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異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる   作者: 往復ミサイル
第十一章 殺しの遺伝子、滅びの遺伝子
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力也の挑発、悪魔の報復


「くそったれ………」


 ヴァルツ帝国軍総司令部の兵舎にある自室のソファに座りながら、拳を思い切り握りしめる。


 ローラントの野郎と勇者の所に救出作戦の立案を要請しに行った日から、俺の部屋の前には腰にサーベルを下げた若い警備兵が居座るようになった。勇者かローラントのどちらかが、俺が命令違反して勝手に美海を救出に行くことを想定し、部屋の前に突っ立って監視するように命令したに違いない。


 あいつらが部屋の前にいるせいで、自室だというのに全く落ち着かない事にもイライラするが、一番イライラするのはいつまでたっても美海の救出作戦が立案される気配がないという事だ。


 帝国軍は来月に春季攻勢を実施する。その攻勢でオルトバルカ連合王国を降伏させ、連合国軍の挟撃を突破するのだ。そうしなければアナリア合衆国が準備を終えて参戦し、西部戦線にオルトバルカ軍に匹敵する大戦力を派遣する事だろう。


 春季攻勢の結果を左右するのは、選抜された転生者たちだけで構成された転生者部隊だ。圧倒的な戦闘力で敵軍の防衛ラインを突破し、オルトバルカの総司令部を襲撃して連合王国軍を壊滅させることが目的だという。俺もその転生者部隊の中の1人であるため、勇者たちからすれば攻勢が始まるまで虎の子の転生者部隊に損害を出したくないのだろう。


 数ヵ月前から、テンプル騎士団は特殊部隊を投入して積極的な転生者の暗殺を行い始めた。ぶち殺されちまった哀れな転生者の中には、春季攻勢に参加予定だった転生者が何人もいたという。そこで、総司令部の将校共は春季攻勢の頓挫を恐れ、攻勢に投入する転生者を本国へと呼び戻して、戦死してしまったとしても戦況に影響がない落ちこぼれの転生者を最前線へ残した。


 くそったれ、何で俺の彼女まで落ちこぼれ扱いされるんだ………。


 司令部の将校共が彼女もいっしょに本国へと呼び戻してくれていたら、彼女はテンプル騎士団の捕虜にならずに済んだというのに。


 テンプル騎士団は捕虜を受け入れない。仮に受け入れたとしても、拷問で情報を吐かせてから処刑するか、人体実験に使ってしまう。だからあいつらは俺たちのように大規模な強制収容所を持たないのだ。


 端末を取り出し、愛用している剣を装備する。まだテンプル騎士団兵と戦ったことはないが、どうせ他国の兵士と変わらないだろう。


「………」


 ローラントが救出作戦を立案しない理由は察している。


 ――――――美海を失っても問題がないからだ。


 美海は戦死してしまったとしても春季攻勢に影響がないから、俺と違って最前線に残されてしまった。だから彼女がテンプル騎士団に情報を吐かされることよりも、俺がその救出作戦で負傷したり戦死することの方を恐れている。


 くだらねぇ。

 

 無傷であいつらをぶっ殺してやれば問題はないだろうが。


 拳を握り締めてから立ち上がり、壁に掛けてある白い制服の上着を羽織る。軍帽をかぶった俺は、部屋の出口へと向かって歩き、堂々と扉を開けた。


 制服に身を包み、腰に剣を下げた状態で出てきた俺を見た若い警備兵が目を丸くする。勝手に美海の救出に行くとしたら、窓から外へと出るだろうと思っていたからなのだろうか。正々堂々と出てくるのは予想外だったに違いない。


「み、ミハラ様!」


 警備兵は慌てて俺の肩を掴んだ。


「ダメです、部屋に戻ってください。救出作戦が立案されるまでお待ちを――――――」


「待てるかバカ野郎ッ!」


 肩を掴んでいる警備兵の手を振り払い、そいつの胸ぐらを掴む。警備兵は慌てて手を払おうとするが、こっちはステータスのおかげで身体能力が大幅に強化されている転生者だ。訓練で体を鍛えていたとしても、こっちは微動だにしない。


「お前にだって、彼女とか家族がいるだろ? そいつらが敵に捕らえられて、拷問を受け続けてたらどう思う!?」


「で、ですが………ローラント中将のご命令で――――――」


「命令なんて関係ねえ! 俺はお前に聞いてるんだよ!!」


 分かるだろう………!?


