゃない! ――――――ひゃんっ!?』
『あらあら、私と同じくらいの大きさかしら? 力也くーん、判定お願いできるー?』
「やめてくださいマジで」
何なの、あの人。
妹が洗面所で胸を触られているというのに、未だに眠っているサクヤさんの方を見て苦笑いしながら、俺は朝飯の準備を続けた。
エレベーターのボタンを押し、居住区から研究区画へと降りていく。当然だが、住民が行き来できる区画は軍人と比べると少ない。俺はボスのお気に入りらしいので新兵だった頃から色々と権限を与えられていたが、軍人でも行き来できる区画は制限されているという。
研究区画もそういった制限がある区画の一つだ。テンプル騎士団が古代文明の遺跡から大昔の技術を発掘したり、パラレルワールドの技術の解析を始めてから、その制限はさらに厳しくなった。
だから、団長直属の特殊部隊であるスペツナズの指揮官とか、未だに俺の頬を撫で回しているシュタージの指揮官じゃなければ中へ入ることはできない。
「何で一緒に来るんだ」
「あら、ダメ? 私も気になるんだけど」
研究区画へと到着したエレベーターから降り、警備兵に身分証明書を提示してから、魔力認証を済ませて隔壁を通過する。
研究区画の中には、秘匿区画の中で発見されたコンテナが既に運び込まれていた。いくつかのコンテナはもう開けられていて、中に収まっていた結晶のような物体――――――異世界の物質なのだろう――――――を数人の研究者が調べている。
あの物質が何なのか気になるが、ここにやってきた目的はそれを調べることではない。フィオナ博士に端末の事で呼ばれているからだ。
フィオナ博士の研究室のドアをノックすると、中から『はーい、どうぞー』と優しそうな声が聞こえてきた。ドアを開けてクラリッサと一緒に中に入ると、白衣に身を包んだフィオナ博士が、ニコニコしながら作業台の上の端末を拾い上げ、こっちにやってきた。
「はい、整備終わりましたよ」
「どうも」
転生者の端末は、彼女に預けていた。
何故かと言うと、最近あの端末の動作不良が増えてきたからだ。画面をタッチしてもなかなかメニュー画面が開かなかったり、生産した筈の武器が生産されていないことになっていることがあるので、博士に整備を依頼していたのである。
「原因はデータが増えたせいで端末が混乱していた事でした」
「データが増えた?」
「ええ。端末に他の転生者の端末から取ったパーツを取り付けたりしてたじゃないですか。そういう改造は想定していなかったみたいで、そのせいでプログラムがごちゃごちゃしてたんです。整理するついでにいくつかアップデートしてみたので、試してみてください」
アップデートまでしてくれたのか。それはありがたい。
電源を入れて画面をタッチしてみると、確かに項目が増えていた。
「………スキル?」
「ええ。追加した機能です」
タッチすると、5つの空欄と『スキルの生産』というメニューが姿を現した。
「その5つの空欄にスキルを装備できるようにしました」
「どういうスキルがあるんだ?」
「攻撃力とかスピードを上げたり、足音を消すスキルがあります。見てみてください」
スキルの生産をタッチしてみると、ずらりと大量のスキルが表示された。一番上には『攻撃力アップ(レベル1)』と表示されており、そのすぐ下には『攻撃力アップ(レベル2)』と表示されたスキルがある。
「この”レベル”ってなんだ?」
「スキルの強力さです。レベル1はレベル2よりも強力ではありませんが、空欄を1つしか消費しません。逆にレベル2はレベル1より強力ですが、空欄を2つ消費します」
そういうことか。
確かに、攻撃力アップのレベル1は攻撃力を10%上昇させるようになっているが、レベル2は25%になっている。レベル2の方が強力だが、その分装備できるスキルが減るから汎用性は低下するという事になる。
よく考える必要がありそうだ。幸運なことに、スキルの生産に必要なポイントの量はそれほどでもない。レベル1なら50ポイントもあれば生産できるし、レベル2でも80ポイントで済む。
「博士、このスキルって同じスキルを装備した場合はどうなる?」
「もちろん2つ分の効果がありますので、1つのスキルを特化させるのも面白いかもしれませんよ?」
特化か………。
全部の空欄に攻撃力アップを付けたらどうなるんだろうなと思ったが、俺は元々初期ステータスのままだから、それほど強力にはならないかもしれない。
この”クリティカルヒット”って何なんだろうと思いながら端末を覗き込んでいると、博士がニコニコしながら言った。
「あ、装備に関しても変わってますよ」
「マジで?」
一旦元の画面に戻り、装備のメニューをタッチする。
確かに画面が変わっていた。ここにも6つの空欄があり、『メインアーム1』、『メインアーム2』、『サイドアーム1』、『サイドアーム2』、『近接武器』、『グレネード』の項目がある。
「武器は6つまで持てます」
「ちょっと不便になったな………」
「すみません、一番プログラムが大きかったのがここだったので………」
今までは装備できる武器に制限がなかったんだが、装備できる武器を制限されてしまうとは………。
「ちなみに、武器によっては空欄を2つ消費するものもありますのでご注意ください。例えば対戦車ライフルとか重機関銃はメインアームの空欄を2つ消費します」
え、マジすか。
不便だなぁ………。ということは、サイドアームも今まで以上にかなり重要になるというわけだ。
「それと………これも不便なのですが、右下に数値がありますよね?」
「ああ」
確かに、右下には”100”と表示されているのが分かる。
「それは重量制限です。装備ごとに重量ポイントがあるんですが、装備している武器の重量ポイントの合計がその数値を上回ると、上回った分だけスピードのステータスがマイナスにされます。ご注意ください」
「えぇ!?」
「あっ、でもスキルの中にはその上限を増やすスキルとかもありますから、そっちで補ってくださいね」
随分と不便になったなぁ………。
「分かった。ありがとう、博士」
前世の世界でプレイしていたオンラインゲームで、愛用していた武器がアップデートで弱くなってしまった時の事を思い出しながら、端末をポケットに放り込むのだった。