 胸ぐらを掴んだまま、若い警備兵の目を睨みつける。命令通りに俺を部屋の中に連れ戻すべきか、黙認して行かせるべきか悩んでいるのだろうか。


「いいか、きっとあいつはテンプル騎士団の強制収容所の中で、拷問を受けながら助けを求めている筈だ! 見殺しにしろってことか!?」


「………」


 狼狽えている警備兵を睨み続けていたその時だった。


 唐突に、部屋の中から甲高い金属音が聞こえてきた。音を発しているのは、部屋の中にある棚の上に居座る古めかしい電話だ。前世の世界では殆ど目にする事はなかったし、家にある電話よりも携帯電話の方を使っていたから、あれを目にする度に強烈な違和感を感じてしまう。


 ローラントが作戦を立案してくれたのだろうかと期待しながら、警備兵の胸ぐらから手を離す。部屋の中へと戻り、喧しい電話から受話器を手に取った。


「もしもし」


『――――――久しぶりだな、三原くん』


 電話をかけてきた相手は、ローラントや勇者ではなかった。


 その声を聴いた途端に、全身がぞくりとしてしまう。猛烈な敵意と殺気を引き連れた低い声だ。いや、単純な殺気などではない。まるでこれから台の上に縛り付けた哀れな人間を人体実験に使おうとする、マッドサイエンティストが発するような狂気も混じっているのが分かる。


 俺は、その声を知っている。


 向こうの世界でも何度も聞いたし、その男に何度もボコボコにされて病院送りにされた。


 だが―――――――あいつは死んでいる筈だ。


 あの強制収容所で、最高の絶望と屈辱を刻み込まれたまま死んだ筈だ………!


 この電話は地獄からかかってきたのかと思っていると、電話の相手は嘲笑を始めた。


『妹を殺された俺の絶望は、少しは理解してくれたかな?』


「速河……力也………………ッ!」


 なぜ、こいつが生きている?


 ローラントの奴は力也の遺体は確認されなかったと言っていた。だが、あいつが生きているわけがない。勇者に手足を斬り落とされるという致命傷を負い、テンプル騎士団の襲撃が始まった強制収容所に放置されていたのだから。


『それにしても、さっきの発言はなかなか立派だったよ。お前は兵士よりコメディアンの方が向いてるな。事務所に推薦しておくとしよう』


「なに………………?」


『立派だったが、人の妹を嬲り殺しにしたお前にあんな発言をする資格はないよなぁ』


「て、てめえ………………聞いてたのか!?」


 ということは、近くにいるのか!?


 この兵舎のどこかにいて、俺を見張っていたってことか!?


「どこだ………力也、どこにいる!?」


『鼓膜をぶっ壊す気か馬鹿野郎。少し静かに喋れ』


 喧しそうにそう言った力也は、溜息をついてから言った。


『安心しろ、少なくともヴァルツ国内にはいない。ヴァルツ以外の”世界のどこか”からお前に電話をかけている。色々と話がしたくてな』


「話だと………? 死人の分際で、何の話を――――――」


『――――――美海の事だ』


「―――――――!」


 何でこいつが美海の事を知っている!?


 まさか………。


「てめえ、よくも俺の女を――――――」


『いちいち叫ぶな、喧しい。………………いいか、お前の女は我々テンプル騎士団が預かっている。このまま人体実験に使ってやろうかと思ったが、お前にとっては大切な人らしいな。だからチャンスをやる』


「チャンス………?」


『ああ、そうだ。基本的に相手にはチャンスとかヒントは与えない主義なんだが、今日だけは慈悲をくれてやる。いいか、よく聞け』


「………………」


『――――――三日後、旧フランセン領との国境の近くにあるクレイデリア連邦”ハピネティウス州”の閉鎖された遊園地に、お前の彼女を連れて行く。フランセン側からも錆び付いたでっかい観覧車が見える筈だから場所は分かる筈だ。彼女を愛しているというのなら、お前1人で助けに来い』


 ハピネティウス州………。


 確かに、旧フランセン領の国境のすぐ近くにその州はある。美海が観覧車を指差しながら、『あそこがまたオープンしたら行きたいね』と言っていた遊園地の事を思い出しながら、拳を思い切り握りしめた。


 あそこにいるっていうのか。


「一つ質問させろ、クソ野郎」


『どうぞ、クソ野郎』


「………………お前も来るんだよな?」


『それはもちろん』


 右手を腰の剣へと伸ばし、柄を掴んだ。そのまま鞘の中から白銀の刀身を引き抜いて、くるりと回してから床に切っ先を突き立てる。


 ドン、と剣を突き立てた音は、あのクソ野郎にも聞こえた筈だ。


「―――――――なら、美海を助けるついでに今度こそ殺してやる。葬式と棺桶の準備でもしておけ」


『ほう、楽しみだ』


 力也は、まるでこれから好きな映画を見に行くかのように楽しそうに答えやがった。威圧したつもりなのに、あいつはこっちが怒り狂っているのを聞いて楽しんでいる。


『とりあえず、用件は以上だ』


「待て。美海は無事なんだろうな?」


『ん? ああ、彼女か。元気だよ』


 本当に無事なのか?


 人体実験に既に使ってるんじゃないのかと疑っていると、力也は楽しそうに答えた。


『臭い牢屋の中で、3匹の発情期のゴブリンと一緒に”楽しんでる”よ。部屋の近くに行くといつも凄い声が聞こえてくるんだ。後でビデオ送ろうか?』


「ふざけるなぁッ!!」


『ハハハハハハハッ。それじゃ、三日後に会おう』


 笑いながらそう言った力也は、電話を切った。


 歯を食いしばりながら受話器を投げ飛ばし、先ほど床に突き立てた剣を思い切り引き抜く。べりっ、と床の一部が引き抜かれた刀身と一緒に剥がれて宙を舞う。


 思い切り鞘の中に剣をぶち込んでから、電話を思い切り殴りつけた。転生者のステータスで強化された拳に殴打された電話機が、まるででっかい金属製のハンマーに殴打されたかのようにひしゃげ、周囲に金属製の部品をぶちまける。


 力也の野郎、テンプル騎士団に拾われて生き永らえたのか………!


 しかも俺の彼女を発情期のゴブリンのいる牢屋の中に放り込んでいるだと………………!?


「ふざけやがって、クソ野郎がぁッ!」


 拳を握り締めながら踵を返し、後ろで恐る恐るこっちを見ていた警備兵の胸ぐらをもう一度掴んだ。


「いいか、今から俺は美海を助けに行く。命令違反だろうが軍法会議だろうが関係ない!」


「わ、分かっています………大切な人を、助けに行くんですよね………あの悪魔から」


 すると、警備兵は真面目な目で俺の目を見た。覚悟を決めたのか、先ほどのように怯えている様子は全くない。


「………………少々お待ちください。警備隊の制服と、移動用のバイクを用意します。その白い制服は目立ちますから」


「お前………いいのか………………?」


「………………僕にも、婚約者がいますから。気持ちは分かりますよ」


 そう言うと、若い警備兵は敬礼をしてから廊下の奥へと歩いて行った。












 現代では、定期的な魔物の掃討作戦が実施されていた時代よりも、魔物の価値は一気に上がったと言っていいだろう。


 剣が廃れてマスケットやボルトアクションライフルが主流になり、防具ではなく軍服を纏った兵士たちが機関銃や一斉射撃で敵を容易に蜂の巣にできるようになったことで、魔物の掃討作戦のハードルは一気に下がった。


 より高性能な対空砲が開発され、戦闘機が採用されたことで、ドラゴンも怖い相手ではなくなった。


 人類が一気に科学力を進歩させ、より効率的になった掃討作戦を繰り返した結果、数多の魔物たちが絶滅し、辛うじて生き延びた魔物たちは絶滅危惧種に指定された。


 だから、その絶滅危惧種に指定されているゴブリンを射殺した瞬間に、ちょっとした罪悪感を感じた。絶滅に拍車をかけてしまったのではないかと思うけれど、こんなに醜悪な生物が絶滅したらなにか悪影響でもあるのだろうか。


 床には3体のゴブリンの死体と、3つの9mm弾の薬莢が転がっている。どのゴブリンの死体も後頭部に風穴が開いていて、傷口から脳味噌の一部が覗いている。


 ルガーP08ネイビーをホルスターに戻してから、この3匹のゴブリンの相手をしていた哀れな少女に持ってきた毛布をかけた。


「ただいま戻りました」


「おかえり、エレナ」


 先ほど中央指令室に行ったエレナが戻ってきたらしく、部屋の入り口でこっちに向かって敬礼をしてから部屋の中に入ってくる。床の上に倒れているゴブリンの死体を一瞥した彼女は、毛布をかけられた美海の身体を軽々と持ち上げる。


 彼女は俺よりも小柄で体格も華奢だが、ホムンクルス兵の遺伝子も使って生み出されているため、筋力は一般的な兵士よりもはるかに上らしい。


「有休は申請しておきました」


「よし、よくやった」


 頼んだ通りに申請してきてくれた副官の頭を撫でながら、俺は笑った。


「それじゃ、遊園地に行くか」



 



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